私の仕事は・・・・・・
「戻った」
「人は誰もいなかったか?」
「いなかった。ゴブリンどもは10匹はいたな。穴も塞いできたぜ」
声がするとともに、セローさんの近くにジェスタさんの姿がパッと現れる。
「!?」
(どうなってるの?)
「あ、お前、・・・・・・まあいいや、もう休んでろ」
ジェスタさんは私からスコップを取り上げて、どんどん土を集めていく。
(疲れた・・・・・・)
私は外聞などかなぐり捨てて、スカートのまま地べたへ座り込む。
セローさんは自分の分は終わったのか、洞窟の入口少し奥に薪を組んでいる。
(何しているんだろう?)
薪を並べ終わると、荷物から何かのインク壺を出して、その周りを囲むように地面に円を描く。
そして1枚、お札を貼った。
すると集めた土で、2人はどんどんと入口を埋めていく。
「レイチェル、火を出す魔法を使えるか?」
「え、はい。使えますよ。ろうそくに火が着くくらいなら」
セローさんにそう聞かれたので、できることを伝える。
「じゃあ、それでこの薪に火をつけてくれ」
「わかりました」
腰の杖を左手に持って、右手を突き出す。
私は手のひらに魔力を込めて、炎をイメージする。
「炎を我が手に!」
右手を引いて左手の杖を前に出す。
すると左手の杖の前からポッと火の手があがり、薪に火が着いた。
「上出来だな。君は外で昼食を摂っていろ」
「はい」
私は外に出て、荷物から乾パンを出して齧る。
2人は入口を土で完全に埋めてから、私の近くに来て、一緒になって昼食を食べ始める。
「お前、ゴブリンも知らないなんて、お姫様くらいだぜ?」
「そんなこと言われても、知らないものは知らないんです~」
「まったく、田舎にもほどがあるだろ。あ、田舎ほどゴブリンは出るはずなんだけどな~」
そうからかわれても、本当に知らなかったのだから仕方ない。
そうして雑談すること、かれこれ2時間くらい。
「そろそろいいんじゃないか」
「そうだな」
セローさんは懐中時計を確認して、ジェスタさんは太陽に目をやる。
休憩は終わりのようだった。
セローさんに布1枚を渡される。
「鼻を覆っておけ、多少臭いが軽減するから」
言われた通りに鼻から下を布で覆う。
セローさんは剣の柄を握って入口横で待つ。ジェスタさんは埋めた土をスコップで崩し始める。
(う! 臭い!)
傷んだ肉を焼いた匂いだ。
布を巻いてなかったら、吐いていたかもしれない。
半分くらい崩したところで、セローさんもスコップを手に取って一緒になって土を崩す。
奥の薪の火は完全に消えている。
ジェスタさんが洞窟に入って、子供くらいの大きさをしたものを手に持ってくる。
「たぶん、全部殺ったと思う」
「わかった」
セローさんはそれを受け取って、土を掘った穴に放り込んでから洞窟に入っていく。
私は穴に放りこまれたソレを見た。
小さな角の生えた緑の肌の子供に見えるソレは、白目を剥いて、苦悶の表情を浮かべ、だらりと舌を出している。
私の頭には、その死にざまが強烈にこびりついた。
ジェスタさんがもう1体、ソレを穴に放り込んで、私にこう言った。
「お前、炎の魔法でソレ焼いといて」
「・・・・・・はい」
(これは仕事・・・・・・仕事なんだ、私・・・・・・)
そう言い聞かせ、炎を出して死体を焼却していく。
「うぅ」
涙目になりながらも、放り込まれる死体の腰布に次々と火を着けていく。
それからのことはあまり覚えていない。
夜、眠れなくて、寝不足で街に戻って、ようやく事務所のソファーで寝ることができた。
それが私の初めての仕事だった。