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疲れた

心臓の鼓動が早くなる。息が浅くなって苦しい。


全力で走る。足がちぎれてなくなってしまうのではないかと思うくらいに全力で。


中宮さんとの電話を終えた後俺は目の前が真っ暗になった。俺の家でオーバーフローが起きた。つまり家にいる葉由奈が危ない。その事実だけで気を失ってしまいそうになる。今葉由奈がいなくなってしまったら俺はもう1人だ。オーバーフローで家族全員を失うなんて…そんなの冗談じゃない。


もし葉由奈が1度でもダンジョンに潜っていれば魔法を使えて多少は持ちこたえることが出来るかもしれない。だが葉由奈は1度もダンジョンに潜ったことがない。だから今の葉由奈はただの一般人と何ら変わりない少女だ。


「くそ!なんで…なんでなんでなんで!」


どうしてだ?俺は定期的にあのダンジョンに潜っていたはずだ。それなのにどうしてオーバーフローが起きるんだ?そんなことを考えるが今はそれどころじゃない。


「『影を移動する者(シャドウ・ムーブ)』!」


俺は影に溶けながら家に向かう。


「なん…だよ……これ」


家についた俺は…家だったはずの場所についた俺はその光景に唖然とした。そこには家だったはずの建物が倒壊して無くなっていた。そして家の敷地を埋め尽くすおびただしい量の魔物。真っ黒なうさぎや岩をまとっているトカゲのような魔物。更には俺がダンジョンに潜っていても1度も見かけなかったような魔物さえいた。


「葉由奈!!どこだ葉由奈!!」


そう叫ぶが葉由奈の声は帰ってこない。どこだ。どこにいるんだ。もしかして倒壊した建物の下か?!


そう思い俺は崩れた家の瓦礫を退けようとする。だがそれを許さない存在がいた。おびただしい量の魔物だ。


「どけよ…今はお前らに構ってられないんだ!」


そう言って魔法を発動する。


「『鉄の処女(アイアン・メイデン)』!」


そう唱えると近くに居た有象無象の魔物が一気に消滅する。だがそれでも全く魔物の勢いが衰える気配は無かった。


「くそ!」


俺は悪態をつきながら更に魔法を発動させる。


「『追跡者(チェイサー)・限界突破(リミットブレイク)』!」


そう唱えると俺の背後から無数の拳銃が現れ庭にいる魔物達に向かって一斉に銃弾を発射した。それらは自ら意思を持っているかのように蠢きその場にいた魔物全てに命中した。だが命中した魔物は全く消滅していなかった。魔力は大量に流れ込んできている。だが絶命させるまでの威力は無かった。


魔力は大量にある。だがこの量の魔物を一度に処理しきる魔法を持ち合わせていなかった。


「『深淵から出迎える者(グリート・アビス)』!」


俺は使える魔法を片っ端からつかった。


「『暗黒の繭(ダークネス・コクーン)』!」


威力の高い魔法は少数の的に有効な魔法ばかり。こんなにも多い魔物を一斉に片付けることなど出来ない。


「何か…何かないのか!?」


こうしている内にも葉由奈が危ないかもしれないんだ!


これまで自分の戦ってきた魔物を考えてみる。その中で1番強かった的は言わずもがな。封鎖されたダンジョンのボスのドラゴンだ。あいつはどんな魔法を使っていた?


「…『全ての(オール・)終焉(ドゥームズデイ)』」


これは純粋な魔力を一点に集めて世界を破壊できるほどの威力の魔力の玉を打ち出す技だ。だがそんなことをしてしまえばここら一帯が更地になってしまうことは誰でも分かる。だからここに少し俺の魔法を混ぜる。闇魔法を純粋な魔力と混ぜる。それは極めて困難なことだ。何せ魔法の発動には魔力がいる。そのため闇魔法を混ぜてしまうとそっちに引っ張られて全てが闇魔法になってしまいそうになる。だがそれを極限の集中力で混ぜ合わせる。


そして出来たのが高い魔力を持つ敵にだけ有効な広範囲の攻撃。今の俺が求めていた魔法だ。


「消えろ」


俺は『身体強化』で高く飛び上がり、そう言って魔法を放つ。魔力の玉が地面に衝突した瞬間、辺り一面が真っ暗な闇に染まった。まるでいきなり夜が訪れたかのようになる。


そしてその闇が消えていく。庭に目を向けるとそこには魔物が一匹もいなくなっていた。


それを確認した俺は急いで瓦礫を退け始めた。


「葉由奈…葉由奈!」


瓦礫の山を乱暴に退かす。どこだどこだどこだ!?


息がしにくくなる。大丈夫だ。きっと大丈夫なはずだ。


自分にそう言い聞かせながら手を動かし続ける。そして見つけたのは…


「…血?」


そこにはどこからか流れている血のような液体があった。


そんなはずない。そんなはずないんだ。葉由奈は生きてる。そしてまた元気にお兄ちゃんって呼んでくれるはずなんだ。


俺はその液体を追うように瓦礫を退ける。そして見つけた。


「はゆ…な?おい、葉由奈?」


そこには目を閉じて血を流している葉由奈の姿があった。


「返事してくれよ。なぁ…葉由奈…」


足が震える。立っていられなくなりそうになる。


縋るように葉由奈を抱き寄せる。肌は冷たく生気を感じられた無い。抱き寄せた身体も全く力が入っておらずだらりとしている。


「なぁ…嘘だろ?いつもみたいに笑ってくれよ…葉由奈…」


理解したくない。受け入れたくない。脳が情報を入れないようにしている。それでもどうしても目から情報が入ってきてしまう。


「葉由奈…起きろよ。葉由奈」


何度呼んでも何度揺すっても葉由奈は目を覚まさない。


「起きてくれよ…頼むよ…」


目からは自然と涙が溢れ出してくる。否が応でもでも理解してしまう。葉由奈は…葉由奈は死んでしまったんだと。


1度理解してしまったらもう感情を抑えることが出来なくなってしまった。とめどなく涙が溢れだしてくる。嗚咽が止まらない。


「う…ああああああぁぁぁぁぁ!!」


俺は全てを失った。生きる気力を、光を、日常を。母さんも、父さんも、葉由奈も。全て奪われた。それはオーバーフローが起きたからだ。


もう嫌だ。何もしたくない。何も考えたくないし生きたくない。


どうせ俺はもう1人だ。誰も悲しむ人なんていないんだろ。




















もう疲れたよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです!!! [一言] 前2つの感想キモすぎ お前らの勝手なこうしてほしいなって考えを人の作品に押し付けんな もう読みたくないなら勝手にそうしろ、一々感想で言うな
[一言] うん、お疲れ様… 路線変わりすぎて風邪引きそう
[一言] 緩い最強ものに唐突にシリアスぶっ込むの流行ってんのかね 最近別の緩い最強ものがいきなりの婚約者人質にとられて国の犬になる展開になったから切ったけどこれも切るしかない残念 純愛ものかと思って…
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