ここからはじまる物語
私の名前はレイチェル・デクスター。
田舎の村から出てきた16歳、冒険者志望。
肩より長い赤い髪の毛に緑色の瞳、ありふれた見た目だ。
唯一の荷物は、小さな斜め掛けのバッグが1つ。
お昼ご飯も食べて、体調はばっちり。
村では1番の魔法使いだった私は、馬車を乗り継いで意気揚々とこの辺りで一番大きな街へ出てきたのであった。
(私の冒険はここから始まる。これからどんな冒険が始まるんだろうなぁ~)
私はワクワクを胸に、この街で一番大きい冒険者ギルド、『星の導き亭』へ向かう。
石畳の敷かれた広い道、通りにはレンガ造りの店が所狭しと並んでいる。
村で必死にお手伝いをして稼いだお金を大事に持って、私はギルドの中へ入る。
受付で、
「私、冒険者になりたいんです」
私はバァンと受付のテーブルに手をついて言う。
「では、経歴をお見せください」
(え? 登録料のお金を出せば誰でもなれるんじゃないの?)
「えっと・・・・・・ウサラの村で1番の魔法使いでした」
「・・・・・・それだけですか?」
「はい・・・・・・」
「大変残念なのですが、冒険者はお互いに命を預けて戦う仕事ですので、当ギルドで未経験者はお断りとなっております」
「ええー!」
(そんなこと村で聞いたことなかったよぅ)
「当ギルドへ加入するなら、まずはもっと小さな、誰でも入れるギルドで経験を積んでからがよろしいでしょう」
「わかりました・・・・・・」
私は、とぼとぼとギルドから出る。
一歩目からつまずいてしまった。
(こんなはずじゃなかったのに)
私は早足で、この街で一番小さいギルド、『竜の吐息亭』へ足を運んだ。
「私をここの冒険者にしてください!」
「はい。当ギルドは冒険者カードの表示、レベル10以上の方に加入の資格がございます」
「え?」
(レベルって何? そもそも冒険者カードって?)
「えっと、冒険者カードって何ですか?」
「あなたの能力や特技などが書かれている、冒険者に必須のカードです」
「持っていません・・・・・・」
「発行なら100ゴールドいただければできますが?」
「じゃあ、お願いします・・・・・・」
(冒険者は誰にでもなれるって、そんなの嘘もいいとこじゃん!)
でも、私は村一番の魔法使いレイチェル、もしかしたらレベル10を超えてるかもしれない。
受付の人は手のひらサイズの金属製のカードを出してくる。
あとはよく切れそうなナイフ。
「では、ここに血を」
私はえいやっと、指先を傷つけて血をカードへ垂らす。
浮かび上がってきたのは・・・・・・
「レベル3・・・・・・」
「大変申し訳ありませんが、おそらくこの街では、まだあなたが活躍できる状態ではありません。もっと経験を積んで戻ってきていただきますよう、お願いします」
(終わった・・・・・・私、冒険者になれないよー!)
私は絶望のあまり膝から崩れ落ちる。
もう村に戻るお金すら残っていない。
なんだかんだ馬車での移動はお金がかかるのだ。
(安い宿なら、とりあえず1週間くらいは泊れると思うけど)
とりあえずギルドから出て、今日の宿を探す。
手持ちは約1000ゴールド。
(素泊まり70ゴールド、・・・・・・こっちは80ゴールド。高い!)
(冒険者になって、大金持ちの大魔法使いになる! なんて大見得切って村を出たりしなきゃよかった)
さっきの冒険者カードの発行料も高かったけど、私が村で過ごしていたときは1日10ゴールドですら使うことは稀だった。
私が絶望に打ちひしがれながら歩いていると、宿屋の壁の1枚のチラシが目に留まる。
『魔王討伐や犯罪以外の依頼はなんでも解決します! 依頼は24時間受付します!』
いわゆる何でも屋っていうやつだろう。
そのチラシの下に、小さく、
『一緒に仕事のできる方募集中!、1日200ゴールド以上をお約束します』
私はチラシをむしり取る。
文面を凝視して、条件が書かれていないことを確認する。
(私がここで冒険者になるには、経験を積むしかない。なんでもやらせてもらおう)
私はその決意を胸に、チラシの地図に書かれている何でも屋へ向かった。
飲食店と思われる店の、横の階段から2階にある入口へ入る。
「いらっしゃい。何か御用ですか?」
「えっと、お仕事を・・・・・・」
「あー、はいはい。ではこちらへどうぞ」
出迎えてくれた人は大柄で顔に傷のある茶髪の男の人だった。
3人掛けくらいのゆったりとしたソファーを示される。
目の前には高そうなテーブル。
その奥、さらにもう1つ机を挟んで、私の目の前には中肉中背で黒髪の男の人が高級そうな椅子に座っていた。
その人が座ったまま、
「はい。どんなご依頼で?」
「あ、えっと、違うんです。このチラシ」
私はさっきむしり取ったチラシを見せて、
「ここ、お仕事できる人募集してるんですよね?」
「それは、そうだが・・・・・・」
黒髪の人はチラリと茶髪の人に目配せする。
茶髪の人は私の左側に、机を挟んで、背もたれ付きの椅子に座っている
「お嬢ちゃん。何歳?」
「16です・・・・・・」
ジロジロと値踏みされるように茶髪の人に見られる。
(発育が悪くて悪かったわね!)
私の身長は普通なのだが、村の同世代と比べても、あまりにも胸が乏しかった。
「どうするよ?」
「君、名前は?」
「レイチェル・デクスターです」
「レイチェル、君はどうしてここで仕事をしたいんだ?」
「この街で冒険者になりたいから、経験を積みたいんです。あとお給料がいいから!」
(断られたら村に逆戻りかもしれないし、なんとかしなきゃ)
「私、冒険者になるためなら何でもします!」
「・・・・・・レイチェル、合格だ。君の覚悟を認めよう」
(やった!)
「ただし、何でもするといった以上、手加減はしないからな」
黒髪の人はニヤリと笑う。
(私、やっちゃったかも?)
こうして、私の冒険者として? の人生が始まったのだった。




