67.愚かさを自覚する――SIDE教皇
過去と未来が交錯する。記憶の整理がつくまで、しばらく動けなかった。混乱した記憶が統合され、この世界は二度目なのだと知る。信じたくないが、栄華を極めた生活もここまでか。
教皇カリストは天を仰いだ。前回の決断の愚かさが、今回の身に返ってくる。生き神であるギータ陛下は、我らの罪を暴いた。償えという最後の通達だろう。この記憶が、神殿の中だけなら秘めておける。だが……あの残酷にして美しい神がぬるい手を選ぶか。問うまでもない。
ギータ・リ・アシス――神の名を戴く宗教は、長い年月をかけて国教となり繁栄した。その恩恵を忘れ、義務を怠り、権利のみ振り翳した結果だ。
お告げが降りたあの日、その神聖な気配に身が引き締まった。神が目覚め、我らの前に姿を現される。そう信じた。初代の生贄となったフランカ姫以降、何人もの乙女が身を投げた。いや、神殿に指名されて飛び降りる道を与えられたのだ。
逆らえば実家が潰される。怯える貴族令嬢の中から、フランカ姫に近い色合いの娘を選んできた。いつからだろう。その習慣が形骸化し、金を積めぬ貧乏貴族の娘ばかり、生贄に選ばれるようになったのは。
神殿の外は、徐々に騒がしくなってきた。塔の上階から見下ろす街は、祭りのように人が波となって押し寄せる。武器となる棍棒や刃物を握って、神殿の門を突き破ろうとした。信心深い民の怒りは、もう止まらない。
蘇った前回の記憶は、あまりに利己的だった。王家が望んだ結婚を押し通すため、精霊に誓った婚約を破る。初代生贄姫フランカ王女によく似た、フランシスカを殺すために。神殿は許されぬ決断をした。
――フランシスカを生贄姫に。
両親や家族も反対しない。婚約者である王子も見放した。条件を満たす外見を持つ、花嫁を神に捧げる。いや、そう自分達に言い聞かせた。神の花嫁になるのは幸せだ、選ばれたことに感謝するべきだと。
決して傷つけてはならぬ花嫁は、悪態をついて腹を突き刺される。なんという愚行! 責める前に騎士の槍を抜いたフランシスカは、赤く染まった腹を押さえて落ちた。食われるのなら、血が流れていても同じ。神官の誰かがそう呟き、教皇である私は激怒した。
贄の価値が下がった、と。そうではない。これから死に行く彼女の心を、理解すべき立場の教皇であり神官だ。それが金に目が眩み、世俗の欲にまみれ、醜さを露呈して利益を選んだ。
神殿の門が、多くの人の圧力に負けて曲がった。もうすぐ神殿や塔へ、怒りに支配された群衆が押し寄せる。だが逃げる道はない。信じて生涯を捧げる誓いを立てた神に、死ねと命じられたのだ。ここで果てるのが、教皇である私の役割だった。
人々の怒りを受け止めて、潔く散ろう。震える手で窓を閉めた。あと僅か、その時間を懺悔に費やすため……両手を組んだ。願わくば、二度と蘇らぬように。この魂が砕けることを祈り、静かに跪いた。




