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邂逅

「はぁ、君という奴は。どうしたらこんなことになるんだ?頭がイカれているのか?」


「いやいや、学園長に言われたくないですよ!なんで片道切符しか持たせてくれなかったんですか!俺、ここまで帰ってくるのにめちゃくちゃ苦労したんですよ!」


オリアを里へ送り届け、亜人の森を出た後に真っ先に直面したのは、どうやって帰ろう、という問題だ。


舞台は王国の西端にあるエンドロール。

王国の中心部にある王都まで、普通に馬車を使っていけば3ヶ月はかかる。だが冬休みは2ヶ月間。なんならそのうちの1ヶ月はもうすでに終わっている。つまり残りの1ヶ月以内に戻らなければ、始業式に間に合わない。


そこからの俺は頑張った。

エンドロールで1番の魔法使いだというおばあさんに会いに行き、瞬間移動を使える人はいないかと尋ねた。

そうしたら、少し遠くの街の知り合いなら知っているかもしれないと言われ、更にその人にもこの人なら知ってるかも知れないと言われ...そんな風に数珠繋ぎで魔法使いの方々を当たること6人目。

なんとびっくり、俺はマーベリック=ホウロウの元へとたどり着いた。


マーベリックはアーレットの実の祖母であり、俺がグレース剣魔学園の生徒だと知ると快く学園まで送り届けてくれた。


それがつい昨日のことで、今日が始業式。なんとかギリギリ間に合った形だ。

そんなスケジュールで今日を迎えたため、俺はアーネが入学試験に合格したかは分からない。しかし、入学式は明日だ。明日になれば、それは自ずと答えは出るだろう。


「まあ、その件についてはいいだろう。......あの少女はちゃんと送り届けたのか?」


「ええ。しっかりと送り届けました」


「そうか...アルト君。分かっているとは思うが、君のその記憶は墓場まで持っていくんだぞ。王国中が混乱しかねないからな」


「ええ。分かってます。口外するつもりも、悪用する気もありません」


当たり前だが俺はこれ以降、自らの意思でエルフの里へ足を踏み入れる気はさらさらない。オリアとオリア母以外のエルフは俺のことすげー嫌いそうだったし。


少し悲しいが、オリアと会うことももう無いだろう。小説の方でも送り届けて以降、セインと彼女の交流などは特に書かなかった気がする。


じゃあなんでオリアとの話を書いたのかって?

......きっと昔の俺は特に意味もなく、エルフを書きたかったのだ。エルフというのは、異世界ものが好きな男なら誰しもが一度は憧れる存在だろう。え?違う?


「そうか、なら良い。急に呼び出して悪かったな。明日は入学式だ。生徒会で色々することがあるだろうし、今日は早く帰って体を休めると良い」


「はい。そうですね。ありがとうございます。では、失礼します」


アーレットからの許可も出たので、俺は学園長室から出る。


アーレットに呼び出されたのは始業式の後であったので、ほとんどの生徒は既に帰宅している。そのため、校舎内に自分以外の人の姿は見えなかった。


「なんかこういうときって、自分だけの空間って感じでワクワクするよな〜」


どうせ誰にも見られていない。

俺は鼻歌交じりに、軽く踊るような動きをしながら廊下を駆けて行った。


「「あ」」


勢いそのままに廊下の角を曲がると、1人の男と目があった。


「「...」」


因みにどうせ誰もいないであろうと思っていた俺は今、バレリーナのようなポーズをとっている。


お互いに無言のまま、俺はポーズを崩して咳払いを一つ。


「ゴホンッ。えーっと、忘れてください」


「お、おう」


佇まいを直し、改めて相手の方を見る。


てっきりうちの生徒かと思っていたが、その男は制服を着ていなかった。その男が身に纏っていたのは黒を基調とした...何といえばいいのか、中二病の患者のような服装だった。


しかしその男には、それ以上に特筆すべき点があった。それは、


「黒髪で黒眼...?」


そう、その男は俺と同じ黒髪で黒い眼を持っていた。くどいようだが、この世界でその組み合わせの者は滅多にいない。少なくとも、この世界に来てから自分以外で1人も見たことがない。


更によく見れば、その男の纏っている魔力の量も非常に多いことが分かる。

もしかすると、アーレットに匹敵するのではないか?


「...お前何者だ?」


目の前に立つ男の異常さに気がついた俺は、男を警戒しながら尋ねる。


「お、おう?......は、は、ははは!俺の名を聞いたか!よろしい!では教えてやろう!聞いて驚け!俺の名前は魔王イシザキ!イシザキツトムだ!覚えておけ!」


「ま、魔王...イシザキツトム...?」


若干の演技臭さを匂わせつつも、全身黒尽くめの男は両腕を大きく広げて高らかに言い放った。

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