査定、検査
模擬戦場から出た俺は中宮さんの後ろについて歩いていた。
「これから魔物の素材を査定する場所に行きます。そこに着きましたら今日持ってきている魔物の素材を出してください。職員が全て査定します」
「分かりました」
『おぉ!ようやく査定か!』
『どれくらいになるんだろうな?』
『さぁ?』
今気づいたのだが同接人数が100万人を突破していた。へー…100万人…
「はっ!?100万人?!」
「高雛さん?」
「あっ!い、いえ、なんでもありません」
『うおっ!同接100万人超えてるじゃん!』
『えぐww』
『100万人って…とんでもないな…』
『そりゃ六柱と戦う配信なんて今までになかったからなww』
どうなってるんだ…100万人…100万人…
何度も100万人という表示が頭の中で駆け巡る。どうなってるんだ…登録者が100万人を超えている配信者なら見たことがあるが同接人数が100万人を超えている配信者は見たことがない。
「そろそろ着きます」
エレベーターに乗って上階へ向かっている時に中宮さんにそう言われた。
未だに困惑しているが、俺はうずうずしていた。一体どれほどの金額になるのだろうか。俺はあのダンジョンにはかなり潜っていた。そして素材もそれなりに集まっている。これを全て売るのだ。少なくとも1000万はあって欲しい。それだけ儲ければ飛び跳ねて喜ぶ。
「着きました。ここです」
そう言って通されたのはエントランスと同じような作りをしている部屋だった。数人の職員が受付にいる。
「ここの職員に持ってきた魔物の素材を渡してください」
「分かりました」
俺はそう言って『深淵から出迎える者』を発動した。すると地面に真っ黒な水溜まりのようなものができ、そこから無数の腕が生えてきた。
「ひっ!」
それを見た職員の数名が小さく悲鳴をあげる。
「えっと、お願いします」
俺がそう言うと無数の腕は下方向に一度沈み、もう一度上がってきた。その手には魔物の素材が握られていた。
「は、はい。ではここにお出しください」
指定されたのはかなり大きなお皿のような物の上だった。言われた通りにそこに全ての魔物の素材を出した。
「え、えっと?」
『おいおいおいww』
『ちょっと待てよww』
『どんだけあるんだよ笑』
すると職員が困惑していた。俺も困惑していた。なぜならかなり大きいはずのお皿の上から魔物の素材がポロポロと溢れてしまっているのだから。俺自身もこんなに素材が集まっているとは思っていなかった。
「こ、これで全てですか?」
職員の人は引き攣った笑みを浮かべながらそう言った。
「は、はい。よろしくお願いします…」
俺は申し訳なく思いながらそう言った。これはきっとかなりの時間がかかりそうだ。
「…あの、高雛さん」
「はい?なんですか?」
突然中宮さんから声をかけられた。
「高雛さんの魔法は連盟が把握している魔法のうちのどれにも当てはまらない魔法なんです」
「はぁ…」
そんなことを言われても俺自身も分かっていない。
「それにその魔法は明らかに強力すぎる」
「…」
『確かにな』
『俺も見たことない』
『結局この魔法はなんなんだ?』
中宮さんは何を言いたいんだ?
「それについて少しでも情報が欲しいので査定が終わるまでの間、高雛さんの身体を調べさせて頂きたいのです」
「…調べるって、一体何をするんですか?」
俺は中宮さんに疑うような目を向ける。いきなりそんなことを言われては警戒してしまう。何をされるんだ?
「そ、そんなに身構えないでください。ただ簡単な検査をするだけです」
「…」
そんなことを言われてもこちら側にはなんのメリットもない。
『そんなこと言ったってな』
『明らかに怪しいよな』
『慎也にタダで検査させろって言ってるんだろ?』
「もちろんタダとは言いません。謝礼をつけさせて頂く予定です」
「…ほう?」
俺は眉をピクリと動かしながらそう言った。
『あ…慎也の顔が変わったww』
『謝礼に反応したなww』
『身の危険より金を優先する男w』
『お金第一で草』
「少しばかりですが…200万円ほど」
「何してるんですか?早く行きますよ?」
俺は中宮さんに向かってそう言った。
「…はい。行きましょうか」
『中宮さん若干呆れてて草』
『慎也がどういう人間か分かってきたんだろうなww』
そして連れてこられたのは様々な機械が置かれている小さな部屋だった。どの機械も見たことがないようなものばかりで物騒な感じだ。そしてそんな部屋の中に1人佇んでいる男がいた。
「先生、少し調べて貰いたいことがあるんですが…」
先生と呼ばれたその男はこちらを振り返った。
「なんだ?俺は今忙しいんだが…」
その男は髭は生え放題で手入れなどしていないと言うことが窺える顔で、髪は痛みまくって腰ほどまでに長い。だが顔つきは悪くなく、きっときちんと手入れすればかなりのイケメンだろう。
『ボサボサw』
『なんだこのホームレスww』
『ホームレスは言い過ぎだろw』
「すみませんが、高雛さんの身体を検査してもらいたくて…」
「なんだ?何か異常でもあるのか?」
「いえ、そういう訳ではないんです。高雛さんの魔法がどういったものなのか調べて貰いたくて…」
男はそう言うと俺の方に近づいてきて顔、胴、脚と順に見ていく。
「ほう?魔力が異常に多いな…いや、多すぎるな…」
「魔力の量なんてわかるんですか?」
自然と口がそう動いてしまった。確かに俺自身、魔力の流れを感じたりすることはできる。だが魔力の量などは分からない。
「ん?あぁ、俺は自分の身体を改造してるからな。だから俺の目には魔力の量が分かるような手術が施されている」
「な、なるほど…」
自分の目を…考えただけでも身震いしてしまう。
「見たこともないような魔法を使うんです」
