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13.

「え、こわっ」

 好戦的すぎる。元は平和ボケ日本人にはちょっとよくわからない感覚だ。

 でも、これでクーランと距離をとることができた。殴られっぱなしだと魔法を発動する余裕もなかったのだ。


 俺は遠慮なく火魔法を展開して、クーランに炎の球を打ち込んだ。焼き殺す気はないから、四つの球をクーランの正面と上と左右から放ち、後方に退路は作る。後ろに下がれば土俵の外だ。


 しかし、クーランは炎に怯むことなく飛び込んできた。


「なっ?! えぇ~~?!」


 火魔法が効かないわけではないようだ。なにせ、高温の青い炎を潜り抜けたクーランは明らかに火傷を負っていた。服だって、元より腰巻くらいしか身に着けていないけど、それすら焼け焦げてほぼ裸になっている。

 ただ、火傷を負ったまま回し蹴りをぶちかまして来た。


「いってぇ!!」

 俺は生まれて初めて攻撃を食らって吹っ飛ばされた。

 防衛本能が働いて無意識に結界を張っていたし、進行方向にも結界を張ったから土俵から弾き出されることもなかったけれど、結界を張っても片腕を折られた。モロに食らっていたら肋骨も逝っていただろう。


 痛いのは嫌なのですぐさま治癒魔法を発動するが、その間もクーランは容赦なく殴りかかってくる。

「魔法も強い! 身体も頑丈! だが動きが鈍い! 戦い慣れてないな!」

 戦い慣れるも何も生後二日なんだよな。前世含めれば数十年生きてはいるけど、やはり、戦い慣れているやつから見れば俺の動きは素人もいいところらしい。


 しかし、言い換えれば生後二日でここまで戦ってるのは凄いのではないか。生まれ持った才能だけでこれだけ戦えている上にノビシロまである。戦闘狂相手に俺善戦してる。こうやって自分を励まさないとちょっとビビりそうだ。

 なにせ、クーランは全身火傷を負っているのに、信じられないことに治癒魔法で身体を治しながら動いている。攻防に魔法を使わないだけで、自分自身に魔法を使うのは有りらしい。たぶん魔法で身体強化もしている。もし、素の腕力で結界を壊しているというなら恐ろしい話しだ。

 俺は恐いから火の球を連続で出しながら逃げに徹するしかない。炎は効果がないというか、相手がぜんぜん気にしないようだが、なんかしてないと恐いけど情けないことに有効な手を考える暇もないのだ。


 皮膚が焼け焦げて、露わになった肉に血が滲み、ところどころ骨まで露出している。それでもクーランは攻撃を止めない。焼け爛れた皮膚を再生し、拳を叩き込んだ端からまた焼け落ちる。

 そんなゾンビみたいなやつが迫ってくるのだ。本物のゾンビよりも動きが速い分尚更に恐い。こっちは戦闘素人だとわかっているなら、外見だけでもグロくならないよう配慮してもらいたい。まあ、魔王なので手心を加えてほしいなんて絶対に言わないけど。


 それにしても、クーランは動き続けているせいで火傷はなかなか治らないようだが、だのに攻撃の威力も速さも衰えない。俺だって動きながら治癒魔法は使えるけれど、痛いものは痛いから大怪我している時に動きたくない。


 結局、俺は追い詰められて耐物理結界と治癒に集中して防戦一方、ただひたすらクーランの殴る蹴るに堪えている状態に逆戻りだ。俺の積極性の無さに、戦闘民族オーガどもから野次が飛ぶけれど知ったこっちゃない。俺は戦闘狂ではないのだ。

 クーランはもしかして痛覚も魔法で鈍くしているのだろうか、と思ったけれど、たぶん、痛いのも気にせず動いているだけだ。だって、すっごく楽しそうな顔しているけど、額に流れているのは脂汗だ。

