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アルト先生の魔法教室

「さて、早速始めようか」


「始めよー!」


「よ、宜しくお願いします」



生徒会室にある隠し階段を降りると、そこには広いドーム状の部屋があった。そこへ移動した俺たちは早速魔法の練習を始める。


「では早速で申し訳ないのですが、お二人とも魔法を見せてもらっても良いですか?」


「分かった」


「いいよ〜」


まずは二人が魔法をどの程度扱えるのか把握する必要があるため、全力で魔法を放つようお願いする。


「では、まずは私からだな。———闘志に篭りし猛き炎よ。我が呼び声に応じ、ここに顕現せよ。紅く、熱く、気高き焔の精霊よ。我が魔力を糧とし、その清く高貴なる力を我に貸し与え給え。さすれば、我と共に新しき世界の幕開けを見届けん。——火炎不死鳥ファイヤーフェニックス!!」


一歩前に出たイヴェルの詠唱に合わせ、炎でできた巨大な鳥がその背後に出現する。

彼女がその右手を突き出すと鳥は翼をはためかせて真っ直ぐに飛んでいき、数秒後に大爆発を起こした。



ドォォン!!



その爆発の衝撃は、ある程度離れているこちらにまで伝わってきた。花火みたいなものとでも言えば良いだろうか。


「ど、どうだ?今のが、私の出来る最高の魔法なのだが...」


しばしの間何も言わない俺に対し、イヴェルはこちらの様子を窺うように尋ねる。


......うん。なるほど。今のは火の最上級魔法で、当たり前だが威力は申し分ない。だが、あの鳥を操ることに難があるようだ。多分、彼女はあの鳥を真っ直ぐにしか動かせない。それでは実戦で使うことの出来る魔法とは言えないだろう。


まあ、そんな普通の分析はさておき、彼女には最優先で対策をするべき課題がある。


「イヴェルさん、早急に詠唱を無くしましょう。俺が!本気で!教えますので!」


その課題とは、詠唱の省略もしくは短縮化だ。

なぜか?そんなの決まっている。俺のためだ。


これから魔法を教える関係上、彼女に詠唱魔法を使われ続けると俺はいつか死ぬ。確実に死ぬ。精神的に。


「お、おう。分かった。よろしく頼む」


少し食い気味な俺に、イヴェルは若干引きながらもそれを了承した。


「じゃあ次は私の番だね〜。本気でやっちゃうよ!」


「あ、シエルさんは短縮詠唱できるならそれでお願いします」


「おっけ〜!」


イヴェルと入れ替わるように前に出たシエルは、軽くそう返事をし両手を前に突き出して目を閉じた。


「——万物を照らす光よ。我が魔力をもってここに顕現せよ。変幻せしその姿、我が願いに応じ与えられん。———虹玉(レインボーボール)!!」


詠唱を終えたシエルの手元には、1つの虹色の玉が出現した。


「はぁ!!」


更にシエルがそう叫ぶと、虹色の玉は彼女の手から離れてふわふわと宙を漂う様に飛んでいった。


その途中、シエルが人差し指をくるくると回すと、虹玉もそれに合わせるようにくるくると動いた。彼女は虹玉の操作を問題なく行えているようだ。



パァン!!



30秒ほど空中飛び続けた虹玉は、最後はシャボン玉が弾けるように割れて宙に消える。

その静かな崩壊とは対照的に、割れた数秒後にはイヴェルのときと同じかそれ以上の衝撃が俺たちの元へと届いた。


「ねぇねぇ、どうだった?どうだった?」


その威力に満足そうな様子のシエルは、食い気味にこちらに感想を求めてくる。なんだこいつ。可愛いな。



彼女の放った魔法は光の最上級魔法 (詠唱短縮版)だ。あの虹玉はそのふわふわとした見た目に反して内部に膨大なエネルギーを秘めており、それに触れると即座に大爆発を起こすという性質を持つ。

あの魔法は敵に直接当てるようというよりは、敵の周りを囲む様に配置して敵の行動を制限する様に使うことが多い。


同じ最上級魔法を放ったイヴェルの詠唱に比べ、シエルは半分程度の詠唱で魔法を行使している。更に操作に関しても指の動きと関連づけることで、大まかに動きを操作できるようにしているようだ。



