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103.

 翌日から俺とリオは別行動だ。


 リオはさっさと仕事と住む場所を見つけなければならないが、俺はちょっと王都見て回ってから魔界に帰るつもりだから、別に仕事を探す気はないし住む場所もいらん。

 金はここまで来る護衛の駄賃と、田舎で魔物を狩って作った軍資金が結構あるから、しばらくはのんびり観光するくらいの余裕がある。

 というわけで、リオは冒険者ギルドに行って仕事探し、俺はそこらをブラブラして人間界の勉強だ。


「本当に一人で平気?」

「平気だ」

「スラムの方は行っちゃ駄目だよ」

「早よ行け」


 相変わらず俺はリオにとって弟ポジションらしい。長男とは、誰かを面倒見ていなければ生きられない習性なのだろうか。

 何度も心配そうに振り返るリオを追い払ってから、さてどこに行こうかと、俺は宿屋の前でのんびり考える。特に何をするかは決めていなかった。


 宿屋からは他の宿泊客もぞくぞく出ていく。安いボロ宿は部屋で寛ぐような場所じゃない。泊っているのも冒険者ばかりだから、みんな朝から仕事に向かうらしい。


「今日も帰りは飲みに行くだろう」

「俺は止めておくよ」

「どうした金がないのか?」

「いいや、なんだか変な夢を見て疲れてるんだ、すごい美女が出てきたんだが、嫌にリアルでさ」


 冒険者たちの会話を聞いて俺はルビィにジト目を向けた。肩に乗る黒猫は何故だか得意気だ。久しぶりにまともな飯を食えたようで毛並みはツヤツヤしている。


「なんだよ、欲求不満じゃねえのか、娼館にでも行くか?」

「いやいいよ、今日は早めに帰って寝る、美人だったけどぜんぜん好みじゃなかったし、胸がデカいだけでさ、自分で思ってるより疲れてるのかな~」


 通り過ぎていく男たちの会話に、ルビィの得意げな表情は途端に不満気な表情に変わる。この雑魚淫魔はそろそろ、美人で胸のデカい女になればいいという安直な考えを改めるべきだろう。


 それはともかく、俺はとりあえず大通りに出てみた。今日もパレードがあるそうだが始まるにはまだ早い時間だから、大通りは昨日ほど人は多くない。でも多い。

 計画を立てられるほどの情報もないから、手始めに国の中枢に行ってみることにする。場所はとてもわかりやすい。大通りの先に白亜の宮殿はずっと見えていた。


 のんびり歩くと改めて思い知るが、王都は広かった。歩けど歩けどなかなか王宮に辿り着けない。

 ようやく白い壁が見えてきたと思えば城のかなり手前に聳えている防壁で、その手前は深い堀があり、跳ね橋は下りているが、当然ながら許可がなければ渡ることはできない。


 物理的には堀も壁も越えるのは簡単だが、防壁に沿ってぐるりと魔法結界も張られている。

 感知魔法だけではなく侵入防止の魔法もかかっているだろうが、魔法使いの目を晦ます偽装も施されているようだから、見ただけでは何の結界かハッキリとはわからない。

 眺めるだけでは埒が明かない。あれは触れなければ解析できない類だが、まず近寄ることもできないわけだ。


「おい、ちょっとあの結界にぶつかってこい」

「絶対嫌っす!」

 ピーパーティンは即座に命令を拒否した。ルビィは俺の背中に張り付いて動かない。二匹を力づくでぶん投げることもできるが、変な飛んでいき方をすると当然のこと怪しまれるだろう。


 結界はドーム状に城を覆っているから、都合よく鳥でもぶつかってくれれば何が起きるか観察もできるのに、街の上空を飛んでいる鳥たちは不自然なほど城の結界には近づかない。おそらく鳥獣除けの魔法もかかっているのだろう。


「う~ん、無理矢理通ることもできるっちゃあできるけど……」

「結界に穴が開いたことがすぐにバレますわ」

「だよな」

 そんなことがあれば大騒ぎだ。いやもしかすると城の護衛レベルがわかるかもしれないが、実行するにしても魔界に帰る直前にしておこう。大都会をもう少し見て回りたい。


 俺が跳ね橋の手前で防壁の向こう側を眺めていただけで、大門の前に立つ衛兵に睨まれた。子供が観光しているだけで嫌な顔をするとは、この国の上流階級は心が狭いのかもしれない。心の中で舌を出しながら俺は城から離れた。


