64.世界を絶望に染めるとしよう――SIDE古代竜
この世界がどのような思惑で動こうと構わない。俺の選んだものに手を出さなければ、咎め立てする所以はなかった。逆に言えば、俺が手に入れた花嫁と彼女の付属品は、誰にも手出しさせない。
この国は愚かにも、お告げを無視した。神として崇め、この身を横たえた大地の恩恵を受けながら、恩を仇で返す。俺が意図した恩恵ではなかったとしても、利用して富ませたのは人間どもだ。甘い汁を吸いながら針を向ける王家は滅ぼした。花嫁を苦しめた公爵家も潰した。
神殿はまだ使えるので残しているが、いずれ滅びるだろう。そのための仕掛けは施した。愚かにも、長寿である古代竜を操ろうと考える者らは、その身に報いを受ける。時期が早いか遅いか、その違いだけだった。
本来、神が崇められる理由は「恩恵を与えるから」ではない。「祟るから」だった。粗雑に扱えば、力ある者は反撃する。よく似た文字を当てがうのは、祟られぬよう封じる韻なのだ。人外である神を意図的に貶め祟ることで、自分達に害をなさぬよう縛る。
拘束されても、神がその力を制限されることはない。一方的な契約は、いつでも破棄が可能だった。今まで沈黙を守ってきた古代竜が、花嫁のために動いた。ただそれだけのこと。
「お前は何も知らずにいろ」
俺の醜い一面も、汚い心も。知らずに愛されて幸せになればよい。長く眠った体は、使わずに溜め込んだ魔力が溢れ出る。爆発しそうな圧を国中へ浸透させた。かつて国を潤した力は、住まう者達に作用する。
「どう動いても、俺の手のひらの上だ」
フランシスカのいう「前回」の記憶を余すところなく、すべて解き放った。そもそも封じた理由は、やり直しでフランシスカに幸せになってもらうため。その彼女が復讐を望むなら、なぜ自分達が神に見捨てられるのか。その理由を知る権利が、彼らにもあるだろう。いや……権利ではなく義務だ。
自分達が前回犯した愚かな罪を知り、穢れなき乙女を崖に突き落とし続けた罰を受けるべきだ。過去の数十人に及ぶ贄の無念を、踏み台にして栄えたのだから。利益を享受して、知らぬは通らない。
満ちた魔力を染み込ませていく。大地から恩恵を奪い、じわじわと侵食した。精霊達は竜の巣に集い、フランシスカのために花を咲かせる。風を吹かせて花弁を揺らし、甘い実をもたらした。
膝枕で眠る愛しい花嫁の髪を撫でる。純白の髪は僅かに銀を帯びて、きらきらと光を弾いた。閉じた目蓋の下は、赤い瞳が隠されていた。竜の血が混じった証を瞳に宿し、彼女は眠り続ける。目覚めた時、世界はどこまでお前に優しいだろう。
王家と公爵家はある意味、楽に滅びることが出来た。残された神殿は、我が真意を歪めた罰を受ける。さあ、世界を新しい絶望で埋め尽くすとしよう。すべてを黒く染めた後で洗い流せばいい。
俺には、それを可能とする力があるのだから。




