02 別れの記憶
お兄ちゃんの家出は急にだった。
お兄ちゃんとは仲良くなかったから、前兆があったのかなんて分からない。
仲良くなかったのに、お兄ちゃんがいなくなって寂しいと思ったのは覚えてる。
パパは事故だったから、それこそいきなりだった。
余り家に帰って来ないし、いつ帰って来るかも分からない人だったけど、もう絶対に帰って来ないんだと分かった時は、やっぱりショックだったんだと思う。
お祖母ちゃんは倒れてから、そのまま意識が戻らないで亡くなった。
お医者さんに覚悟しといて下さいって言われたけど、亡くなった時にはまだ全然覚悟出来てなかった。
チイ叔母さんとの縁は私から切った様なものだけど、あんな事されるとはあの日まで思ってなかった。
それでももう会う事がないかも知れないと思うと、気持ちが沈む。
自分勝手だな。
オジサンは私より優先したい女性が現れたら、その時考えるって言ってた。
そのあと私と結婚する事を決めてくれたけど、ずっとしていたチイ叔母さんとの婚約だって解消したし。
ダイ叔母さんとはいつでも会える。
でもあれきり連絡を取り合っていない。何も言わないからオジサンも私と同じだろう。
一緒に暮らしてたのに、普段思い出さない。
オジサンとも一緒に暮らさなくなったらすぐに、忘れたり忘れられたりするかも知れない。
「羨ましくて、少しからかい過ぎちゃった。ゴメンね?」
マユちゃんがコノハの反対側から肩を抱いてくれる。
「要らないなんて言ってゴメンね?」
ハナちゃんが背中から抱き付く。
「ハナ・・・それじゃない」
頭を抱かれてるから、コノハの胸から声が響く。
「え?なにが?」
「私が取られるとか言ったから」
「そっちか。大丈夫だよ、リノ。オジサンなんか、誰も盗らないから」
「ハナ」
「ハナ・・・寝てて」
「え?何で?」
「寝てなくても良いけど、何で要らないなんて言ったのよ?」
「マユ」
「大丈夫よ、コノハちゃん。ハナ、何で?」
「だってオジサン、ヒョロッとしてて弱そうだし」
「ハナ・・・マユ?」
「大丈夫、大丈夫」
「オジサン、ヒョロッとじゃないから」
「そうなの?」
「かなり力もあるから」
「そうは見えないけど?」
「足だって速いし、スポーツだって得意だから」
「いやいや、スポーツする人の体付きじゃないでしょ?」
「ハナ」
「何よコノハ?だって筋肉なんて付いてなさそうじゃない?」
「筋肉、付いてるから」
「リノ、オジサンの裸、見たの?」
「見ては、ないけど」
「そうだよね?まだそう言う関係じゃないって言ってたし」
「筋肉ある・・・見た」
「え?オジサンの?何でコノハが見てるの?何で?」
「体育祭・・・リノが倒れた時」
「え?リノ、倒れたの?」
「どう言う事?中学の時?」
「確かに具合が悪くなった事あるし、あの時はオジサンに送って貰ったけど」
「オジサン・・・シャツで扇いでた」
「そうだったの?」
「どう言う事?コノハちゃん、ちゃんと説明してよ」
「リノの体を冷ますのに、脱いだシャツで扇いだんじゃない?」
「うん」
「私、それ知らない。覚えてない」
「仕方ない・・・朦朧としてた」
「何で?何で覚えてないんだろう?送って貰ったお礼しか言ってなかった」
「熱中症かなんかで具合悪かったんでしょ?泣かないでよ。泣いても仕方ないよ?」
「コノハちゃん、何で更にリノ泣かすのよ?」
「ゴメン・・・不可抗力」
その時ノックの音と、「どうした?」ってオジサンの声がした。