「見たことのないような魔法?坊主、ちょっと使ってみろ」
「は、はい」
さすがにここで攻撃魔法を使う訳にはいかない。
「『影を移動する者』」
俺がそう唱えると俺の身体は霧のように消えた。
「…面白い」
それを見た男は一言そう呟くと何やら考え込んでしまった。
「何系の魔法だ?ベーシックな魔法は当てはまらない…新種の魔法か?だとしたら特性は?どんな原理で消えた?」
『影を移動する者』を解いた俺は男に話しかけた。
「多分特性は魔力を吸収する事だと思います」
「なに?魔力を吸収する?どういうことだ?」
ずいっと顔を近づけてきた男から距離を取りながら説明する。
「相手の攻撃魔法などを全て魔法で吸収して自分の魔力に変換することが出来るんです」
「特性は吸収…ならこれ程までの異常な魔力量も説明できる。だがそれでも説明できないことがある。基本的に魔法はその人の魔力量によってどんな属性の魔法が付与されるか決まる。なら坊主は最初からこれ程までの異常な魔力を保有していたのか?」
また1人でブツブツと言い始めてしまった。俺は特に何かがあった訳じゃない。生まれてからずっと普通の生活を送っていたはずだ。…あぁ、でも普通じゃないことと言ったら
「家の庭にメタホールがあるんです」
「家の庭?…あぁ、そうか。なるほどな」
「何か分かったんですか?」
1人で納得してしまっている男に中宮さんが声をかける。
「簡単なことだったんだよ。この坊主は家の庭にメタホールがあると言った。そうだな?」
男はこちらに確かめるように聞いてきた。
「は、はい。そうです」
「メタホールは魔力の多い場所にしか生成されない。つまり坊主の家が魔力で満ちていると言うことだ。そして坊主は小さい頃からずっとそこで住んでいたはずだ。違うか?」
「そうですけど…」
確かに俺はずっとあの家に住んでいる。
「小さい頃から魔力に触れ続けてきた坊主が普通の魔力量に収まるわけが無いんだよ。そしてそんなバカでかい魔力量を持ってしまったせいで魔力を吸収するなんて特性を持った魔法が付与されたってわけだ。それに純粋に魔力を持っていると身体能力が強化される。つまりお前はめちゃくちゃ強いって事だよ」
『ほえー、なんだ最強ってことか』
『選ばれし戦士…』
『魔法主体の慎也には最高の家だったってわけか』
なんだか色々と言われたが、つまり俺は魔力の量がめちゃくちゃ多くて、その魔力量に見合った魔法が俺の今の魔法ということか?
「なるほど…ありがとうございました」
中宮さんがそう言うと男は右手を上げた。
「それでは戻りましょうか」
中宮さんが俺にそう言ってきた。俺はそれに頷き、部屋を後にした。
先程の査定場所に戻ると、職員の1人が近寄ってきた。
「中宮さん、査定終わっております」
「お疲れ様です。では早速査定額の発表をお願いします」
中宮さんがそう言うのを俺は唾を飲み込みながら見ていた。さぁ、どうだ?どれくらいの金額になるんだ?
『ワクワク』
『wktk』
「合計金額、37,449,615円になります」
「っ!そ、そんなに貰えるんですか?!」
1000万ほどあればいい方だと思っていた。だがまさかその約4倍近く貰えるなんて…
『おぉー』
『まぁ結構高いな』
『だいぶ生活楽になるんじゃないか?』
「あ、すみません」
そう思っていたのだが、職員がそう言った。
「はい?」
「金額を間違えていました」
『マジ?』
『さぁどうなる?!』
あれ?ここから減るのか?そんなに減らないで欲しいんだけど…
「こちらが正しい金額となります。合計金額、374,496,150円になります」
「……は?」
『は?』
『は?』
『は?』
え?今なんて言った?3億?は?
「高雛さん、一度にこれだけの金額をお渡しすることは出来かねますので銀行に移させていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はい…」
俺はただ呆然としながら返事を返すことしか出来なかった。
「すみません中宮さん」
「はい?なんですか?」
職員が中宮さんに話しかけた。
「このお方が高雛さんなんですか?」
「そうですよ」
中宮さんがそう答えると職員は俺に向き直って頭を下げた。
「すみません!」
「え?な、なにが…」
「高雛さんだとは知らずに査定しておりました」
「えっと?」
俺は意味が分かっていなかった。俺だと何か変わるのか?…あれ?確かライセンスを所得する条件があったような…連盟が手の付けられないダンジョンを攻略、封鎖する代わりに買取額を1.5倍するって言ってたような…
「本当に申し訳ありません。こちらが正確な数字となります。合計金額、561,744,225円になります」
『ふぁ!?』
『ご、5億…だと?』
『おいおい…一瞬で俺の生涯賃金以上の金を稼ぎやがった…』
「ご、ご、5億…」
「あ、それと高雛さん。先程の検査の謝礼としてここに200万を追加させていただきます」
「あが…あがが…」
実感の湧かない数字に頭の中が真っ白になる。
「説明し忘れていましたが、探索者と言う職業は常に死と隣り合わせの仕事となっております。なので所得税など、諸々の税金が全て免除されております。なので今提示された金額全てが高雛さんの通帳に入ることになります」
「は、はひ…」
もうダメだ。何も考えられない。
『慎也顔マヌケすぎて草』
『そりゃそんな顔にもなるだろww』
『高校生がこんな大金持ってちゃダメだ!おじさんが管理してあげるから持っておいで?』
『クズが湧いてて草』
葉由奈『お兄ちゃん、帰ってきてからお話があります』
『葉由奈キター!』
『またお話しww』
『そりゃそうだww』
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