83.不幸になんてしてやらん(最終話)
神殿に大量の飾り付けがされる。民はこぞって布や飾り物、花を持ち込んだ。見る間に整えられていく神殿の入り口は、溢れんばかりの花びらで埋め尽くされた。まるで花畑だ。風で飛んだ花びらを拾い、小さな子が階段の上に戻す。友人達と一緒に拾う姿は可愛らしかった。
「可愛い」
「アデライダの時も言っていたな。子どもが好きなのか」
「……うん」
大好き。可愛い子もお転婆な子も、悪戯大好きな男の子も。一度目の日本での人生で、私に子どもはいなかった。それどころか結婚もしていない。二度目は婚約者に捨てられて死んだ。ギータ様に食べられちゃったのよね、物理的に。だから自分の子がいたら可愛いだろうな、と想像しながら見つめた。
「それは与えてやれるぞ」
驚いて振り返る。与えてやれるって、まさか……作るの? 神様ってすごいな。感心しながら「欲しい」と強請ってみた。どうしてかな、ギータ様が額を押さえて「そうじゃない」と呟く。え? 強請り方が下手なの? 首を傾げたら、苦笑いして額と頬にキスをされた。
最後に唇を塞いで、ぺろりと舌で舐められる。びくりと肩を揺らして顔を赤くしたら「こういう意味だ」と耳に声を吹き込まれた。本当にいい声してるよね、ぞくぞくする。というか、こういう意味って……えっと、子どもを作る……嘘っ!
首や手、耳もすべてが真っ赤になる。自分でもどうして気づかなかったと疑問に思うほど、あからさまに誘われたのに。本物の子どもみたいな受け答えしちゃったじゃない! ギータ様はくすくす笑いながら、膝に乗せた私の白いドレスを弄る。
「婚礼衣装を着て、子どもが欲しいと強請るなんて……俺の花嫁は本当に可愛い」
たぶん、白い衣装で隠れていない場所はすべて赤い。ギータ様がぱちんと指を鳴らせば、階段の花びらに悪戯していた風が止んだ。私の足が地について彼の隣に並ぶ。見上げる先で、銀と金が混じった髪色の美しい神様が微笑んだ。
吸い込まれそうな金の瞳は縦に瞳孔が割れ、いまにも捕食されそう。なのに、愛しさしか感じなかった。一度食べられて麻痺したのかな。
「行こうか」
「はい」
彼のエスコートで神殿から足を踏み出す。さっと光が差した階段の上は眩しいほど明るかった。一度目を閉じてゆっくり開けば、嬉しそうにお祝いの言葉を述べる民の姿がある。貴族も商人も農民も、貴賤の差なく笑っていた。
他国から来たお祝いの使者が驚きに目を見張る中、私はギータ・リ・アシスの主神の隣に立つ。ただの人間の小娘、元生贄が……神と同格の位置に花嫁として立つことを許された。ギータ様がふっと息を吹きかける仕草をすれば、階段を埋め尽くす花びらが舞い上がる。
精霊達だ。祝いに駆け付けた精霊は、点滅しながら花びらと踊る。その幻想的な光景に歓声が上がった。なんて綺麗なのかしら。見惚れる私の様子に、嫉妬したギータ様が「俺の花嫁だぞ」と口付ける。うっとりとキスを受けて、満面の笑みを浮かべた。
幸せなんて単語では言い尽くせない。溺れるほど注がれる愛情が、私を花開かせた。異世界から種の状態で飛んできて、この世界に根付き、やがて蕾のまま枯れる。その運命を、ギータ様が変えた。甘い水を注ぎ、日の当たる場所に植え替える。強い風から守り、愛してくれた。
「愛してるよ、俺のフランカ」
「大好き……私も愛してるわ、ギータ」
様を付けずに呼んだことに、彼は目を見開いてから「呼べるのか」と呟いた。それは私が呼べないと思ってたの? リカラの時と同じ、神様って傲慢なのね。名前くらいちゃんと呼べるわ。微笑んでそう言い返し、今度は私からキスをした。
触れるだけで離れる唇を追うギータ様ともう一度触れ合い、私達は神殿の階段を降りていく。これから共に生きていく人達の中へ。
「覚悟しろ。俺といて不幸になんてしてやらん」
「ふふっ、そっくり返すわ」
私を娶っておいて、不幸になれると思わないでね。白いドレスのレースが風を孕み、派手に広がる。咄嗟に押さえた手を、ギータが握り締めた。結い上げた髪が一房、はらりと肩に落ちる。純白の髪を優しくかき上げる手が、私の頬を拭うように擦った。
「泣くな、化粧が溶けるぞ」
「泣いてないわ」
幸せ過ぎて、何かが溢れちゃっただけよ。心の中で悪態をついて、そんな私をギータが抱き上げた。階段を降りた私達の上へ、花びらが降り注ぐ。今日のために子ども達が育てたり集めた花びらは、とても良い香りがした。
THE END or ……?
*********************
本編完結です。外伝として「アデライダとリカラのその後」「結婚後に生まれるお子様たち」の話をUP予定です(o´-ω-)o)ペコッ ここまでお読みいただきありがとうございました。外伝や他の作品もよろしくお願いします。




