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選定試験結果

校舎前で待機をしてから1時間ほど経ち、俺と同じように待機している人数もかなり多くなって来た。


そろそろかな〜、なんて思いつつ、特に何もしないでボーっとしていると、


「アルト君。お疲れ様」


「おう、セインか。ありがとう」


いつの間にか近くへ来ていたセインが声をかけてきた。


「よくこの中から俺を見つけられたな」


「アルト君の黒髪は特徴的だからね」


「それもそうか」


少し疑問に思ったことをセインに尋ね、その答えに納得していると、


「ふ〜ん。君がアルト君ね〜」


その後ろにいた、紫色の髪の少女から声をかけられた。


「お、おう。俺はアルトだ。君は?」


「私はシャーロット=ナイラ。...セイン君。君、人を見る目はないかもね〜」


「は?」


その少女は観察するような視線を俺へ目を向けると、すぐに興味を無くしたようにセインへそんなことを言った。俺は思わず声が出てしまう。


シャーロット=ナイラ、小説に登場する推薦者の1人だ。まさか、こんなところで会えるとは。


「まあいいや。じゃあね2人とも!本試験も頑張ろうね」


彼女の正体について設定を思い返している、シャーロットはそう言い、小走りでここを離れて行った。


2人、ね...俺の目が正常ならこの場には、俺とセイン、そしてもう1人ピンク髪の少女の3人がいるはずなのだが。


シャーロットめ......


「では、私も失礼します...本試験で会うことがあれば、よろしくお願いします...」


そのピンク髪でオッドアイの少女————この少女も推薦者の1人であれば、多分エマだろう————もそう言って、この場を離れていった。


「なんか、大変そうだね」


「ははは...」


推薦者の残りの2人、オスカーとエリオットの性格を知っている俺は、とりあえずセインにそう声をかけておいた。それにセインは苦笑いを返す。




セインと合流してから5分後には、ミルトさんを含む審査員達が地上へ戻って来た。

そしてそこから更に10分経つと、学園長であるアーレットが受験生の前に登壇した。


「受験生の諸君。選定試験ご苦労だった。結果発表の前に、走り切った者はもちろん途中で棄権してしまった者も、私は称賛しよう。本当にご苦労だった」


アーレットはそう言い、受験生に向かいパチパチと拍手を送る。


「さて、早速だが選定試験の合格者を発表する。全員、自身の受験番号の書かれたプレートを見るといい」


俺は彼女の指示に従い、自分の胸元につけてあるプレートを見る。3466と書かれたプレートには、特に変わった箇所は見当たらない。


「現在、受験番号がプレートに記してある者が選定試験合格者、つまり本試験へと進むことのできる者だ。数字が消えているものは残念だが、本試験へと進むことはできない。そのプレートを係の者へ返却した後、帰宅してもらう」


その後すぐ、アーレットはそう言葉を続けた。

な、なるほど。そんな急に発表するのか。びっくりした。


まあ取り敢えず、俺は本試験まで進むことができるようだ。周りを見渡してみると、殆どの受験者のプレートには数字が記されていない。その中には、悔しさからか泣き出している者もいた。しかし、こればかりは仕方ないだろう。

 




不合格者が全て去った後、登壇したままのアーレットが口を開く。


「さて、ここにいる選定試験を突破した者並びに私の推薦を受けた者には、これから本試験を受けてもらう。本試験について、まずは私から全体の概要を説明する。本試験は剣術、魔法、筆記の3つの試験に別れていて、それぞれ100点満点で採点される。各試験の具体的な内容は各会場で説明を受けてくれ。本試験の合格者は40人程度を予定しているが、これは選定試験と違い男女比は特に決まっていない。男でも女でも、優秀な者を上から合格させる。また、各試験と総合得点の成績上位者5名は試験結果の発表時に公表される。そして試験を効率的に行う為、諸君らには3つのグループに分かれてもらう。各グループ毎に各試験場に移動してもらい、そこでそれぞれの試験を行う。また選定試験を受けた者で体力や魔力を回復したい者は、1人2本までポーションを用意してあるので移動の際に申し出ること。ここまでで何か質問はあるか?」


