試合
審判の合図とともに、戦いが始まった。
直後、ジェスタさんはなにか小さな針のようなものを、長い杖を持ったローブを着た人に向かって投げつける。
いきなりのことだったが、ローブの人は杖で針をはたきおとす。
が、針は、はたきおちずに杖に張り付いていた。
魔法使いはそのまま無視して、杖を振り上げて魔法を使おうとしているようだ。
しかし、何も起こらない。
「ああならないよう、君は杖の予備を用意しておけ」
私にそう言って、セローさんが剣を持った相手に向かって走りだす。
ジェスタさんは槍を持った相手に向かっていた。
私は、さっきセローさんから渡された長い杖を両手で持って前に構える。
(えっと・・・・・・相手の魔法使いに向かってって言ってたよね?)
「業火の火球よ、相手を焼き尽くせ!」
私は相手のローブの人に向かってそう唱える。
杖の真ん中あたりに書かれていた文字が、赤く光って消えた。
すると、杖の先から拳くらいの大きさの炎が10発くらい放たれた。
なんとか目で追えるくらいの高速で放たれた火球は、ローブの人に直撃して火柱になる。
(うわ! 凄いことになってるけど!)
「娘、覚悟!」
「え?」
いつの間にかジェスタさんが倒れている。
(え? はぁああああああ!?)
走ってくる槍を持った騎士がそのまま刺突してくる。
私はとっさに杖で受けた。
杖が真っ二つに折れる。
「やぁぁぁぁぁ!!」
目の端ではセローさんが斬られて倒れるのが見えた。
私は杖を捨てて、背を向けて走ろうとして、槍で頭を叩かれて気を失った。
私は見知らぬ天井の下で目を覚ました。
(頭痛い)
「お、起きたな」
ジェスタさんがベッドの横の椅子に座っていた。
「おーい、お医者さまよ。こっちは起きたぜ」
「どれどれ? はい、この指を見てください」
私は言われた通りに医者と呼ばれた人の指を見る。
「これは?」
「1本」
「これは?」
「3本」
「大丈夫だと思います」
私はクラクラする頭と体をゆっくり起こす。
セローさんと相手のローブの人が寝かされている。
どうやら医務室らしい。
ローブの男性は半裸だった。
(あ、私が服を燃やしちゃったから)
「負けるのは決まってるとはいえ、刃が潰された武器に甲冑は絶対無理だよなぁ」
(そういえばセローさんの武器はいつもの短い剣じゃなかったし)
「なあ兄ちゃん、あんたが投げた針は何だったんだ?」
いつの間にかローブの人が起きていて、ジェスタさんに問いかける。
「あれすか? 普通に売ってる魔法封じの針っすよ。先を潰してくっつくようにしてあったっすけど」
「それのせいか。まるで魔法が出なくて驚いたよ」
「騎士団の方なら、絶対に防御すると思ってましたから」
明らかな年上には敬語を使えるジェスタさんだった。
「そうか。・・・・・・そちらの嬢ちゃんは30レベルくらいかね?」
(私、そんなに強そうに見えたってこと? 3レベルのはずなんだけど)
「えっと、3レベルなんですけど」
「は? でもファイアボールを連発してきたじゃないか」
「ああ、1回しか使えない魔具っすよ」
「わざわざ魔具を使ったのかね!?」
ローブの人はとても驚いている。
はあ、とため息をついたのち、
「実質、私たちの負けじゃあないか」
「? 実際勝ってるじゃないですか?」
「ああ、そうなんだがな・・・・・・」
ローブの人は腑に落ちないといった顔だ。
「起きたぞ。少し診てもらってから帰ろう」
セローさんが目を覚ましていた。
私たちは休憩してから医務室を出る。
「レイチェル、杖は?」
「あ、槍を防御したときに折れちゃいましたけど?」
「使って折れたのなら、まあいい」
控室に荷物を取りに戻る途中にセローさんに問われた。
控室には折れた杖が置いてあった。
「持って帰りますか?」
「いいや、そっちで処分してくれ」
控室にいた係の人にセローさんはそう返す。
私の初めての対人戦はこうして終わったのだった。