とはいえ———


「シエルさんも、無詠唱での発動を目指しましょう!!」


俺のすることは変わらない。

詠唱の長さが半分でも、心を深く傷つけることには変わりないのだ。


「は〜い。分かったよ〜。でも、無詠唱魔法の練習ってどうやるの?」


イヴェルと同様、それを快く承諾してくれたシエルは具体的な練習法について尋ねてくる。まあ、想像がつかないのも無理はないか。


「具体的には、体の中で魔力を循環させる練習をしてもらいます。例えば...そうですね。シエルさん。目の辺りに魔力を集めて、魔力を見ることの出来る状態にしてもらっても良いですか?」


百聞は一見にしかず。

魔力の操作について、シエルに直接見てもらうことにした。


「うん、分かった〜。———見えるようになったよ」


「では、その状態で俺とイヴェルさんを見比べてみてください。どうですか?魔力の流れ方に違いなどありませんか?」


「う〜ん。そうだね、アルト君の魔力は体にぴったりと収まってて、体の外に漏れ出してないんだけど……イヴェルちゃんはあれだね、垂れ流し!」


「失礼なことを言うな!」


俺とイヴェルを見比べたシエルのそんな身も蓋もない表現に、イヴェルは少し顔を赤めながら反論する。


「言い方はアレでしたけど、シエルさんの言っていることはあながち間違っていません。当たり前のことですが、詠唱を省略するのであればそれ相応の魔力操作を身につける必要があります」


「えっと、一ついいか?」


魔力操作の重要性について話していると、イヴェルが小さく手を上げた。


「はい、なんでしょう」


「そもそもなんだが、詠唱とは誰でも省略出来るものなのか?疑っているわけでは無いのだが、私は詠唱がなければ魔法は発動できないと幼少の頃からずっと教えられてきたのでな…」


「いい質問ですね。そもそも詠唱と言うのは、あくまでも魔力の操作を補佐するためのものです。詠唱を唱えることによって、それに準じた魔法の発動が格段にしやすくなります。ですが、詠唱は魔法発動の必要条件ではありません。つまり、その補助が無くとも魔力の操作をできるようになれば、詠唱なんて必要ないわけですね。あと、この技術は才能が無くとも練習を繰り返すことで身につけることができます。これは俺が実証済みです。無詠唱魔法は魔力量などの先天的なものでは無く、あくまでも魔力操作という技術が重要になってくるので。まあ、才能のある人はその技術を身につけるのが早いとは思いますが」


「なるほどな」


イヴェルの質問に少し丁寧に解説を加えると、彼女はそれに納得がいったように頷いた。


「では、具体的な練習の仕方ですが————」


「ちょっと待ったぁ〜!」


練習の目的と方向性が定まったところで、早速具体的な練習に入ろうとしたところ、急にシエルが声を発した。


「ど、どうしました?」


「ズルいよ!アルト君!」


「は?」


「私たちの魔法を見せてあげたんだから、アルト君の魔法も見せてよ!」


何事かと思えば、シエルはこちらに人差し指を差してそんな事を言った。更には、その隣に立つイヴェルも若干興味があるような目でこちらを見つめている。


「...別にいいですけど、お二人よりも威力は断然低いですよ?」


「そんなことどうでもいいよ!アルト君の魔法は綺麗なんだから!見たい!」


「わ、私もアルトの魔法を見てみたいな...」


かなり食い気味なシエルと、少し遠慮しながらも頼んでくるイヴェル。......断れないだろ。


「分かりました。一度しかやらないので、しっかりと見ててくださいね」


美少女ヒロイン二人の頼みを断れるわけもなく、俺は一歩前に出て、集中のため目を瞑るのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



3時間にも及ぶ魔法の練習が終わり、俺たちは生徒会室へと帰ってきた。


「アルトの魔力操作の技術は本当にすごいんだな...シエルの言っていたことがよく分かった」


「あの龍の魔法は凄かったね〜」


二人に見せたのは、入学試験の魔法試験で使った例のエンタメ魔法だ。

威力度外視であるのならば、今の俺のできる最高の魔法はあの魔法になる。まあ、実践で使うことは一生ないだろうが。


「それにイヴェルちゃん、アルト君と手を繋いだとき、顔を真っ赤にして可愛かった〜」


「なっ、ば、お、お前!」


「ね、アルト君も可愛いと思ったよね?」


生徒会室で休憩をとっていると、シエルはふいに顔を近づけてそう聞いてくる。近い!近い!近い!