アーレットは軽く周りを見渡すが、受験生からは特に声は上がらない。


「質問がないようなので、早速グループ分けを行う。受験番号が3466までの者は筆記試験の会場へ、6702までの者は剣術試験の会場へ、それ以外の者は魔法試験の会場へ向かってくれ。諸君の健闘を祈る」


アーレットはそう言うと、静かに壇上から降りた。概要の説明はこれで終わりなようだ。

俺の受験番号は3466でセインは3467であるため、俺とセインは丁度グループが分かれた形だ。


「丁度、別れたみたいだな。じゃあなセイン。お互い頑張ろう」


「うん。アルト君も頑張ってね」


セインと互いの健闘を祈り合い、俺は筆記試験の会場である校舎の入り口へ向かう。


本試験は受験者約400人の内、合格者は40人。本試験の合格率は10%で、選定試験も含めた全体の合格率は0.5%だ。倍率にすると実に200倍。やはり、グレース王国を代表する名門の名は伊達じゃない。


「まあ、ここまで来たら意地でも合格してやるけどね」


そう気合いを入れ直し、俺は校舎内へと入る。校舎の入り口付近にいた係員に案内されてたどり着いたのは、300人くらいは余裕で入れそうな大教室だった。

席は受験番号順らしく、既に半数程度の人数が着席しており俺も指定された席へ着いた。


その数分後には筆記試験を受験する全員が席へ着き、教室の後方から試験官と見られる大人数人が教室へと入ってきた。

その内の代表者だと思われる男性が教壇に上がり、拡声器を手に取って口元にあてる。


「試験の受験者が全員揃ったようなので、只今より筆記試験を始める。私は筆記試験官代表のダニエル=トレースだ。試験時間は100分間。筆記用具はこちらで用意するので、受験者は受験番号の記されたプレートのみを机の上に出し、それ以外は全て鞄などにしまうように。試験中の途中退室は認められていない。しかし、やむを得ない場合は試験が終わるまでこの教室へ戻らないという条件付きで、退室をすることができる。また当然であるが、カンニングなどの不正行為は行わないこと。それらが発覚した場合、即刻試験を中止し、これ以降本学園の入学試験の受験の一切を認められないので注意すること。では、筆記用具及び問題用紙、解答用紙を配布する。試験開始の合図があるまで、それらには触れないように」


試験官のダニエルさんが早々と筆記試験の説明を終えると、他の試験官が受験生一人一人に丁寧に筆記用具と問題用紙、解答用紙を配っていった。


そして俺を含む全ての受験生にそれらが配布され、遂にそのときがやってくる。


「筆記用具、問題用紙、解答用紙が届いていない者はいないな?それでは、筆記試験開始!」


ダニエルさんの開始の合図と共に、受験生達の紙をめくる音が教室中に響いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「そこまで!」


試験の終了を告げるダニエルさんの声と共に、受験生達はペンを置く。


「では、筆記用具、問題用紙、解答用紙をそれぞれ回収するので、これ以降手を触れないように」


試験官達は黙々と受験生から解答用紙などを回収していく。


「問題用紙、解答用紙の枚数の確認が取れた。筆記試験ご苦労だった。次は武道場で剣術の試験があるので、出入り口にある地図を確認してそこへ向かうように」


ダニエルさんはそう言うと、早足で教室を出ていった。


筆記試験の手応えだが、まあほぼ確実に満点だろう。

何問か難易度の高い問題もあったが、この3ヶ月の間、伊達に図書館に篭っていたわけではない。更に言えば、幼少期は毎日のように図書館に入り浸っていたのだ。

今更、学生に出題されるレベルの問題で間違う俺ではない。平均点は50点前後といったところだろうか。



俺は次の試験会場である武道場の場所を確認する。武道場はここから少し遠くの方にあるようだ。途中でポーションを配給しているところがあるようなので、一度そこへ寄ろうか。


