32.鍾乳洞に彫られた神殿
見上げるほど立派な、そこは幻想的な神殿だった。いえ、神殿に似た自然の造形物かしら。鍾乳洞は一度目の人生で見たことがあるけど、こんなに大きくなかったわ。
「これが、巣?」
「そうだ。俺が加工した」
こう爪の先でちょんと突いて、コツコツと掘り進めたのだ。数千年かかったぞ。胸を張るギータ陛下は、なんだか可愛く思えた。褒めて欲しい子どもみたい。考えるより早く手を伸ばし、ギータ陛下の頭を撫でた。
ドラゴンの背に乗った状態だから、正確には首筋までしか届かなかったけれど。頭を撫でた気分よ。
「すごく綺麗で幻想的、とても素敵だわ」
「そうか? そうだろう! フランカ!!」
ばっさばさと翼を動かし、興奮したギータ陛下が、器用に私を手に滑らせた。傾いた首の鱗から右側へ滑って、用意された手に落ちる。周囲を舞う何かに気づいた。私の手助けをしてくれたみたい。
「これは……何? 助けてくれたのかしら」
「ん? ああ、精霊達だ。挨拶に来たのであろう」
君主であるドラゴンが花嫁を連れてくる。そう告げられた精霊達は、きらきらと光を振り撒きながら花びらを撒く。歓迎されているようで、素直に嬉しかった。
「ありがとう」
お礼を言って、落とされる一輪の白い花を手のひらで受けた。とても香りのいい花だわ。笑顔でお礼を言って、軽く会釈する。ドラゴンの手の上だから、カーテシーは無理だけど。光る小さな精霊達は、くるくる踊るように舞った。
「下すぞ」
不思議な床に下ろされる。履いていたヒールの高い靴が滑るので、私はさっさと脱いだ。転んで痛い思いをするより、裸足の方がいい。触れた足裏は、ひんやりするけど心地よかった。ざらざらしていない。
「ようこそ、竜の巣へ。我が花嫁となるお告げの乙女よ」
ギータ陛下は人型に変化すると、私に微笑みかけた。お城にいた時より、少しだけ若く見える。自由に変化させられるのかしら。屋外の陽光降り注ぐ庭で見た彼は、金髪に金瞳だと思った。だけど、鍾乳洞の色が反射したように、今は銀髪が近い。
「ギータ陛下、お告げを教えてくれるのですよね」
「せっかちな花嫁だ。もちろん説明するが、まずはお茶でもどうだ? 花の香りの甘いお茶を用意させよう」
ギータ陛下に手を取られ、素足のまま神殿に似た建物に足を踏み入れる。ここは一度目の記憶にある「ギリシャ」の神殿に似てるわ。太い柱が何本も立ち、どれも見事な彫刻が施されていた。豪華な感じより、厳かな雰囲気ね。
鍾乳洞は長い年月を掛けて柱を作る。この場所で使われた鍾乳洞の太さは、どのくらいの年月で作られるのかしら。想像を絶する長い時間だった。
「ギータ陛下……」
ここはどのくらい掛けて作ったのですか。尋ねる前に、指先で唇を押さえて遮られた。
「ギータと呼べ」
「ギータ、様」
「ふむ……慣れるまでそれで我慢しよう」
苦笑いする様子が人間臭くて、肩の力が抜けた。彼は私を花嫁と呼ぶのだから、危害を加えられる心配はいらない。だったら、珍しく美しい光景を楽しむのも悪くないわ。