 どうせ城の中に入れたとしても、王宮内の人間を観察するだけで国家体制がわかるはずもない。勉強するなら図書館とか学校を探すべきだろうが、まずは王都の地理をある程度理解しないことには探しようもない。

 というわけで、俺はブラブラ歩き回ることにした。これは遊んでいるのではなく人間界の観察だ。決して大きな街に浮かれているわけではない。


「やっぱ都会は物価が高いのか」

 大通りに戻った俺の手には肉の串焼きがあった。観光じゃない腹ごしらえだ。朝飯は余っていた保存食で済ませただけだったから、焼き立ての肉の魅力に勝てなかったわけじゃない。腹が減っては戦はできぬというやつだ。


 それにしても、王都の目抜き通りの店を見て回ったが、パンは一個で銅貨十枚くらいだし、今食べている肉の串焼きは銅貨十五枚もした。路地裏やスラム街ならもっと違うのかもしれないが、田舎の町の倍の値段だ。

 でも、パンは田舎では見かけなかった白くて柔らかそうななやつだし、肉の串焼きはスパイスが利いていて美味い。


 田舎の料理は良く言って素朴、ぶっちゃけると塩くらいしか調味料がなかった。魔界もそんなもんだったから気にしていなかったが、王都の食文化が発展していたのは喜ばしい。


「なにこれうまっ!?」

 俺と同じ肉を突っついているピーパーティンは大袈裟なほど感動していた。声は抑えているけど、人目の多いところで鳥が肉を貪り食うのもいただけない。他に隠す場所もないから服の中に突っ込んどく。

 そういえば、道中のダンの作る飯も美味かったが、ピーパーティンはそこらで虫とか食ってるから、人間の飯は食べさせていなかった。


「これはスパイスが良いんだ」

「スパイス?」

「香りの強い草とか木の実とかのこと」

「スパイス……!」


 ピーパーティンはこの肉に感銘を受けたらしい。服の中でキラキラ目を輝かせている。ルビィは肉よりも男を食いたいようで、道行く人間どもをひもじそうに眺めている。


 今日は下見くらいしかできそうにないから、ピーパーティンを飛ばしたりルビィを歩き回らせたりして、俺は俺なりに王都の地図を作ることにした。

 王都には本屋があるけど、やっぱり書物は高級品だし、地図が売っていないのはわかっている。


 地図は国家機密だ。当然、国のお偉いさんたちは地図を持っているだろうし、冒険者ギルドなどにもあるらしいが、厳重に保管されている。必要な時だけ申請すれば、必要な場所が最低限描かれた地図をくれるらしい。

 勿論、申請できるのは身元のしっかりした者だけだ。どうりでミラが持っていた地図も大雑把だと思った。


 特に王都の詳細なんてトップシークレットだ。一応、観光案内所みたいなところもあったが、教えてもらえるのは太い道だけで、細い路地なんか誰も全容を把握していない。


 王都の上空は薄っすらと妨害魔法に覆われているから、飛行魔法を使って上空から見ても、なんだか視界がモヤモヤしてハッキリと見えないようになっていた。

 しかし、流石に王都全体に感知魔法なんかはかけられていないから、俺の力を持ってすれば妨害魔法などものともせず王都の全容を把握することができるのだ。


 ただ、残念ながら上空から見て回る係が阿呆のピーパーティンだから、地上をルビィに探らせつつ、俺も王宮の厳重な結界に引っかからない程度に、千里眼の魔法を駆使して、王都全体を凡そ把握するのに一日かかってしまった。


「ひぃ……疲れた」

「お腹ペコペコよもう……」


 ぐったりしている鳥と猫にそこらで買った雑炊を分けてやりながら、俺は道端で今日の成果をもう一度見直していた。と言っても、俺にしか見えない視覚魔法で作ったマップだ。手書きだろうと、地図なんか持っていれば捕まってしまう。


 誰にも見えない宙に浮いた地図を眺める俺は、傍から見れば、ぼーっと夕焼け空を眺めてるガキにしか見えないだろう。

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