薬草取り
「セローさん、本当にこっちであってるんですか?」
私はセローさんに尋ねる。
もう何回聞いたかわからないくらいだ。
「ジェスタが言っているんだ。心配ない」
正直、私の体力は限界だった。
「せめてちょっと休憩を・・・・・・」
「おーい、ついて来れなきゃ置いてくぞー」
少し上からジェスタさんがそう言っている。
私は、ぜぇぜぇ息を切らしながら山道を登る。
男2人は体力馬鹿で私のことを置いていく勢いだ。
「チッ。・・・・・・はぁ~」
舌打ちして、セローさんが戻ってくる。
「ほれ、背負い袋は俺が持ってやるから」
「・・・・・・」
私は無言で背負袋をセローさんへ渡す。
中には3人分の袋が入っている。
(そもそも、女子で魔法使いの私が荷物持ちなのおかしくない?)
(いや、入るときになんでもするっていったのは私だけどさ)
もう着いて行くので精一杯だった。
「おーい、あったぞー」
やっと着いたらしい。
街から馬車に乗って1日ちょっと。
流行りの病がまん延していて、緊急で薬草が欲しいという依頼があった。
薬草取りは本来、初心者の冒険者がやる仕事らしい。
が、今回の欲しい薬草までの道が複雑で、高レベルの道案内でないと行きも帰りもままならないらしい。
(しかも、むちゃくちゃな金額提示してるし)
相手にいくら出せるか聞いておいて、しかも5000ゴールドしか出せないという相手に、
セローさんは前金で3000ゴールド、袋1つにつき5000ゴールドという契約をしていた。
商人らしき男は当然、
「人の命をなんだと思っているんだ!」
と怒鳴っていたが。
「お前の方こそ命をなんだと思ってるんだ? 俺たちだって命を懸けるんだ。そんなに村を救いたければ、身銭を切るんだな」
そうセローさんに言われて、ぐぬぬ顔で承諾したのだった。
(絶対に敵に回してはいけない)
私はやりとりを見ていてそう思った。
正論しか言わない相手には勝てない。
「レイチェル、俺たちが袋に詰めてる間、休んでていいぞ」
「はい。ありがとうございます・・・・・・」
私は近くの倒木に腰かけて、2人の作業を見守る。
(あ、なんか手下を使う女主人みたい)
なんてことを考えていると、
「イッタい!!!」
突如、足首の上あたりに激痛が走る。
今日は歩きやすいように、短い靴下に半ズボンだった。
見るとカラフルな蛇に噛まれていた。
「やべ」
ジェスタさんが手に持っていたナイフを投げて、蛇の首を切断する。
「きゃあああああああ」
私は飛んできたナイフに驚きのあまり、情けない悲鳴を上げて倒れていた。
「大丈夫か?」
セローさんは心配してこちらへ来てくれた。
ジェスタさんは足早にどこかへ行ってしまっていた。
「うわあああ」
噛まれた場所から、足がみるみるうちに紫色に変色して感覚が変になっていく。
「レイチェル、食べろ!」
「えぇ?」
どこかへ行っていたジェスタさんは、見たこともない色、どちらも似た柄のキノコを2つ持っていた。
パクっと右にあったキノコを口にする。
私はもぐもぐと租借しているうちに、目の前がグラングランしてくる。
「あ、はず・・・・・・」
ジェスタさんの言葉が聞こえきる前、私の意識はそこでなくなった。
私がパチパチと目を覚ますと、ジェスタさんにキスされていた。
ドン、私は両手でジェスタさんを突き飛ばす。
「いってーな、お前、助けてやったのにそれはないだろ!?」
「だって!、だって」
(初めてだったのに! どっちかでいうならセローさんのがよかった・・・・・・)
「いやーキノコって判別できなくてな。どっちかが解毒だっていうのは覚えてたんだが」
「まあ万能解毒キノコなんてそう生えてないからな。運がよかった」
話を聞くと、私は外れの毒キノコを引いて気絶、蛇の毒を打ち消すキノコを口移しされたとのことだ。
「足は大丈夫か? 歩けないなら荷物を先に返して、後で迎えにくる。」
「う、歩けると思います」
「じゃあ荷物を持たなくていい、お前に合わせるから前を歩け」
「あ、はい」
何とか下山して、馬車で街へ戻った。
そんなこんなで私は初めての薬草取りとキスが終わったのだった。