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仲良きことは美しきことかな

「イヴェルさんとシエルさんじゃないですか。何をしていたんですか?」


「ああ、生徒会の買い出しでな。ほら」


偶然会った2人へ尋ねてみると、イヴェルが袋の中身をこちらへ見せた。その中には、ペンや紙などの事務用品が大量に入っている。


「え、こんなにたくさん買ったんですか?俺を呼んでくれれば良かったのに。荷物、持ちますよ」


「いや、別にいい。これくらい自分で持てる。それに荷物の運搬のためだけにアルトを利用するのもな...」


「あれ、言ってませんでしたっけ。俺、空間収納を持ってるので荷物の運搬には最適ですよ。俺も生徒会の一員なんですから是非利用してください」


「そ、そうか。あ、ありがとう」


「いえいえ、お安い御用ですよ」


渋るイヴェルから少し強引に手荷物を受け取り、空間収納にそれらをしまう。


「疑っていた訳ではないが、本当に空間収納を使えるのだな…な、なあアルト」


「はい?」


「も、もし、私が買い物に付き合って欲しいと誘ったら、アルトは付いてきてくれるか?」


イヴェルは指を自身の体の前で絡め、目線を逸らしながら少し恥ずかしそうに言った。


「ええ。勿論です。予定がなければ全然付き合いますよ」


「そ、そうか。で、では、今度からは誘わせてもらう…」


「はい。お待ちしてます」


特に断る理由も無いため了承の意を伝えると、イヴェルはそのままそっぽを向いてしまった。その横顔は少し紅い。


「へいへい、お二人さん。二人の世界に入っちゃって〜、私たちのこと忘れてない?」


「いや、そんなことは...」


「あ、アルト君はこれ持って」


「あ、はい」


トコトコとこちらへと歩いてきたシエルは、自身の持っていた荷物を俺に押し付ける。


「もー、二人の世界に入っちゃったからアルト君の連れの子が拗ねちゃったよ」


「へ?」


そう言われて後方に目を移すと、アーネは俺の数歩分後ろでそっぽを向いていた。


「つーん」


あ、不機嫌オーラ全開だ。


「ア、アーネさん?ど、どうされたんですか?」


取り敢えず話を聞かないことには始まらないので、俺はおそるおそる不機嫌なアーネへ声をかける。


「もうアルトさんなんて知らないです!せっかく今日はアルトさんの良いところが沢山あったのに、最後の最後でコレです!最低です!女の敵です!」


おー、酷い言われようだ。一体俺が何をしたと言うんだ。

まあ、謝らないことには会話を望めそうにない。取り敢えず謝っておこう。


「ええっと、アーネさん。この度は誠に申し訳———」


「何が悪かったか分からない状態で謝らないでください!」


「おお、よく分かったな!?流石はアーネだ!」


「いや、今のは誰でも分かると思うよ」


見事俺の考えを言い当てたアーネに少しオーバーな反応をすると、シエルがツッコミを入れてきた。


「まあまあ、アーネちゃん。少し落ち着いて」


「む、貴方は確か文化祭のときに会った...」


「お、嬉しいな、覚えてくれてたんだ。私はシエル=ハースエル。学園の3年生で生徒会副会長をやってて、アルト君とはそこで繋がりがあるって感じかな。更に言えば、私は恋する全ての女の子の味方だよ!」


「は、はぁ...」


そんなシエルの自己紹介に、アーネは反応に困ったような顔をする。そりゃそうだ。恋する全ての女の子の味方ってなんだ。


「そう、私は恋する全ての女の子の味方なんだよ。だから私は———アーネちゃんの味方にはなれないんだよね」


「—ッ!!」


シエルの続けた言葉に、アーネはその目を見開く。え?どゆこと?


「なるほど…大体分かってはいましたけど、そういうことでしたか。一つ質問しても良いですか?」


「理解が早くて助かるよ。まあ、本人はまだ自覚してないみたいだけど。質問?いいよ、なんでもしてね」


アーネとシエルは一見普通に会話を続けるが、その水面下ではどこかお互いで腹の探り合いをしているようなそんな雰囲気がある。


「シエルさんといいましたか。貴方が、私の敵になる可能性はあるんですか?」


「...なるほどね」


アーネの質問に、今まで笑顔を貫いてきたシエルの表情が一瞬だけ消える。


「正直、私はあんな鈍感で思わせぶりな、女の敵の権化みたいな男なんてタイプじゃないんだけどね。でも、人生は何があるか分からないから。敵にならないって確約はできないかな」


しかしすぐに普段の笑顔に戻ったシエルは、アーネにそう返した。


ん?アーネの敵になる云々っていう話でなんで男の話が出てくるんだ?

