78.揺籠の外は荒れていた
ギータ様の作った神殿は、とても居心地がいい。精霊があれこれ整えてくれるし、誰も私達を非難したりしなかった。揺籃みたいな心地よい空間だ。ずっとここに居られたら、それも幸せなのだと思う。
ぬるま湯へ沈んでいくように、怠惰に生きることを己に許すか。問われたら、首を横に振る。もちろん、後ろ髪を半端なく引っ張られながら……それでも前を向いて、誰かと関わる道を選ぶ。傷つけられても、自分で選んだ道なら納得できるから。
「俺はこのまま監禁しておきたいが」
わざと監禁なんて言葉で悪ぶるギータ様に、べっと舌を見せた。すると躊躇なく舐めようとするから、慌てて引っ込める。追いかけてきてキスをされた。触れるだけの口付けに、ドキドキする。心臓が破裂したら、ギータ様のせいだ。
「まずはセサルとやらのところへ向かうか?」
何もなかったみたいに尋ねられ、真っ赤な顔でこくこくと頷いた。なんなの、突然! 今までは性欲なんて知りませんみたいな顔してたのに、リカラと話した後からベタベタしてくる。それも背中を舐めたり唇を重ねたり、結構アウトじゃない?
くすくす笑うギータ様が私を腕に閉じ込める。きょとんとした顔で私とギータ様を見るアデライダが、子猫のペキと同期した動きで左右に頭を動かした。可愛いんだけど、今は恥ずかしさが先に立った。
「可愛いのはフランカだ。アデライダ、外へ行くが来るか?」
「はい!」
「ペキは留守番だぞ」
「え? じゃあ、残ります」
あっさり前言撤回。あまりの潔さに茫然としながら、私はギータ様に抱きかかえられて手を振った。アデライダはペキを抱き上げ、小さな猫の手を振ってお見送りだ。すごく可愛い。うちの妹が可愛いんだけど!
感激している間に景色が切り替わり、私は見覚えのある景色に目を見開いた。ここ、王宮と公爵家を繋ぐ道だわ。私が攫われた街道、馬車が通るために整備されていたのに、荒れている。
「誰も整備しないのかな」
「王家も神殿も貴族も消えた。政は機能していない」
無法地帯ってこと? 税金を納めなくて良くなった分、道や川の整備は自分達で行わなくちゃいけない。それって公平じゃないよね。
行政が機能していた頃は、収入に応じて税金を払う。お金持ちはたくさん、貧乏な人は少し。それでも道は整備され、洪水に備えて堤防が修理された。橋も管理されてるし、魔物が襲ってきたら戦う騎士や衛兵も、税金から給料をもらっていたはず。
自分達で整備するとなれば、公平に負担を求められた。同じ金額を払える人、払えない人が出る。それって、金額だけなら公平だけど、実際は不公平だった。収入の半分を持っていかれる人と、1割の人がいるって意味だから。
「フランカならどうする?」
「収入ごとがいいのかな」
荒れた道は、ずっと管理されていないんだと思う。王宮はどのくらい酷いんだろう。見たいような、見たくないような。複雑な気持ちで胸元をきゅっと握った。




