遺跡の奥
「あん? これ奥に部屋があるな」
「ライト」
セローさんがそう言うと、剣の柄が強い光を放ち始める。
(へー、杖の代わりになるんだ。ってあれ? セローさんって剣士じゃないの?)
見やすくなった壁をジェスタさんは丹念に調べ始める。
「セロー、お前が叩いてくんね?」
セローさんがトントンと壁を叩くと、壁がかき消える。
(おおー。なんか冒険者っぽい!)
「こりゃ臭いな。レイチェルは下がってな」
壁のあった位置を通り過ぎると、すぐにまた壁が出てきて戻れなくなる。
中には壊れた木の檻がいくつもあった。
またジェスタさんが先頭で中を進んでいく。
ジェスタさんはのんきに口笛を吹いている。
ふいに口笛が止まって、ジェスタさんがストップする。
手を後ろに振っている、私はセローさんに肩を掴まれて後ろに下がらされる、戻れの合図らしい。
「奥にいたのは、なんかの合成魔物っぽいな」
2つほど部屋を戻り、安全を確認してから休憩をとる。
「ありゃ何も食べたりしなくても動くタイプだ」
「倒せそうか?」
「お前なら大体余裕だろうが」
少しの休憩後にさっきの部屋の前まで戻る。
ジェスタさんが火のついた松明を投げ込む。
セローさんがそれに続いて中に入る。
灯りで、奥にいる魔物の姿が明らかになる。
熊の胴体、トカゲの頭に、馬の脚に、鳥の翼に、豚の鼻に、とにかくめちゃくちゃな組み合わせの姿をしていた。
トカゲの頭からとがった氷のつららがセローさんに向けて放たれた。
「炎よ」
放たれたつららを左手から出した炎で溶かして、右手で剣を抜いて突撃する。
右手から振った剣が熊の胴体に吸い込まれる。
キィン、
が、剣より体毛のほうが硬かったようで、切ることができずに弾かれてしまった。
弾かれた勢いを利用して、跳んで距離をとるセローさん。
魔物はセローさんに向けて腕を振るう。
「ほい」
いつの間にかジェスタさんが部屋に入っていて、短刀を豚の鼻目掛けて投げていた。
柔らかい豚鼻に短刀が突き刺さる。それで敵はひるんだ。痛みがあるのかわからないけど。
その隙にセローさんは体制を立て直して、もう一度両手で剣を振るう。
今度は剣が青白く光輝いている。本来の刀身よりも少し長く見える。
そのままその剣が魔物を両断する。
(すごい連携!)
「こりゃ15レベルの駆け出しじゃあ無理だわな」
「こいつの後ろに扉がある」
短刀を魔物から抜いたセローさんは、それをジェスタさんへ放る。
「助かる」
セローさんは動かなくなった魔物を、魔法で浮かせて部屋の隅へおいやる。
短刀を受け取ったジェスタさんは金属製の扉を調べ始める。
「魔法鍵がかかってるな。おーい、中にいる奴聞こえてるか~」
ジェスタさんはドンドンと扉を叩きながら中に向かって叫ぶ。
すると扉が開いて人が出てくる。
「俺たち、助かったのか?」
「ああ、よかったな。レイチェル、食料と水を分けてやれ」
「はい・・・・・・どうぞ」
(うぅ。排泄物の匂いだ。でも5日もいたんだから仕方ないよね)
出てきたのは3人、男の人が1人に女の人が2人、3人はお腹が空いていたのだろう。
渡した食べ物をすべて平らげていた。
彼らのいた部屋はなにかの研究室の様だった。
ベッドもあったが、そこにはさらに男が1人、寝かされていた。
「まだ息があるな。ジェスタ、診てやれ」
「はいよ、レイチェル、背負い袋をくれ」
私はジェスタさんへ袋を渡す。
ジェスタさんによる応急処置が始まった。
私たちは彼らから、ことのいきさつを聞く。
「行き止まりかと思って休憩したら、突然壁が消えて、奥に行ったら強い魔物がいて」
「よくあることだな」
「それでリーダーが負傷して、一番奥の、この部屋に逃げ込んで魔法鍵を掛けたんです」
「そして、前に魔物が居座って出られなくなっちゃったと」
「そうなんです」
なんでも、怪我をしたリーダーに持っていた水と食料を多く渡していたために、他の3人が飢餓状態だったらしい。
「もう1日したら最後の攻勢にでるつもりだったんですけど、本当に助かりました!」
軽装の偵察役っぽい女性に感謝を述べられる。
「ギルドが心配していたぞ。支度をしたら早く帰ろう」
こうして私たち7人は無事に遺跡から脱出して、守衛の方たちに挨拶をしてから帰路についたのだった。
「ところで、依頼料って幾らで受けたんですか?」
「俺たち1人につき3000ゴールド、あとはあの4人の命に幾らの値段をつけるかだ」
「それってギルドに任せたってことですか?」
「そうだな。支払いは、あいつらが今後払える金額をあいつらが決める。今回はそういう契約だ」
(自分の値段は自分で決めろってこと!?)
「これは任務を失敗した自己評価を考える機会になる。小さな金額でもダメだし、大きい金額でもダメだ」
(この世界、やっぱり厳しいな)
そう痛感する私だった。




