16.
飯を食いながらもみんな自慢げに持っている武器を見せてくれる。オーガにとっては角で作った武器は一番大事なもので、成長を示す指標にもなっている。
だから、前世で言うところの、近所の人が「お宅のお子さん大きくなったね~」という感覚で、「良い武器できたな」とか「新しい短刀は艶が良いね」とか、挨拶感覚で武器を褒め合うのだそうだ。これだけ聞けばほのぼのしているが、武器を褒めるついでに一戦交えることもよくあるというのだから、戦闘バカもここに極まれりだ。
彼らの生態を聞くに、オーガは生まれた時は角は生えていない。そりゃそうだ、角なんか生えていたら母体の腹を突き破ってしまう。赤ん坊は頭にコブみたいなものがあって、成長と共に伸びて角になるという。
たまに抜けて新しいのが生えてくる。生え変わりの周期は正確に測るやつがいなかったからわからないが、数十年に一回という気の長いペースみたいだ。オーガの寿命もどれほどかわからないが、生きているうちに五回か六回は生え変わるというから、百年以上は生きるようだ。
古くなって抜け落ちたものをナイフや槍、もしくはアクセサリーに加工して持ち歩く風習があり、次の生え変わりの時に古くなった武器を捨てて新しい武器を作り変えるわけだ。
その他にも、子供が生まれたら親は自分の角で子供用のお守りを作るとか、求婚のために自分の角で作ったものを贈るとか、歴代ボスの角は集落全体のお守りになっているとか、オーガの中では角にまつわる風習が色々あるらしい。
「ふーんボスの角ね、俺は角ないからお守りは作れないな」
「ギルバンドラ様なら角くらい生やせますよ」
「え、そうかな~」
オーガ的に角生やせるは誉め言葉っぽい。角があることがステータスの一つらしいから、クーランは草原のザランのことは認めていた。勿論、好敵手として。
確かに、俺はやろうと思えば姿かたちは変えられそうだ。生まれた時の姿が楽だからそのままにしているし、たぶんものすごく時間はかかるだろうが時間経過で成長もするだろう。でも、頑張れば今すぐにでも大人の姿になれると思う。
望めば筋骨隆々にもなれるだろうし、イケメンにもなれるだろうし、性別も変えられるだろうし、獣の姿にもなれるだろうし、羽を生やしたり角を生やすこともできるだろう。
だが、俺は生まれてこの方自分の姿かたちに不満を持ったことはない。前世ではイケメンになりたいとか思ったこともあった気がするが、今は特に特徴もない外見を何とも思わない。
それは恐らく、この魔界では外見はあまり重要視されていないからだろう。魔物たちは他者の見た目なんか気にしていない。オーガも角の有無は気にしてもその良し悪しは特に言及していない。
重要なのはとにかく力だ。俺は強いから偉いし、みんな慕ってくれる。外見の良し悪しなんてどうでもいいのだ。
でも、角があって羽が生えているのも魔王っぽくて格好良いかもしれないとは思う。
「でもな~、邪魔じゃない角?」
「邪魔っすねー、俺は寝るとき角用に頭のとこ穴掘ります」
「俺はよく木に引っかかります」
「角で寝床の屋根壊したりね」
「角の先まで手が届かないから、何か引っかかっても自分じゃ取れないのよね」
聞いてみたら出るわ出るわ、角邪魔エピソードにオーガたちは大笑いする。こいつらにとっては生まれた時からの日常だから、角が邪魔でも邪険にはしないけれど、やっぱり邪魔なものは邪魔らしい。
うん、やっぱり生まれ持った姿が一番だ。角や羽は魔王として格好付けたい時とかに一時的に生やすとしよう。
森林地帯を我が物とした俺は最後のボスを倒しに山岳地帯へ向かった。最後のボスって言っても、俺の生まれた岩場から一番遠いから後回しになってただけだ。
