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「ダークレコードとバイトとお知らせ」




 1−2 「ダークレコードとバイトとお知らせ」



 山田ハンナが転校してきて三日目。次第にイケてるグループからの囲み取材のような質問攻めも落ち着いた頃、それに反して少しずつクラスの男共は動きをみせはじめた。例えばプリントを渡す時に一言二言添えてみたり、掃除当番でわざわざハンナを呼んで手伝ってもらおうとしたり。まあつまり、どうにか近づこうとアピールをする者が増えてきたということだ。そして隣の席の岡野も、それは類にもれない。

「なあなあ、今度の休みさあ。クラスの何人かで隣町のカラオケに行くんだけど、葉太もどう? っていうか、頼む! きてくれよ!」

「はあ? いやだよ」

 と、本心をそのまま伝える。いつもであれば「そっか」で話が終わるのだが、今回はそうはいかない「いや、いこうぜ!」と食い下がる。

「カラオケに行くメンツなんて、クラスで遊びに行くなら見知った顔だろうが。そんなもんに俺は必要ないだろ」

「いやいや、ちがうんだよ。ほら、やっぱさ・・・」

 岡野の視線の先には山田ハンナがいる。席で静かに本を読んでいた。岡野の意図がわかった。つまり山田ハンナもいるからか。そして男子の人数合わせで俺を誘ったとかそんな理由なのだろう。

「悪いがその日はバイトだ。他のやつを誘ってくれ。それにクラスで行きたいやつ募ったらたくさんいるんじゃないか?」

 俺はもう一度山田ハンナの方をちらりと見た。本を読むその佇まいは置物のようにもみえた。



 四時限目は総合学習の授業だ。クラスで二つの班に分かれる。一つは「研究班」といってグループでテーマを決めてそれについて調査や実験をして論文にまとめる。そしてもう一つは「ボランティア班」という町内の行事や活動に参加したり手伝いをするものだ。どちらの班に入るかは希望制でだいたいは自分の進路に合わせて選ぶことが多いため、進学希望の人は研究班、就職希望はボランティア班といった具合に分かれる。

 担任教師から、班ごとにプリントを見ながら役割分担をするようにと言われた。そこで、教室の半分に片方ずつ分かれた。皆が慣れたように机をくっつけて各々が席に座り話し合いを始めていった。

「今度の町内清掃、とりあえず組み合わせはこのままでいいよね。それぞれ担当の人は忘れずに先生からゴミ袋と軍手とゴミ拾い用のあの長いトングをもらってね。・・・それで、えーっと、や、山田さんは、どうしよっか」

 と、ボランティア班のリーダーである大木が、落ち着かない様子で視線を送ると、ハンナはジッとプリントを見つめていた。自分の名前が呼ばれても、なにも気にしておらず反応もない。大木は困ったような顔で周りからのリアクションを求めるが、誰も口を開かない。妙な沈黙がグループ内に漂い、反対側の研究班の方からワイワイ、ガヤガヤと楽しそうな声が響いている。

 だいたい、ボランティア班を選ぶのはクラスの中で物静かなタイプや目立たないタイプが多いと俺は思っている。それにクラスの半数以上は進学を希望しているから必然的にボランティア班の人数が少ない。そういった色々なことが加味された上で、今クラスで一番の注目を浴びている山田ハンナが同じ班にいるのだから、このグループにいる誰にとっても手に余る状況のようだった。

 ちなみに山田ハンナは研究班にいるイケてるグループから誘いを受けていたが、それを断ったようだ。研究班の岡野がなんとも悔しそうにこちらを見ているが無視した。

 落ち着かない雰囲気のまま、とりあえず山田ハンナにエリアを伝えてそれでいいか確認するが、言葉はなく頷くだけであった。まあ、どちらでもいいといった感じだろう。

 そして授業が終わると昼休みには岡野がぶつくさと「ずりいよな」と言っていた。このまま聞いていると際限なく小言をいわれそうなので、話を変えるために、あと妹との話題確保のために最近流行っているゲームについて聞いてみた。


「最近じゃないけど、やっぱりダークレコードじゃない?」

「ダークレコード? っていうゲームがあるのか」

「そうそう。世界一のゲームの賞を獲ったやつだよ。ていうか俺も持ってるし。たぶんうちのクラスでも半分以上はやってるんじゃないかな」

「え、マジか」

「何年か前に発売されて有名なのに、・・・名前も知らないのは葉太くらいだよ」


 ダークレコードというゲームを初めて聞いたのだが、それについて岡野が簡単に教えてくれた。

 舞台は荒廃した大都市で、そのなかで行われるVRMMORPG。特殊能力をもったヴィランと呼ばれる犯罪者たち。プレイヤーは自身も能力者になることによってヴィランを討伐していく。いわゆるゲーム内でアニメや漫画のヒーローを疑似体験できる。ざっくりいえばそういうゲームのようだ。話を聞きながら、岡野がダークレコードのネット動画を見せてくれた。最初、どこかの外国の街を歩いている動画なのかと思うほどリアルな映像に驚いた。そして戦闘シーンになると火や水なんかを手から出したり街中を飛び回ったり、あと仲間とお酒をうまそうに飲んでいたりと、どの場面もそれは実写映画のようだった。

