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ヒロインとの遭遇

「あの鮮やかな赤髪、凛とした佇まい、隙のない歩き方、絶対イヴェルじゃん...」


特製の水風船を用いてチンピラ2人組から逃走した俺は、案の定路地の道に迷っていた。路地裏を適当に彷徨っていたところ、紅い髪の少女を見つけたのだが...


「イヴェルって剣聖の家系だから王都に住んでいるはずなんだけど…どうしてこんなところにいるんだ?」


イヴェル=ラーシルド。

『勇者セインの学園英雄譚』の登場人物で、歳はセインの1つ上、鮮やかな紅色の髪と瞳が特徴的な女の子である。

剣聖の家系であるラーシルド家に生まれ、剣術の才能は勿論のこと、魔法の才能にも恵まれており火の属性に適性を持っている。更にクール美人といった感じで容姿端麗、頭も非常に良い。


セインが学園へ入学する一年前にグレース剣魔学園へ入学者トップの成績で入学し、15歳で剣聖の称号を授かる。将来的には名実ともに王国内最強の一角となる存在だ。


「人違いか?いや、あの歩き方から目線の配り方までまるで隙がない。強い人オーラが全開すぎる。あんな奴が剣聖以外にいてたまるか」


少し遠くの方で辺りを見渡している少女はイヴェル=ラーシルドであると結論付け、物陰に隠れながらこれからどうするかを考える。


「彼女に話しかけて冒険者ギルドまでの道を教えてもらうか?こんなところで話しかけるのは怪しまれそうだが、このままじゃいつまで経ってもこの路地裏から抜け出せないからな...」


そう自分の中で建前を立て、俺はイヴェルに話しかけることに決めた。本音はただ単純に彼女と話をしてみたいだけだったりする。


「あのー、」


「ッ...!!」


「あ、驚かせてしまいましたか?すみません。」


揚々と彼女へ話しかけてみると、こんな路地裏で誰かに話しかけられると思っていなかったのか彼女は少し驚いたようだった。また、俺の髪の毛が黒かったこともその原因の一つだったかもしれない。


「…いや、こちらこそすまない。初対面の相手に対して失礼な態度だった」


「いえいえ、こちらが突然話しかけたのが悪いんですし、気にしないでください」


明らかに突然話しかけたこちらが悪いのに謝ってくれるなんて、イヴェルはいい子だな。


「心遣い感謝する。して、私に何か用か?」


「ああ、そうなんです。僕は冒険者になりたいと思ってこの街へ来たのですが、恥ずかしながら冒険者ギルドへの行き方が分からなくなってしまって...」


「なるほど。そして、路地裏を彷徨っていたら私を見つけたというわけか」


「そうなんです。冒険者ギルドへの行き方とか知りませんか?大通りへの行き方とかでも大助かりなのですが…」


「ああ、では、こちらも少し用事があるので冒険者ギルドまでは案内できないが、大通りまでは付き添おう。冒険者ギルドは分かりやすい位置にあるから問題ないだろう」


「本当ですか!ありがとうございます!」


「気にするな。では、行こうか」


他の用事があるのに、こんな見ず知らずの少年の頼みを聞いてくれるとはこの子は天使か。そんなことを思いながら、俺はイヴェルに連れられて路地裏を歩いた。




それから約10分後、イヴェルのおかけで俺は冒険者ギルドに程近い大通りに出ることができた。というか、この路地裏入り組すぎ。案内がなかったら脱出まであと3時間はかかった自信がある。


「あの大きな建物が冒険者ギルドだ。あそこで冒険者登録をすることができる。大変なこともあると思うが、頑張れよ。アルト」


冒険者ギルドだと思われるドーム状の建物を指し、イヴェルはそう指示をくれる。


もう彼女とお別れか。

たった10分の付き合いだったが、この子もセインと同じくめちゃくちゃ良い子だということはよく分かった。


「はい!ありがとうございます!イヴェルさんもお仕事頑張ってください!」


イヴェルはセインと同様に俺が頭を痛めて生んだ人物であり、とてもいい子で更に言えば可愛い。

そのため俺は彼女と話すことがとても嬉しくなってしまい、かなり彼女に懐いた感じになってしまった。まあ別にいいか。


「ありがとう。そうだ、アルト。最後に1つ質問なんだが、私と会うまでに路地裏で変な人とか変なものとかを見かけたりしなかったか?」


話もほどほどに、そろそろギルドへと向かおうかと思っていると、不意にイヴェルからそんな質問が飛んできた。



...なるほどなるほど。

彼女はカツアゲの調査でこの街に来てるんだな。謎が一つ解けた。


さて、この質問に対する俺の回答だが、真実で答えるならば変な人は見た。更に言えば、その変な奴に絡まれて金銭を要求された。そしてそいつらの顔面を特性水風船で血だらけにして、そこから逃げてきた。


……うん、絶対に言えない。こんなことを馬鹿正直に話せば、彼女に警戒され、事情聴取され、危険人物としての烙印を押されることになるだろう。俺は波風を立てたくないし、人畜無害な一般人だと思われていたい。


「...特に見てないデス」


少しの罪悪感を感じつつ、俺はそう答えた。

どうせあいつらは異臭によって、そろそろ誰かに発見されるだろう。それで事件が解決するなら、わざわざ名乗り出る必要はないのではないだろうか。


「そうか、変なことを聞いてすまなかった。では、私は仕事に戻ることにする。あと、この路地裏は危険だからもう近寄るなよ。では元気でな、アルト」


「はい、イヴェルさん!ありがとうございました!」


お互いに別れの挨拶を済ませ、俺たちは別れた。ああ、とても有意義な時間だった。



これから4年後、学園でイヴェルと再開できたとしたら、彼女が俺のことを覚えていてくれることを期待しよう。

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