というか、シエルにそこまで嫌われている奴がいるのか。まあ、彼女がそこまで言うのならそいつは中々のクズなのだろう。知らんけど。


「そうですか。よく分かりました。...では、私はここで失礼します」


その回答を聞いたアーネはイヴェルとシエルへ向けて一礼し、そそくさと寮に向けて歩き出した。


「ちょ、アーネ!」


「じゃあ、アルト君!私たちももう行くからアーネちゃんはしっかりと寮まで送ること!荷物は次に生徒会室に来るときに持ってきてくれればいいから!」


「はい!承知しました!シエルさん、イヴェルさん、ではまた!」


それに続くようにイヴェルとシエルの二人と別れ、俺は先を歩くアーネの後を追う。


うーん。水面下で何が起こっていたのかは全く分からなかったが、取り敢えずアーネとシエルはあまり仲良くなれなかったようだ。更に言えば、アーネはイヴェルのことも警戒していたからな...


イヴェルとシエルの2人には生徒会でお世話になっているし、どちらも良い人だからアーネも仲良くして欲しいと思うのだが...どうにかならないものか。


.......あ、そうだ!


「アーネ!」


「…なんですか?」


アーネに追いついた俺は、それと同時に彼女へ声をかける。すると彼女は睨むようにその視線を向けた。


おお...懐かしいなこの目。今までに何度か見た、超絶不機嫌アーネちゃんの目だ。なんだかゾクゾクしちゃう。


だが、ここで怯んではいけない。余計なお世話かもしれないが、アーネにイヴェルそしてシエルと仲良くしてもらうため。


「もし良ければなんだが———」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ズドンッ!!


バゴンッ!!


大きな質量を持った物質同士が勢いよく衝突するような音が幾度となく響く。


「...どうしてこうなったんだろうね?」


「え?何がですか?」


「分かるでしょ!この状況だよ!」


そう言うシエルの指を差す先には、お互いに剣を交えるイヴェルとアーネの姿があった。

現在、俺がいるのは生徒会専用の武道場。イヴェルとアーネは模擬戦中だ。


「そうですね。流石にイヴェルさんの方が優勢ですが、アーネもよく耐えてますよね。そりゃあ魔法ではアーネの方が上手ですが、あの間合いに入ってもあれだけ耐えるとは——」


「いや、そこじゃないでしょ!確かにイヴェルちゃんの攻撃に耐えてるアーネちゃんも凄いけど!そもそもなんでアーネちゃんがここにいるのかっていう話だよ!」


「ああ、それは俺がアーネを誘ったからですね」


「それは知ってるよ...」




アーネとデートをしたあの日。

先を歩くアーネに追いついた俺は、彼女を魔法の練習会に誘った。


単純接触効果というものをご存知だろうか。

噛み砕いて言えば、人の好感度はただ相手と会う回数を増やすだけでも上昇するというものだ。

つまり、アーネとイヴェル達を仲良くするためには、定期的に交流する場が必要なのではと考えたのだ。


更に言えばアーネの魔法技術は学園内でも群を抜いて高いし、イヴェルとシエルへの刺激にもなる。アーネにとっても学園内の成績トップクラスの二人と競い合うことはいい刺激になるだろう。一石三鳥だ。


「アーネちゃんを連れてきたとき、君は生徒会を修羅場にしたいのかと思ったよ」


「え?どういう意味ですか?」


「その意味が分からないから、アルト君はアルト君なんだよ」


「はぁ」


シエルが何か意味深なことを言うが、それの真意ははぐらかされた。

アーネもそうだが、最近シエルが何を言っているか分からない事が増えてきた。


「あ」


シエルからこれ以上の情報を得る事を諦め、闘技場の中心へ目を移すと、丁度試合が動くところだった。


イヴェルの攻撃に良く耐えていたアーネだったが、止むことのない剣戟に遂にバランスを崩したのだ。


その隙を易々と見逃すイヴェルではない。その直後には、イヴェルの木刀がアーネの首筋に突きつけられていた。

勝負ありだ。


「二人ともお疲れ様〜!アーネちゃん惜しかったね!ドンマイドンマイ!」


「う、うるさいです!」


それを見て、二人分のタオルと飲み物を持ったシエルが彼女達の元へと駆け寄る。こう見ると、三人とも仲良さそうなんだけどな。


というか、元々小説内ではこの三人はかなり仲が良かったはずなんだよな。小説においてアーネは最初こそイヴェルとシエルを警戒していたが、すぐに仲良くなっていたはずだ。

少なくとも、昨日ように敵意剥き出しではなかった。


「......うぅむ、分からんな」


魔王の学園強襲やアーネやイヴェル達の人間関係、そして文化祭での出来事。小説に無かったイベントや変化している点が今までに比べて多くなってきた気がする。




これらの変化は、これからのセイン達の物語にどのような影響を与えるのだろうか。


「まあ、考えても仕方ないか」


小説の内容も正直あまり思い出せないし、何か起きたらそれが起こったときに対応すればいい。今は純粋にこの時間を楽しむべきか。


本当に仲の良さそうに話す三人を見て、俺はそう思うのであった。









しかし、それから3ヶ月後。

俺達4人の間に取り返しのつかない亀裂が入ることなど、このときの俺は知らなかった。


ましてや、その出来事はそれから起こる波乱の序章に過ぎない事など、知る由もなかった。

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