 本当に戦うのが大好きらしい。アドレナリンドバドバで天然の麻酔効果を得ているのかもしれない。


 単純な力押しではクーランに勝てそうにない。ならば、頭を使って勝つしかない。

 本気で殴り壊されそうな結界に焦りつつ、俺は前世まで遡って乏しい戦闘知識を搔き集める。前世は間違いなく荒事とは無縁な一生を送っていたから、せいぜいが学校の授業で習った柔道くらいしか浮かばない。

 折られた腕が完治した瞬間、身体強化の魔法を有りっ丈使って俺は動いた。


「うお――!! こうだったかな――!!」


 掛け声と共に結界を解いてしゃがみ込んだ。身体が小さいから、屈めばクーランの視界から完全に逃れられる。

 ほんの一瞬俺を見失ったクーランの足元に潜り、片足を掴んで思いっきり持ち上げる。自分でもどうかと思う掛け声だったが、本当に見よう見まねだったのだから仕方がない。


「なんのこれしきっ……!!」


 クーランも抵抗するから、俺もクーランの足を持ったまま後ろに引っ繰り返ったが、どうにか形の悪い巴投げみたいな技にはなった。

 柔道とは物理法則を最大限活かす武術だが、俺にそんな技術力はない。とにかく力任せにぶん投げただけだったが、魔王の腕力を持ってすれば強敵も結構よく飛ぶ。


 地面に転がった俺を飛び越えて前方へと投げられたクーランは、流石の反射神経で受け身をとって転がり、間髪置かず立ち上がって振り返ったが、そこでピタリと動きを止めた。


 クーランが足を付いたのは土俵の半歩外だった。


 ワッと歓声が上がった。オーガのボスが負けたのに楽しそうだ。勝敗よりもどれだけいい勝負をしたかが重要らしい。

「俺の負けだな」

 クーランも負けを認めて笑顔で胸を張る。

「はーやれやれ……」

 立っているクーランと引っ繰り返っている俺、絵面だけなら勝敗が逆に見えるな、と大の字に転がったまま溜息を吐いた。


 悔しいけれど、生まれ持ったチート能力に胡坐を掻いているだけじゃダメだと思い知った。弱肉強食の魔界を統べるためにはもっと強くならなければなるまい。

 でも、やっぱり痛いのは嫌だ。オーガほど戦うのが好きになれそうもないから、できれば修行とかやりたくない。まだまだ先のことになるけど、いずれはこの原始的な腕力至上主義もなくしたいし、平穏で長閑な魔界があったっていいじゃないか。


 勝ったのに渋い顔の俺に、負けたのに清々しい顔のクーランが手を差し出してきた。腰巻も完全に焼き切れてすっぽんぽんなのに堂々としている。

 いつまでも転がっていては魔王らしくないから、有難く手を借りて立ち上がった。

「見事だった」

「そっちこそ」

 修業についてはそのうち考えるとして、なんとかオーガのボスを倒せたので森林地帯も俺の縄張りになった。


「ギルバンドラ様の元に下ろう、俺は」

「俺は?」


 クーランの不可解な言葉に俺は首を傾げた。野生の法則ならば、群のボスを倒したらその子分たちも自動的に俺の子分になるはずだ。

 というのは、ここでは通用しないらしい。

「次は俺だ!!」

「いいや私だ!!」

「俺も戦いたい!!」

 観戦していたオーガたちがわらわらと群がってくる。どいつもこいつも体格がいいから、俺は取り囲まれて見下ろされてしまう。お互いの角がガツガツぶつかっても構いやしない。


「おいクーランどうにかしろ、おまえボスだろ」

 ザランだったら従順に獣たちをまとめてくれるのに、クーランは高らかに笑うだけで何もしない。こいつ敗者のくせに言動がいちいち王者っぽくて妬ましい。

「俺は敗者だ、敗者はボスではない」

「えぇ~~……」

 その理論だと、俺はオーガ全員に勝たなければこの地のボスだと認められないことになる。


「俺と勝負!!」

「相撲しよう!!」

「私と戦え!!」

 血気盛ん過ぎて暑苦しいオーガたちに囲まれて、俺はどうやら強制修行ルートに入ってしまったらしい。

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