72.花泥棒は罪にならない
アデライダと花を摘み、一緒に花瓶を囲む。一本ずつお互いの選んだ花を差していく。溢れそうなほど飾ったところへ、ギータ様が現れた。
「ん? 運んでやろう」
「ありがとう」
実はギータ様に「ギータ」と呼び捨てにするよう言われた。そのせいで、昨夜から少しだけぎこちない。私にしたら古代竜は神で、助けてくれた人だから。でもギータ様は距離があるように感じると嫌がった。
考える時間を与えてくれるギータ様の優しさに感謝し、先に花瓶を運んでもらう。アデライダの花冠作りも一段落し、今日は花びらを集め始めた。同じ色同士を集めるので、手伝いながら尋ねる。
「これ、どうするの?」
「爪を染めるの。こうやって押さえたら、色が付くよ」
得意げに説明するアデライダは、爪の上に置いた紫の花びらを潰した。確かに色が付くけど、指の腹も紫になったんじゃないかな。彼女の手をとって裏返し、やっぱりと笑った。爪より肌の方が鮮やかな色に染まっている。
「このくらいあれば足りそう? おやつの時間だから戻ろうか」
「はい!」
近くで昼寝を楽しむペキを抱き上げ、アデライダは悲しそうな顔をした。花びらを持っていけないわね。籠もないので、私は足元の花びらを手の上に乗せた。
「これでいいわ」
頷いて礼を言いかけたアデライダの笑顔が引き攣る。と同時に、私は背中に痛みを感じた。
「きゃぁ!」
「っ、お姉様!!」
手を伸ばして捕まえようとするアデライダ、宙を浮く私の足が地を離れた。しゃーと威嚇の声を上げたペキが、私の体を踏み台に飛び上がる。後ろにいる誰かに攻撃した。
「っ、いてぇ……」
聞き覚えのある声の主は、直後に私を抱きしめる。背中がまだ痛い上、大人に拘束されたら動けなかった。宙に浮いていて、落ちるのが怖いのもある。心の中で呼んだ。ギータ様、ギータ様! 助けて!!
「離して! ギータ様、助け……むぐっ」
口を押さえられた私を踏み台に、ペキがまた攻撃を仕掛ける。しかし落とされてしまった。くるっと一回転し、器用に着地したペキはまだ毛を逆立てる。
「何のつもりだ」
ギータ様の低く怒りに満ちた声が響く。私を強く抱きしめたリカラの口元に笑みが浮かんだ。
「これなら僕を無視できないだろ」
ずきずきと背中が痛い。でも見えないので、どんな状態か判断できなかった。ギータ様の怒りが満ち、精霊達が忙しく点滅する。
前回無視された仕返しと言い放つリカラの手が、震えている気がした。見上げようとするも、頭をぎゅっと押さえられてしまう。否応なしに胸元へ顔を埋める形になった。
「我が花嫁だ、手を離せ」
「若造とみくびった挙句、盗られたのはそっちのミスだよ。僕は花泥棒だから、罪にならない」
意味がよくわからない言い回しに、ギータ様の殺気が膨らんだ。びりびりと肌が痛い。心配になって下を見れば、ペキは毛を膨らませたまま動けなかった。そんなペキを抱いたアデライダも腰が抜けた様子。
ギータ様がこんなに怒るなんて……。花泥棒の意味はわからないけど、ピンチなのは理解できた。




