76.王子様ならぬ獅子の約束でいいの?
「僕が未熟だったから見抜けなかった。ごめん、フランシスカ。それと……古代竜も」
ギータ様のお名前を呼ばないのは、呼べないから? 疑問を浮かべたら、二人揃って頷いた。年齢や力の差ってことかな。
「名を呼べるくらい育っていれば、相手をしてやったが」
叩きのめす宣言にも、リカラは余計な反論をせず俯いたまま。卵の殻を付けたあまりに幼い雛なので、無視した。そんな言い訳を口にするも、ギータ様は自分の失態に気づいていた。
きちんと私の逆転を解除していたら、間違えて執着されることはなかったの。リカラも私を奪おうとしたり、傷つけなかったよね。断罪が終わった時点で、私が逆転している必要はなかった。それを放置したのはギータ様自身よ。
ぽりぽりと頬を指先で掻いたあと、ギータ様は「すまない」と謝った。
「ふふっ、ちゃんと謝ってくれたのでいいです」
言い終わったところで身じろいだら、背中の傷が痛んだ。獅子の爪って鋭いのかな。背中がどのくらい傷になったのか、すごく気になる。ギータ様が嫌がるくらい大きな傷だったら泣くかも。
「リカラ、そなたには番である花嫁との接触禁止5年を言い渡す。立ち去れ」
ギータ様は厳しい口調で罰を言い渡した。私にしたら重い罰だけど、きっと神様の5年は短いよね。数千年も生きたんだから、5年くらい我慢させてもいい。アデライダもまだ幼いし、5年後は結婚適齢期だもの。周囲を飛び回る精霊が点滅して、同意してるように感じた。
「ぐっ……せめて3年に」
「延長されたいのか?」
「アデライダ、僕の大切な花嫁。必ず迎えに来るから」
渋々従う姿勢を見せたリカラは、べろりと彼女の顔を舐めた。
「待ってるね」
王子様ならぬ獅子が迎えに来ると言ったのに、アデライダはにっこり笑った。受け入れる気なの? どう見てもただのライオンだけど。もしかして「また遊ぼうね」という友達感覚だったりして。複雑な思いで見送る私は、アデライダと話すために下ろしてもらおうと腕を叩いた。
「下ろして」
「ダメ」
即答されて、ギータ様は私を抱いて歩き出す。神殿の方へ向かう彼の足は止まらず、少し崩れた神殿の脇から入って、部屋に寝かされた。ベッドの上に起き上がろうとしたら、ぐいと肩を押さえつけられる。そのまま裏返された。痛くないか気にしてるのかな。
「そんなに大きなケガじゃないと思うよ」
「俺の花嫁に、別の神の印がつくなど……許せると思うか? 綺麗さっぱり消してやる」
独占欲丸出しな発言に驚いて動きが止まった。ギータ様っていつも飄々としてて掴みどころがないと思ってたのに、こんな重いタイプだった? 固まっている間に、ギータ様の指がボタンを解いていく。背中に隠す形の包みボタンが外れ、肌がひんやりした空気に触れた。
「動くでないぞ」
その言葉に力があるのか疑うほど、私は動けない。背中の素肌をギータ様の温かな指先が撫でた。ぞくりとする。身じろいだ私は、優しく触れる何かに力を抜いた。
ふわふわする。とても気持ちがいいわ。身を委ねるように、ギータ様の思うがまま……肌を晒してベッドに沈んでいた。




