10.
草原に戻れば俺は獣たちに歓待を受けた。
そりゃあ、俺はここのボスになったのだから当たり前だ。ピーパーティンとルビィは鳥と猫の姿になって、ちゃっかり俺の肩の上に乗って側近面をしている。
言わずとも肉や果物が献上され、言わずともザラン自ら俺の腰かけになる。そして派手に火を焚いて、逆さ釣りにした巨大な豚らしきものが丸焼きにされる。更に獣の串焼きも火の回りにずらりと立てられる。
その火を囲んで、俺はこの世界で最初の晩餐にありついた。
「みんな食え! みんなだぞ!」
別に俺が用意したものではないけど、俺がこの場で一番偉いから、偉そうに一声かけないと晩餐は始まらない。特に、岩場から来た雑魚たちは放っておくと隅っこで隠れるばかりだから、みんな食べることを念押ししておく。
たぶん、俺が望めば酒池肉林も夢じゃないだろうが、そう言うのはあまり趣味じゃない。今は飯と寝床があればいいし、肉を焼いて食べる文化があっただけで大満足だ。
大きな肉が切り分けられ、俺の前に積まれていた果物もみんなに配られる。俺だけに山盛り積まれたって食いきれないからな。
草原の連中は交代制で夜警に行っているそうだが、ここにも結構な数が集まっている。そこに岩場の連中もいるから、ザランと同じくらいの大きさがあった豚の丸焼きもあっという間に骨になった。
「しかし、おまえら普通に肉食うのな」
気になったことを呟けば、獣たちはポカンとした。獣だけじゃなく、ルビィもピーパーティンも黒魔導士たちも不思議そうにしているから、俺は大分おかしいことを言ったらしい。
しかし、草原の獣の中には牛っぽいやつや豚っぽいやつもいるし、見るからに草食っぽい鹿や兎みたいなやつもいるのに、みんな平然と豚みたいな生き物の丸焼きを食べているのだ。
どう見ても共食いに見える。それに草食動物が肉を食っている絵面も俺にはかなり違和感がある。特にピーパーティン、木の実食べてそうな小鳥の姿のまま肉をもりもり食べるんじゃない。仕草で可愛さが台無しだ。
「肉を食わねば力が付かぬ、それに肉を食うのは強者の特権」
そう言うザランは見た目がライオンだから、肉を食べてても違和感はない。今は豚の塊肉を食べ終えて、おかわりで何かの獣の串焼きみたいなものを食べている。強いて言うなら、獣の足で串焼きを器用に持っている姿が珍妙なだけだ。
串焼きも、人間の大人くらいの獣が串刺しになっている。それらが焚火の周りに立てられて焼かれているのは、どこぞの処刑場のような光景だ。
「殺すだけで食わないのはいかん」
「勝った方が食うのは当然だよな」
「流石に親は食えなかったけど」
「兄弟もな」
「弱いやつは食うだろ普通」
獣たちの話を聞くと、見た目が同じようなやつでも特に共食いという意識はないらしい。
戦って勝った方が負けた方を食うのが常識という感じか。岩場から来たやつらがものすごく怯えている。あいつらは明らかに食われる方だもんな。
戦い=殺し合いという常識はいただけないが、殺すだけなのはよくないとか、親兄弟は食わないとか、最低限の倫理観があったことを今は喜んでおこう。
文化的な国を作るためには、いずれは仲間同士の殺し合いも禁止するべきだが、法を布いただけでは常識レベルで浸透していることはなかなか変わらないだろう。
国を作るのって考えることがいっぱいある。戦うだけなら疲れなかったけれど、慣れないことを考えて俺は生まれて初めて疲労を感じた。
とりあえず、難しいことは魔界統一してからみんなで考えよう。
今は美味い飯と温かい寝床があることに感謝、でも欲を言えば、素材の味だけじゃない料理も食べたい。今のところ味付けは塩しかないらしい。
「ん~、酒がほしいな、肉と果物だけじゃな~」
塩ふって焼いた肉には酒か米が欲しいが、農耕もない現状では高望みだろうか。
「酒ならオーガどもが作ってるはず」
「マジか!」
諦めかけていたが、まさかの朗報が届いた。オーガと言えば東の方を縄張りにしているやつらだ。
「じゃあ明日は東の方に行ってみるか」
明日の予定も決まったし、楽しみも出来たから、俺は大満足でザランの鬣の上で眠りに就いた。
文化的な生活はしたいけど、美味いもの食って焚火に当たりながらフカフカのベッドに引っ繰り返るのも、これはこれで最高だ。
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