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妹の心中、兄の決断

俺は気づくと家の前まで戻ってきていた。連盟で5億という現実味の無い金額を告げられてから頭の中が真っ白でここまでの道のりを曖昧にしか覚えていない。


配信は既に切っている。今回は同じ轍を踏まない。それと登録者数が80万人を突破していた。それでもまた目が飛び出しそうになってしまった。


まだフラフラとする足取りのまま玄関の扉に手をかけて家の中に入る。


するとそこには仁王立ちで待っている葉由奈がいた。


「は、葉由奈?どうしたんだ?」


戸惑いながらそう問う。


「お兄ちゃん、こっち来て」

「あ、お、おい…」


そう言って葉由奈は踵を返して歩いて行ってしまった。1度もこちらを振り返ることなく。何か葉由奈を怒らせるようなことをしてしまっただろうか?六柱との戦いは死ぬ心配はなかったはずだ。ならなんで…


「お兄ちゃん、早く来て」

「あ、は、はい」


葉由奈の発した言葉に含まれている圧に負け、敬語で返事をして急いでリビングへ向かう。


「早く。ここに座って」

「は、はい」


そう言って仁王立ちしている葉由奈の前に正座する。


「ねぇ、お兄ちゃん。魔物の素材、5億円もしたんだって?」

「そ、そうなんだ!これでお前にも贅沢を…」

「ねぇいつからダンジョンに入ってたの?」


葉由奈に言葉を遮られる。


「…」

「答えて」


葉由奈が俺の目をじっと見つめてくる。葉由奈は今一体何を考えているのだろう。


「…メタホールが庭に現れた時、それがなんだか知らないで触ったんだよ。その時にダンジョンに転移たんだ」

「庭にあるあれメタホールって言うの?ていうか初めてあれが出てきた時って…お兄ちゃんが中学生の時だったよね?」

「あ、ああ」


確か中学2年生の初めの頃だったと思う。


「そんな時からあんな危険なダンジョンに入ってたの?なんで私には何も言ってくれなかったの?」


険しい表情をしている葉由奈の目には涙が浮かんでいた。…俺は、俺は葉由奈のことをなんにも分かっていない。今だって言ってくれるまで何を考えていたのか分からなかった。


「ごめん…」


俺にはただ謝ることしか出来なかった。それ以外に葉由奈にかける言葉なんてなかった。


「私は…私は心配なの…お兄ちゃんもお父さんとお母さんみたいにある日突然いなくなっちゃうじゃないかって…心配なの…」

「…」


葉由奈は俺の胸に頭をぶつけながら俯いた。俺はきっと葉由奈の気持ちを軽視していた。なんだかんだ言って許してくれるんだろうと、そう思っていた。完全な甘えだ。俺は葉由奈に甘えていた。自分の好きな事だけをしていた。そのせいで葉由奈に要らない心配をかけてしまった。しかもその心配を大したことないだろうとタカをくくっていた。俺は…自分が情けない。


「わかった。お兄ちゃん、ちょっとの間ダンジョンに潜らないよ」

「え?ほ、ほんと?」

「あぁ、ほんとだ」


俺がそう言うと葉由奈が勢いよく顔を上げた。


「で、でも…私はお兄ちゃんの楽しみを奪いたい訳じゃ…」

「いや、いいんだよ。妹に心配させる兄貴なんて居ていいわけがないからな。それにお金ならもう沢山あるんだ。久しぶりに贅沢ができるぞ」

「おにい…ちゃん…」


葉由奈はついに泣き出してしまった。でもそれはきっと悲しみの涙ではないのだろう。どちらかと言うと緊張の糸が切れて自然と涙が溢れだしてきているように思える。俺は葉由奈にここまで心配させてしまっていたんだな…そんなことにすら気づけなかった自分に強く憤りを感じた。


「…」


俺の胸元で際限なく泣き続ける葉由奈を力強く抱きしめながら己の傲慢さを戒めた。


しばらくすると葉由奈は泣き止んだ。目元は赤く腫れ上がってしまった。


「…ところでお兄ちゃん」

「ん?なんだ?」


葉由奈に呼ばれて返事をする。


「お兄ちゃんの妹は私だけだよね」

「き、急にどうしたんだ?当たり前だろ?」


俺に妹は1人しか居ないはずだ。生き別れとかがない限り。


「そうだよね。じゃあなんであの子にお兄ちゃんって呼ばせてるの?」

「…え?」


なんのことだ?!本気で分からない。しかも目の前の葉由奈が怖い!目が黒一色になってしまっている。しかも全く表情がない。無表情と言ってしまうことすらはばかられるような程に表情が抜け落ちている。


「な、なんのことだ?」

「…へー?とぼけるんだ?私配信見てたよ?あの小学生くらいの女の子にお兄ちゃんって呼ばれてたよね」


小学生…もしかしてあゆちゃんのことか?


「も、もしかしなくても…あゆちゃんのことか?」

「そうだよ、そう。あゆちゃん」


明らかに怒ってらっしゃる!なんだか禍々しいオーラを纏っているように見える…


「もしかしてお兄ちゃん…あの子のこと新しく出来た妹みたいだとか思ってない?」

「お、思ってない思ってない!」

「本当?」

「本当だ!」


今これを否定してしまうと何故か命の危険があると本能が訴えている。


「…お兄ちゃんの妹は私だけなんだから」

「え?そ、それって…」

「っ!も、もう私部屋に戻るから!」


そう言って葉由奈は顔をぷいっと背けてずんずんと歩いて行ってしまった。


「…嫉妬?」

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