「あっ、すみません」


「痛ぇな!...ってお前!」


武道場へ向かおうと教室を出ようとしたとき、他の受験生とぶつかってしまった。

俺はすぐに謝ったが、相手は少し怒っているようだ。顔を上げ、ぶつかった相手の顔を確認する。


「あ、貴方は」


「チッ...」


すると目には見たことのある少年の姿が映った。その少年の髪色は橙色で、かなり高級そうな洋服を着ている。


そう、俺がぶつかったのは小説内でのかませ犬こと、ドライ=マール君だった。


「選定試験合格されてたんですね。おめでとうございます。あれ?この前いらっしゃった他のお二人はご一緒ではないんですか?」


まあ、大体察しはついているが、敢えて彼に尋ねてみる。


「黙れ」


その質問に彼は不機嫌そうにそう言い、俺を無視して武道場へ向かっていった。


まさか彼と同じグループだとは。面倒なことにならなければいいが。

 

そんなことを思いながらポーションの補給場へ向かった俺は、体力と魔力を回復した後に武道場へと向かった。




俺がそこへ着いたとき、武道場では丁度1つ前のグループの最後のペアが立ち合いをしているところだった。


「うわ、セインはエリオットと当たったか...立ち会う相手はランダムとはいえ、これはついてないな」


武道場の中心にあるフィールドの上では、セインとエリオットが激しく木刀を打ち合っていた。小説内においてセインは他の受験生と当たっていたはずだが、俺が介入したせいでグループがズレたのだろうか。


「おらおらおら!こんなもんか?天才さんよ!」


「くッ...」


戦況としてはセインが若干押され気味だ。


性格は腐っていても、流石は剣聖の家系。

セインは決して弱くはないが、エリオットはそのセインをじりじりと追い詰めている。


流石に現時点でのセインではエリオットには敵わないか。魔法を使っていいのであればセインが有利だが、純粋な剣術だけならエリオットの方が一枚上手なようだ。

それから更に30秒後、セインは遂にフィールドの端へと追い詰められてしまう。


「やはり、お前は平民にしては相当強いらしい。だがその程度。剣聖の家系にある俺には到底敵わない。身の程を知れ!」


そう言って、エリオットは素早い動きでセインに向けて木刀を打ち下ろす。セインの位置的に避けることは不可能だ。また、真正面から受けようにも一歩でも後退すれば場外へ落ちる。


この瞬間、俺を含めてその場にいた誰もがエリオットの勝利を確信した。

しかし、セインの目は死んでいなかった。


エリオットの振るった剣がセインの胴に当たる直前。


「え?」


セインの体がブレた。

ギリギリで視認することのできた俺は、つい声を漏らしてしまう。


そして、エリオットの振るった剣は宙を切る。その事実にエリオットが気づいたときには、セインは既にその後ろにいた。


「はぁッ!!」


無防備なエリオットの背中に、セインの鋭い突きが入る。


「がッ...」


その衝撃にエリオットは堪らず前に倒れてしまい、場外へと出てしまった。


「————しょ、勝負あり!勝者、セイン!」


「ありがとうございました」


試験会場は一瞬の静寂に支配される。が、審判によりセインの勝利を宣告されると、会場は大きな驚きの声で埋め尽くされた。なんせ、剣聖の家系の人間を剣術試験で平民が倒したのだ。驚かないわけがない。


エリオットに勝利したセインは颯爽とフィールドを降り、次の会場へ向かおうとする。が、


「お、おい!今のは反則だろ!魔法だ!魔法を使ったんじゃないのか!」


場外に出たエリオットが大きな声でセインのルール違反を主張した。


「僕は魔法なんて使ってません」


セインはそんなエリオットの言葉を真っ向から否定する。


確かにセインのあの技は、単なる技術の一つであり魔法ではない。あれはセインが成長を経験した際に体験した”超感覚”を利用したものだ。


“超感覚”とは、簡単に言えば自身の五感及び身体能力を大きく向上させる技術だ。

自分以外の周りの動きが遅く見え、自分はその世界で普通に動くことができる。逆に周りから見ると、その使用者は異次元なほどに速くなったように見える。また相手の目線や筋肉の動きから、攻撃の来る場所や死角になっている場所を把握することもできる。