彼女が言っているのは、練習中にあった一幕のことだ。


やはりと言うかなんと言うか、イヴェルは魔力が体を流れる感覚というものを知らなかった。

百聞は一見に如かずということで、アーネやシエルと同じ様に彼女にもその感覚を体験してもらおうと思ったのだが、それをするためには俺とイヴェルが体を触れ合わせる必要がある。そこで、お互いの手を繋ぐことになったのだが...


『そんなに意気込まなくて大丈夫だよ〜』


恥ずかしかったのか、イヴェルは顔を真っ赤にして手を伸ばしてくるものだからめちゃくちゃやりにくかった。というか今日の昼休みには普通に握手をしたはずなのだが…


「......そうですね。可愛かったです」


「な、なっな、なにを、」


「だよね〜」


シエルの質問に俺は正直に答える。

まあ実際、握手1つで照れているイヴェルは可愛かったし、珍しい姿を見れたということで良しとしよう。


当のイヴェルはその返答に対し、再度顔を真っ赤にして狼狽えている。やはりその姿は普段の凛とした様子のイヴェルからは想像もつかないものだ。まあ、その、なんだ。ギャップっていいよね。


「改めてですが、最後にも言った通りイヴェルさんは一先ず魔力を目に集める練習をしましょう。イヴェルさんとシエルさんがお互いに魔力を見合うことが出来れば、効率的に練習ができるので。シエルさんは魔力を体の外に出さない練習をしましょう。どちらも場所を選ばない練習ですので、気が向いたらどんどん練習してみてください。お二方とも魔力量が多いので制御には根気がいると思いますが、頑張ってください」


珍しい様子のイヴェルを楽しむのも程々にし、俺は2人へ再度練習の内容を伝える。

まあ彼らであれば1ヶ月もあればそれぞれある程度まで習得できると思うが。


「ああ、今日は助かった。礼を言う」


「私からもありがと〜!アルト君よりも魔力操作が上手くなれるように頑張るよ〜」


「あはは...」


それに対してイヴェルとシエルの2人は、了承の意思と礼を述べる。


多分シエルは半ば冗談で言ってるのだろうが、彼女の才能をもってすれば一年後、いや下手すれば半年後にでも、俺よりも上手く魔力操作をできるようになっていてもおかしくはない。なんだろう。苦笑いしか出てこない。


「そ、それでだな、アルト」


「はい?」


練習も終わったため頃合いを見て生徒会室から退出しようと思っていた俺へ、イヴェルが声をかけた。


「も、もし良ければなんだが、これからも定期的に魔法の練習につき合って欲しいのだが...」


どこか緊張した様子のイヴェルは、少し顔を俯かせながら言う。なんだ。そんなことか。


「ええ。大丈夫ですよ。いつでも——とはいきませんが、日付さえ教えていただければ空けておきます」


「そ、そうか!で、では、寮の部屋の番号を教えてくれ!」


俺の返答を受け、一気に明るい表情となったイヴェルはそう続けた。部屋の番号?なんでだ?


「部屋の番号...?」


「あ、ああ。私もシエルも生徒会の関係上、練習の曜日などを一つに定めるのは難しい。だから、事前に可能な日程をアルトに伝えるため部屋に手紙を送りたいのだが......ダメか?」


「5号棟105号室です。宜しくおねがいします」


ダメなわけがないだろう!!

若干の上目遣いで聞いてきたイヴェルへ即答する。


「そ、そうか。ありがとう。詳細はまた後で手紙を送る。ではまたな、アルト」


「アルト君、またね〜」


「はい。イヴェルさんもシエルさんもお元気で」


イヴェルとシエルに見送られ、俺はそのまま生徒会室を後にする。


いやー、本物のエリートであるイヴェルやシエルに真の凡人たる俺が魔法を教える日が来るとは...分からないものだ。


そんなことを思いつつ、俺は真っ直ぐ寮へと戻るのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



俺の去った後、生徒会室にて。



「良かったね、イヴェルちゃん」


「そ、そうだな。アルトのお陰で魔力の感覚が————」


「いやいや、そっちじゃ無くて。アルト君の部屋番号だよ〜。これで、いつでも連絡取れちゃうね?」


「な、なっな、何を言って——」


「いや〜?生徒会って毎週土曜日と日曜日は休みじゃなかったっけって思ってさ〜」


「い、いや、土曜日と日曜日は学園も休みだろう?休日までアルトを練習に付き合わせる訳には...」


「それでも、アルト君なら引き受けてくれそうだけどね〜。まあ、イヴェルちゃんがそう言うなら、そういうことにしておいてあげようかな〜」



そんな会話があったことなど、俺は知る由もない。

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