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99.

 仕方なく周りのやつらが気にしていない隙を見計らって、気配を消してキャラバンから離れる。一番警戒すべきリオが、馬鹿に気をとられていたことは幸いだった。

 猿が追いつかないくらいの速さで森を走ると、木々の生い茂る中に盗賊たちが潜んでいた。


 まあ、これだけ兵隊集めて収穫無しではいられないだろう。確実な収入が見込めるから人が集まったのだ。骨折り損になれば、集めた方は袋叩きだ。執念深くもなる。

 道なき道をここまで追ってきて、猿どもに襲われて疲弊したところを囲むつもりだ。


「三十五人か、少し減ってるな」

 最初の五十人くらいというのもピーパーティンがもたらした情報だから、あんまり信用はできないが、最初の計画が失敗して何組かは離脱したのだろう。


 盗賊どもは身を隠して出てこない。普通に考えて、子供一人に見つかった程度、襲撃になんら支障はない。殺気は伝わってくるから、俺がキャラバンへ報せに走ろうと背中を見せた瞬間殺すつもりだ。


「出てこいよ、それとも恐いのか?」

「ガキが、何ほざいてやがる」


 声をかけてやればガサガサと汚い男どもが出てきた。

 これしきの挑発に乗ってくるとは、単純すぎやしないだろうか。でも、やっぱり子供一人に手古摺るとは一欠片も思っていない。だから易々と姿を見せたのだ。


 後方では猿たちの騒ぐ声は止んでいる。キャラバンは足を止めているようだ。ようやく猿の縄張りから出て安心したのか、被害の確認でもしようというのだろう。

 でも、たぶんまだ、誰も俺がいないことに気付いていない。それほど離れていないが、木々が邪魔して旧道の方からこちらは見えない。


「丁度良い」

 俺は前々から試してみたいと思っていたことを、こいつらで試すことにした。邪魔者の掃除もできて一石二鳥だ。


 最初に声を出した男が剣を振り上げた。結構綺麗な剣だ。強奪品だろうが、こいつが盗賊団の頭なのだろうか。


 俺はその場から動きもせず両腕を広げた。


 降参のポーズに見えたのか、自暴自棄な抵抗に見えたのか、髭面の男は口角を吊り上げ、汚い歯を見せて嘲笑う。

 盗賊たちが子供一人に恐がらないのは当然だが、俺に恐れを抱かないのは、悪党として三流だ。

 「は?」とか「え?」とかいう声が一斉に上がってざわめきになる。


「あ?」

 剣を振り上げていた男が、間抜けな声を上げて振り返った時には、後ろにいた盗賊どもは土に埋もれていた。


 生き物のように動き出した土が、ズルズルと触手を伸ばすように身体を這いあがり、あっという間に人間大の土塊が出来上がる。一応、中身は抵抗しているらしいが、泥人形たちがもぞもぞ震えているようにしか見えない。

 土魔法でこんなに細かく地面を操作したのは初めてだが、案外と簡単に動かせるもんだ。


「何だこれは」

「う、動けねえ」

「離せ、離せぇ」


 三十人以上も全身を包むのは面倒だから、中には土からはみ出した腕や足で必死に藻掻いているやつもいるが、脱出できるやつはいない。魔法が使えるやつもいなかったらしい。


「な、な、な、なにをっ……!!」

 唯一残っている盗賊の頭らしき男は、土塊と俺を交互に見回し汗を拭き出している。


 逃げ出さないのは頭としての見栄か。反撃してくる気配もないから、恐怖で足が竦んでいるのか、はたまた状況が理解できていないのか。

 まさか仲間への思い遣りではないだろう。まだ土に埋もれてもいないのに、顔面がどんどん土気色になっていくのが憐れで、可笑しくて、虫唾が走る。


 今から行おうとしていることは虐殺だが、俺の気持ちは高揚することもなく白けているくらいで、まさに殺されようという人間どもにはちょっと申し訳なく思うほどだ。

 俺の服の中から目だけ覗かせているピーパーティンとルビィですら、何遊んでんの? という顔で人間を眺めている。こいつらはビビりだが、魔界出身の魔界育ちなのだ。自分に降りかからない火の粉は平気で傍観する。


 ただ森の中は何事もなく緑が茂り空は青いのに、木陰は何故か酷く暗く見えた。


 悲鳴を上げられても困るから、顔まで土で覆ってからギュッとする。

 土の中からくぐもった呻き声が多数上がったが、そのうち静かになり、はみ出た手足が脱力した。


「ひぇ、ひえぇ?!」

 土がじわじわと赤くなるころ、驚愕して固まっていた男がようやく悲鳴を絞り出した。ここで悲鳴しか出ないとは、やっぱり足が竦んでいただけらしい。

 大声を出されたらキャラバンに聞こえるかもしれないから、首を掴んで黙らせた。俺の身長じゃ手が届かなかったから、足を蹴って跪かせてからだ。


「俺は人間を殺せるんだな」


 ぜんぜん平気だった。自分的にはまあまあの衝撃だったけど、ぜんぜん衝撃もないのが衝撃だ。


「そりゃそうでしょうよ」

「なに言ってるんですの?」

 ピーパーティンとルビィに言われて、俺は不貞腐れた顔で頭を掻く。確かに今更だが、こいつらに呆れられると、なんか腹立つ。


 前々から気になっていたのだ。俺は魔王だから、人類の敵になるものだが、元人間の記憶があるから、人殺しはできないなんてことはないだろうか、と。


 しかし、思った以上に抵抗感がない。土魔法を解いて、ボロボロと土塊の中から潰れてひしゃげた人間の身体が出てきても、感情が動く気配がない。

 無残に殺された仲間を見て、手の中で怯えに怯えている男を見ても、泣き顔が不細工だなと思うくらいだ。

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