「すげえな。今のゲームってこんなに進化してるんだな。俺最後にやったゲーム、隣町のゲーセンでやったクレーンゲームだよ」

「葉太のそれなんの比較にもならねえだろ。・・・しかも最近になって大型アップデートが追加される情報もあったから、まだまだ盛り上がりそうで楽しみなんだよな」

 


 ーーーーーーーーーー



 バイト先であるスーパー『おおたけ屋』は隣町にある個人経営の店である。歴史あるスーパーで、大型チェーン店の煽りにも負けず続いている、地元で愛されている老舗だ。客層は家族連れや高齢者が多いものの、休日になると隣町に遊びにきた中高生が立ち寄る場所にもなっている。特に店内の一角に設けられているコロッケ屋が有名だ。そんなおおたけ屋に、高校一年生の秋から働いている。学校のある平日は16時半から19時半までのシフトで入っている。仕事内容は主に裏方のバックヤードの業務が多い。同じく働いているスタッフは、俺以外はおばさん達が多く、休憩室で一緒になると「学校はどう?」「彼女いるの?」とあれやこれやと質問を受けることがあるが、基本的にはみんな親切な人ばかりだ。


「ちょっと岩波くん。これよかったら帰りに持ってかえってね」

 ダンボールを運んでいると、後ろからバイトリーダーの大竹さんが声をかけてきた。「うすっ」と短く返事をする。ダンボールには2リットルのペットボトルが詰められていて、重くて手がシビていたので慎重に降ろした。改めて見ると大竹さんの手にはジャガイモとキュウリが詰められたビニール袋があった。どれも少し時間が経って芽が出ていたり傷みかけた売れ残り品だ。

「すみません。いつももらっちゃって」

 頭を下げると「いいのいいの」と大竹さんは手を振る。

「いっつも頑張って働いてくれてるんだからいいのよ。うちのオバちゃんパート軍団も岩波くんだったら残り物もらっててもなんも文句言わないしね。それに、そのダンボールだって重たいから代わりにやってくれてるんでしょ?」

「いやあ、まあ、みんな腰が痛いってよく言ってるんで。腰悪くして仕事休むことになったら大変だろうし」

「まったく岩波くんったら。うちの息子も少しは見習ってほしいもんよ。・・・あっ、私も手伝うね」

「え! ああ、いいっすよ。俺やっときますから」

 自分がやりますと言っても、大竹さんはそれを無視してそそくさと積まれたダンボールを持ち上げる。運び出しながら、大竹さんに家のことを聞かれた。

「お母さんいなくて大変だと思うけど、大丈夫? ご飯はちゃんと食べてる?」

「うすっ。まあ、大変なこともありますけど、ちゃんと食べてますよ」

「そう? ・・・困ったことがあったら相談するのよ」

 うちの家庭については大竹さんも知ってくれている。知っているからこそ、こうして校則違反ではあるが雇ってくれている。正直、規則通りのアルバイトでは全くお金が貯まらないので、大竹さんには感謝してもしきれない。それに、スーパーで余り物が出たらこっそり渡してくれたりと、気にかけてもらっている。だから、俺はその分バイトを優先して、休日、祝日でも入るようにしているし、こういった雑用も率先してやるようにしていた。

 全て運び終わると大竹さんと一緒に休憩室へと戻った。歩きながら「そういえばさあ」と聞いてきた。

「岩波くんはなんとかっていうゲーム知ってる? 流行ってるやつ」

「なんとかじゃ何もわかんないっすよ」

 大竹さんの単語単語の情報から、どうやら息子のしているゲームは今日岡野から聞いたダークレコードのようだった。

 俺がゲームの名前を言うと「そうそう! それ!」とビンゴゲームに当たったみたいに手を叩いて喜んでいたが、すぐに眉をしかめて「はまっちゃって全然宿題もしないし」と嘆くように言った。どうやら岡野が言うように色々な人がやっているんだなと改めて思った。

「流行ってるだかなんだか知らないけど、ああいうのって依存症? みたくなる人もいるみたいだしニュースでも現実とごっちゃになる人がいるって言ってたから、なんか怖いよねえ」

 そんな話を聞きながら妹の顔が頭に浮かぶ。はじめは一日中ゲームをしているようだけど、・・・まあ大丈夫だろう。ちゃんと毎晩一緒にご飯を食べてるし(昼夜逆転して顔を合わせないこともあるが)、声をかけたら返事もするし(集中すると聞こえないときもあるけど)大丈夫、だろう。・・・たぶん。


 バイトが終わると学校の鞄にもらった野菜を入れて、急いで退勤した。気づけば小走りになっていた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ■ 運営からのお知らせ(6/25)

 

 平素より本ゲームである『ダークレコード』をお楽しみいただき誠にありがとうございます。

 以前より告知しておりました大型アップデートについて、詳しい日時が決まりましたのでお伝えいたします。

  日 時:6月30日(土)午前9時00分から7月1日(日)午前9時00分まで


 日時の期間は本ゲームへのログインは行えませんのでご了承ください。

 尚、アップデートの内容につきましては自社HPをご確認ください。また、今回のアップデートではプレイヤーの皆様へサプライズをご用意しておりますので楽しみにお待ちいただけたらと思います。

 なにかお問い合わせがあれば下記の問合せフォームをご参照ください。


 それでは、これからも『ダークレコード』をよろしくお願いいたします。



                  株式会社 G&Aカンパニー 開発部より




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