“超感覚”を発動するのに必要なのは、凄まじい集中力と精神力のみで、魔力を用いて発動する魔法とはその根本が大きく異なる。そのため、セインは本当に魔法など使っていないのだが。


「嘘を言うんじゃねぇ!そうでもなきゃ、俺が平民如きに負けるわけねぇんだ!」


プライドの高いエリオットがそう簡単に引き下がるわけがない。


エリオットを含め、他の受験生や審査員のほとんどは何が起こったのか未だに分かっていない。そのためセインが魔法を使ったとも、使わなかったとも言い切れない。

さて、これはどう収集をつけるのだろうか。


「落ち着けエリオット。私も今の試合を見ていたが、セインが魔力を使った様子は一切なかった。彼は魔法を使っていない」


そう言ってエリオットの元へ歩いていったのは、アーレットだった。


「ふざけんじゃねぇ!俺がこの平民に負けたってのか!?そんなわけねぇだろうが!だったらもう一度戦うのはどうだ!それなら文句ねぇだろ!」


エリオットは自分がセインに負けたことを認めたくないのか、学園長の言葉があっても引こうとしない。


「いい加減にしろ!」


更に抗議を続けようとするエリオットにそう怒りの声をあげたのは、彼と同じく鮮やかな赤い髪に紅い瞳を持つ1人の少女だった。


この学園の一年生であり、剣聖の称号を得たばかりのイヴェル=ラーシルドだ。


「あ、姉貴...」


「エリオット、お前は負けたんだ。相手である彼は魔法を使っていない。それは学園長の判断したことだ。万に一つも間違いはない。それなのにお前はいつまでもぐちぐちと...お前はラーシルド家に泥を塗るつもりか!男なら、男らしく負けを認めろ!」


「で、でもよ...」


「でもじゃない!」


イヴェルに公然で怒られたエリオットは急に大人しくなり、何も言わなくなった。

流石にエリオットといえど、実姉かつ現剣聖には反論できないようだ。


「セイン君。迷惑をかけてすまなかった。いい試合だった。学園長も愚弟が申し訳ありません」


「あ、ありがとうございます。僕は大丈夫ですよ」


「ああ、私も問題ない。だが、弟の教育はしっかりとしておけよ?」


「はい、勿論です」


そんなやり取りの後、セインや学園長達はそれぞれの場所へと向かった。


これで一連の事件は一件落着となった。...のだが、


セインってもう超感覚使えるようになってんの!?!?


俺はセインが”超感覚”を使えていたことにとても驚いていた。


“超感覚”は先程も言った通り、凄まじい集中力と精神力を必要とする。そのため、心を乱されやすい戦闘中にそれを発動するのは極めて難しいことなのだ。


小説内でのセインは成長経験こそしていたものの、学園の2年生になるまではそれを制御できていなかったはず。今のセインが完璧に制御できているかは分からないが、さっきのは狙って発動させたのだろう。


「明らかに、セインの成長スピードが早すぎるが...これは俺のせいか?」


その小説の内容とは異なる状況に、俺はある1つの仮説へと辿り着く。


小説内において、ヌレタ村にはセインとまともに剣を交えることのできる者は同年代の子供はおろか大人でさえもいなかった。


そのためセインは、学園入学前までは実践練習をあまり積むことが出来なかったのだが今は俺がいる。最近はもう敵わなくなってきているが、数年前までは剣術だけの立ち合いでもセインと良い勝負ができていた。


自分と同じぐらいの実力を持つ同い年の少年、つまりライバルと競い合い切磋琢磨することで、セインの力は小説のそれと比べて大きく向上しているのではないか。


まあ、セインが強くなる分には俺にとって良い話でしかないか。そろそろ復活するであろう魔王を倒せる可能性も上がるわけだし。



そんな風に結論付けた俺はこの問題について考えることをやめ、もうそろそろ始まるであろう剣術試験へと思考を切り替えるのだった。

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