山岳地帯を縄張りにしているのは巨人たちだという。毎度のことながら、山の中のどこに巨人たちの住処があるか獣たちもオーガたちも知らなかった。魔物たちは今まで縄張り争いをしてきたので、他所の縄張りのことはぜんぜんわからないらしい。
特に巨人たちは謎が多い。というのも、彼らは積極的に縄張り争いをしていたわけではない。ただ、山岳地帯が険し過ぎて他に住める魔物がいなかったから、自ずと巨人の縄張りになったという。
というか、話しを聞けば聞くほど、縄張り争いをしていたのは草原地帯の獣と森林地帯のオーガだけで、その他の地域はそこに住める奴が住んでいるだけという感じだった。
これも自然の摂理だろう。草原地帯と森林地帯は住みやすいし、食料になる獣や植物も豊富だから奪い合う価値がある。沼地や山は住みづらいし、食料も乏しいから奪い合う価値はない。おかげで争いなく静かに暮らせるという利点はある。
あと、南の樹海は魔物も植物も豊富だが、生き物も植物もごった煮過ぎて生活するには適さないから、誰も縄張りを主張しなかったようだ。
誰も手を出さないからダークエルフが隠れ住むには適していたが、彼らも縄張りを主張する気はないらしい。なにせ隠れ住んでいるのだから。
巨人たちは縄張り争いをする気がないから、山に入っても向こうから出てきたりはしない。
どこにいるかわからない巨人を探して、何千メートルあるかもわからない山々を駆け回るのは御免なので、俺は今日も怪鳥の背に乗って上空を飛んでいた。
しかし、乗っているのはピーパーティンではない。最弱の怪鳥ピーパーティンは山岳地帯を飛ぶのは無理だった。ここは標高が高過ぎるから、飛ぶだけではなく寒さや強風を防ぐ魔法も必要なのだ。
だから、俺は一旦森林地帯から草原地帯に戻り他の怪鳥に送迎を頼んだわけだが、ピーパーティンは同族に会うと苛められると言って付いてこなかった。虎の威を借りて威張り散らすかと思ったけれど、俺がいない時に何をされるかわからないという理由で、俺がいる時も威張れないという。最弱の怪鳥はヘタレも極めていた。
代わりに今日はルビィを連れてきた。暖房代わりだ。
俺は防衛本能でほぼ全自動で魔法が発動するから、高所でも寒くはないし酸欠にもならない。相変わらず服装は布一枚で、怪鳥の背に乗って雲の上を飛んでも平気だが、気分的にやっぱり寒いところにはモコモコしたものが欲しい。
ルビィは正体は悪魔だから温かくもないけれど、モコモコして可愛い猫は懐にいるだけで良い。なにせ、山岳地帯は見渡す限り灰色だ。標高が高過ぎて草も生えないらしい。風景が寂しい。だから可愛いものが必要なのだ。
「あの大岩の傍に強い魔力を感じます」
「動くものを発見!」
V字に隊列を組んで飛んでいた怪鳥たちから声が上がった。送迎だけじゃなく上空から探索もできる。有能な怪鳥はとても使える。ピーパーティンは近場の送り迎えとお喋りしかできなかったもんな。
「よく見たら、あそこ岩じゃなく巨人ですわね」
ルビィも地上を見下ろして目を細める。こいつは山岳地帯に来たことがないというから、最初は興味津々に下を見下ろしていたが、どこまでも灰色の山しかないから、すぐに飽きて俺の懐で寝ていた。行動は外見に引き摺られるのだろうか。
ルビィの指し示す方を見れば、確かに大きな岩みたいなものがゴロゴロと動いている。自然な落石ではない。そこらの岩と同じ色だからわかり辛いが、よく見れば動いているものは人の形をしている。
「じゃ行ってくる、おまえらは近くで待機しててくれ」
俺は言うだけ言って怪鳥の背から降りた。上空数千メートルだが、まあどうにでもなるだろう。
「うぎゃあぁぁ~~~~!!」
抱えたままだったルビィも一緒に降りることになったので、山岳地帯に悲鳴が轟いた。しかも山々に木霊してエコーがかかって悲鳴がどこまでも続いていく。
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