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01.私を生贄にする彼らを呪った

 一歩踏み出せば死ぬ。絶壁の上に立たされた私は、それでも死が怖いと思わなかった。いっそ死んで楽になれるなら、その方がいいとさえ思う。幸せなことなんて、覚えていない。虐げられ、見下され、なぜ生きているのかも分からない日々だった。


 枯れ木のように痩せた手足、栄養が足りず艶のない髪や肌。着せられたのは真っ白なドレス。何も染まっていない白を、古代竜は好むのだとか。どうでもいいわ。だってこれ、どう言い繕ったところで、餌で生贄じゃない。


「フランシスカ・セラ・ソシアス、罪人である貴様に名誉ある死を与える。古代竜ギータ陛下の血肉となり、その恩恵を我らに授けよ」


 私の名前はまだ、ソシアスの家名があるのね。きっと娘を生贄として捧げた公爵家として名を残したいのでしょう? そうしたら、次から生贄選定の候補から外れることが出来る。ふふっ、なんて醜いのかしら。


 私に最後の言葉を通達したのは、元婚約者の王太子イグナシオだった。鮮やかな金の髪と青い瞳、幼い頃はリアル王子様と喜んだっけ。厳しい王子妃教育を施された私の苦労も知らず、あっさり妹のアデライダと浮気したけど。


「お姉さまっ!」


 涙を浮かべて私を見る妹の表情は、ひどく醜かった。口元が緩んでるじゃない。微笑みを無理やり泣き顔に見せるため、顔半分をハンカチで覆った彼女から目を逸らした。生贄にされる姉の代わりになりたいと嘆くフリをしながら、王太子の腕に抱き着くあたり、本当にあざとい子ね。


「何か残す言葉は?」


 古代竜を神祖と祀る神殿の神官長が、厳かに尋ねる。最後に生贄に水を飲ませ、慈悲を与えたとする形だけの質問だった。教えられた言葉は「お水を」という単語だけ。それ以外を発すれば、すぐに突き落とすらしい。


 どちらにしろ突き落とされるなら、結末は同じよ。


「呪ってやるわ、覚悟なさ……っ!」


 衝撃が腹を襲い、熱がじわりと広がる。神殿騎士の一人が付き出した槍の先が、私の腹に生えていた。ふふっ、やってやったわ。儀式を血で汚してはならない、この不文律を壊した。私が吐いた呪詛とともに、怯えながら過ごせばいい。


 じわじわと溢れた血が、白いドレスを赤く染めた。これで生贄としての価値は下がった。餌の足りない古代竜が大人しくしてくれたらいいわね。空腹に耐えかねて彼らを食ってしまえばいいのに!


「ふふっ、あははっ。呪われ、て……滅び、るのよ!!」


 叫んで自ら飛び降りた。槍を掴んでぐいと引き抜き、手を放すだけでいい。後ろに倒れていく体はそのまま断崖絶壁に飲まれ、重力に従い落ちていく。風が冷たい。切り裂くように肌を叩く風が、私の純白の髪を舞い上げた。


 最期の記憶は、冷たい風から身を守ろうと自分を抱き締めたところまで。次に目が覚める時は、あんな家族は嫌。私を大切に愛してくれる家族がいいわ。それに婚約者も優しい人がいい。願うだけなら自由よね? 物語のお姫様みたいに、ハッピーエンドになりたいだけよ。


 走馬灯は長く、前世からの記憶を蘇らせた。前世はどうして死んだのか、なぜ異世界に生まれたのか。まったく知らぬまま、ソシアス公爵家の長女として転生した私は、こうして二度目の死を迎えた。

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