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03.飲まされるのは毒か薬か

 お医者様は丁寧に診察し、公爵夫人はずっと付き添った。私の手を握って脈や熱を確認したお医者様は、持ってきた鞄から薬を取り出す。無駄だわ、そんなもの。公爵夫人がお金を払ってくれるわけない。


「どうでしたの?」


「お嬢様は熱で記憶が混乱しておられます。少しすれば落ち着くでしょう」


 何も異常が見当たらなくて、困惑したお医者様はそう判断したのね。よく眠れる薬を用意すると、ベッドサイドに置いた。ちらりと視線をくれたが、私は手に取らない。どうせ公爵夫人が「無駄な出費をしたわ」と嘆いて、持ち帰るように命じるはずだもの。


「これを眠る前に飲ませれば良いのですね。何もなくて安心したわ」


 ほっとした顔で、薬瓶を手に微笑む公爵夫人。お医者様が退出するや否や、私の近くに寄ってきた。薬瓶と公爵夫人を交互に見つめる。


「さあ、お薬が飲めるかしら? 口直しの甘いジュースを用意させるわね」


 メイドが意を汲んで部屋を出る。呆然と見送り、公爵夫人と二人きりになった部屋で固まった。人目がないところで暴力を振るうの? それとも詰るのかも。いつだってそう。私はこのソシアス公爵家の邪魔者だった。生まれたことが罪だと言うなら、なぜ生んだのよ。


 妹だけが大事なら、私を外に捨ててくれたらよかった。外聞があるからか、それなりに整えられた部屋を与えられたが、服は地味で質素。食事は使用人以下だった。余り物を混ぜて家畜の餌同様に与えられるだけ。死のうとしたら、折檻されたわ。


 無意識に左腕を撫でる。ここに見苦しいほど傷があった。背中にもよ。全部、あなた達の命令で振るわれた鞭の傷……え?


 傷がないわ。驚いて袖を捲るけれど、白い肌があるだけ。瘡蓋になった醜い傷痕は見つからなかった。驚いて目を見開く私の耳に、メイドのノックが聞こえる。私の部屋に入るのに、ノックするの? 過去に一度もなかった状況が並び、私は発狂しそうだった。


 何が起きているか、分からない。ただただ、彼女らの変化が怖かった。この部屋にいれば優しくされるの? いつ裏切って鞭を振るうのよ。今までと違う公爵夫人が、まるで化け物のように見えた。裏で笑っているのよね? 騙された私を嘲笑いながら、蹴飛ばす気でしょう?


 いっそ! そうしてちょうだい!!


「ジュースは、あなたの好きな葡萄を用意したわ。お薬、一人で飲める?」


 じりと後退る私に、困ったような顔をするが公爵夫人は怒鳴らない。キンキン響く甲高い声でヒステリックに叫ぶ人なのに、穏やかに私の様子を窺っていた。


「飲ませてあげましょうか」


「い、いや……」


 本当にあれはお医者様が処方した薬? もしかしたら違う薬で、中身は毒じゃないか。苦しむ姿を見るため、飲ませようとしていたら……何が正解で間違いか。判断がつかなかった。ただこの場に留まることが、声も震えるほど恐ろしい。


「可愛い、フラン。お口をあけてちょうだい」

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