69.残酷で優しい神による選別
戻ったギータ様は機嫌がよく、私を抱き上げて運ぶ。自分で歩けると言ったら、知ってるよと返された。そうじゃなくて、下ろして欲しいのよ。ぽんぽんと手を叩けば、嫌そうに眉を寄せる。
「ギータ様、歩けなくなっちゃうわ」
「それでもいいよ。フランカなら毎日抱いて運んであげる」
「そうじゃなくて……うーん」
なんて言ったら伝わるの。歩けなくなったら健康が害されるって説得する? 迷う私はそのまま運ばれて、庭で花冠を作るアデライダの近くに下ろされた。大喜びで完成した花冠を載せられ、ふふっと笑う。前回はあんなに憎いと思った義妹が、今は愛らしいと思えることが不思議だった。
「まあ当然だな。フランカは優しいから」
「優しくはありません。だって両親や王家が滅びても、心が痛まないんです」
ぽんと私の白い髪に手を置いたギータ様は、覗き込むようにして整った顔で微笑む。きらきらした金の瞳が眩しかった。金髪より銀髪に近い髪色も好き。この心を全て読んでしまう神様の力を知りながら、好きが溢れて止まらなかった。
「罪人は贖うべきだ。少なくとも俺はそう思っているから、罰は与える。そこから這い上がるか、そのまま落ちるか選ぶのは本人だ」
ちらりと視線を向けた先で、アデライダは一心不乱に花を編んでいく。冠の形になるように、色を合わせながら花を摘んだ。
「アデライダはすでに罪を贖った。己の身で、かつてのフランカが感じた絶望を味わい、救われる姿を示すことで許された。だから手を出さない」
私には逆の意味に聞こえた。贖っていないから、両親を絶望に叩き落とす。反省しない貴族や王家を貶めた。逆らったからランヘル公爵家を沈めたのだと。きちんと反省し、償う姿勢を見せた者にまで、彼はひどい罰を与えない。
アデライダは罪を償い終えたと感じたから、記憶を戻さなかったのね。罪悪感でさらなる痛みを感じないように。彼なりの温情だわ。
「俺が勝手にしたことだ。フランカは知らなくていいよ」
「……うん」
甘えてしまおう。この優しさに溺れて、いつか捨てられる日まで。この命の果てる方が早いかもしれないけれど。ギータ様の思うフランカでいたいと思った。この残酷で優しい古代竜が、わずかでも心安らぐように。
「そういえば、テレンシオを覚えているか?」
少し考えて頷いた。第二王子だったテレンシオは、王妃様のお子ではない。側妃が産んだ王子で……あれ? 彼はどうしたんだろう。疑問を顔に書いた私へ、ギータ様が顛末を話してくれた。
「第二王子はランヘル公爵家の縁戚が匿った。侍従の男……フランカが知る名称だと「レグロ」だが、あいつの実家に逃げ込んだ。先ほど、不幸な事故があってな。屋敷が倒壊したらしい」
他人事のように言うギータ様が、少しだけ視線を逸らす。事故が起きたのではなく、起こしたのね。別に隠さなくてもいい。嫌いになったりしないから。
「本当か?!」
「ふふっ、嫌うわけないじゃない。元婚約者や両親を断罪したのは、誰だと思ってるの」
許せなくて復讐を選んだのは私。テサル達を扇動して私の誘拐を企んだ第二王子派を滅ぼすのは、ギータ様の権利だわ。私は神の花嫁なんだもの。肯定した私を、ギータ様が抱き締めた。そこへアデライダが花冠を編み終えて、驚いた顔で離れる。揺れた髪に飛びかかろうとしたペキは、妹に捕獲された。
「こら、ペキ。邪魔しちゃダメよ」
なんだか恥ずかしくて、胸に顔を埋めて隠れた。




