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知らない本人、気になる彼女

今自分自身が話題になっていることを全く知らない慎也はいつも通り学校へ登校していた。


「はぁー…なんで合成だって思われてるんだろうな」


そんな憂鬱な気分でとぼとぼ歩く。確かに興味本位で俺の配信を見に来てくれる人は増えた。だが純粋に俺の配信を楽しみにしてくれている人は全然いないように感じる。


あの強烈な衝撃を、興奮を、高揚感を、みんなに味わって欲しい。あの感覚を1度でも味わってしまったら直ぐに虜になってしまう。


「まぁ俺は全然そんな配信出来てないんだけどなHAHAHA」


自虐を入れながら教室に入る。途端、騒がしかったみんながピタリと話を止めて俺の方を見てきた。


「…え?な、なに?」


戸惑いながらそんな声を出す。そんな俺に大智が近寄ってきた。


「お、おい大智。なんなんだこの空気」

「は?お前気づいてないのか?」

「なにに?」


本気で分からなかった。俺がクラスで何か問題を起こしたわけでもない。みんなからこんなに注目される出来事なんて何も起きていないはずだ。


「お前SNSちゃんと見てるか?」

「え?」


俺はインターネットをあまり見ない。だからクラスの友人と少し話が合わないと言うことがこれまでも何度かあったが今回の件もそれが関係しているのか?


Tritter(トリッター)のトレンドで1位になってるんだぞ?」

「は?」


それを聞いて俺の頭はその言葉を理解できなかった。数秒呆然としたが直ぐにスマホを取り出してTritterを開く。そしてトレンドを確認すると1位に『慎也』、2位に『慎也 配信』、3位に『夏美 放送事故』などがランクインしていた。


「…なんなんだこれ」


そういうしか出来なかった。


「お前の配信がめちゃくちゃバズってるんだよ」


大智が呆れたようにそう言ってきた。


「な、なんで…」

「なんでって、お前夏美ちゃん助けただろ?」

「夏美…あ、あぁ真っ黒うさぎに襲われてた女の子か」


確かにそんな子を助けた記憶がある。


「…真っ黒うさぎ」

「なんだよ」

「あれはブラックラビットって言って上級ダンジョンに潜るような人たちが何人かいてようやく倒せるレベルの敵なんだぞ?」

「は?そんなわけないだろ」


大智の言葉に耳を疑った。そんなはずは無い。もしそんなに強いのなら俺みたいなただの高校生が倒せるはずがない。


「じゃあネットの反応でも見てみろよ」

「あ、あぁ」


そう言われて次はネットの掲示板を見てみる。そこにはブラックラビットの脅威や俺がどれほど強いかなどの考察がされていた。


「最後にyoTUBE見てみろ」


言われて見てみる。


そこには俺の配信や夏美という子の配信の一部が切り取られた動画が大量に投稿されていた。自身の配信ページを見たら昨日の配信が50万回再生、初回の配信か35万回再生、チャンネル登録者が5万人を超えていた。


「何が起こってるんだ?」


困惑していた俺に大智が声をかけてきた。


「これでわかったか?お前は今めちゃくちゃバズってるんだよ」

「そ、それは分かったけど…」


正直全く実感が湧かなかった。自分の配信ページを見ても他人のものだとしか思えない。


「大智、俺これからどうしたらいいんだ?」

「知るか」


-------------------------------------------------------

「はぁ…」


私は大きなため息を吐いた。ため息の理由はあの話題の配信のせいだ。


「私のキャラが…」


そう、あの配信のせいでキャラを作っていることがバレてしまったのだ。


ネットの反応を見てみると


『夏美全然キャラ違くて草』

『今まで必死にキャラ作ってたんだねww』

『正直俺はこっちの方が好き』


「これからどうしよう…」


肯定的な意見もある。でもやっぱりこれまでのスタイルの方が人気が出ると思う。


そりゃ茉莉也ちゃんみたいに素の自分で人気が出るならそっちの方が絶対にいい。でも私にはそんなカリスマ性はない。なんなの茉莉也ちゃん。ずっとあの配信スタイルで登録者数150万人とか意味わかんないでしょ。


凄いという純粋な気持ちの裏には羨望と嫉妬が入り交じっている。どうしてあの子ばっかり。そんな醜い感情も抱いてしまう。こんなことを思ってしまうから私はダメなんだろうな。そんなことを思いつつ別のことに想いを馳せる。そう、助けてくれた彼のこと。


「高雛 慎也…歳は多分私と同じくらいだよね…」


彼は絶体絶命の私をなんでもない事のように助けてくれた。圧倒的な強さで。彼のチャンネルを今朝見つけた。その時の登録者数は5万人程度だった。だが学校から帰ってきて見てみると既に10万を超えていた。そんな僅かな時間で5万人も登録者を増やしたのだ。それは私がかなりかけて得た登録者だった。それを彼は一瞬で得たのだ。私の中に醜い劣等感が湧き出る。それと同時に違う感情も湧き上がる。この気持ちは…きっと気の迷いだ。私はそんなに軽い女じゃない。ただ助けてもらっただけでそんなことになるなんて考えられない。私は首を横に振って湧いて出た考えを一蹴した。


「私もあんなに強くなれたらな…」


そうすればきっと登録者も増える。そうすればこの惨めな気持ちも少しは紛れるのに。


「…かっこよかったな」


私は無意識にそう呟いた。その発言が自分のものだと気づいて直ぐに口を抑えた。違う。そんなわけない。私はそんなに軽くはないんだ。助けて貰っただけで惚れてしまったなんて、そんなことあるはずがないんだ。


微かに熱くなる頬を気のせいだと言って気付かないふりをする。


その時、スマホに1つの通知が音を立てて表示された。私は画面に目を向ける。そこには彼が配信を始めたというメッセージが表示されていた。


…別に気になるとかじゃない。ただ今話題になっている彼がどんな配信をしているのか見るだけだ。決して彼自身が気になるとかそんなんじゃない。断じてない。


誰に言い訳しているのか分からないがそんな感情を抱きながら私は彼の新しい配信をタップして開いた。

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