選定試験
ゲートの接続先は、立方体の部屋の中だった。
縦横共に100m程度、高さは10mほどある部屋で、Bグループの2000人を全員収めることができた。
そして部屋にある4つの壁のうち、対面する1組の壁は、今は開いていないがスライド式の扉になっているようだった。
「はい。みなさん入りましたかね。では早速、試験の説明を始めます。試験が始まると、まずこちらの[始]と書かれた扉が開きます。そして、5分後にこちらの[終]と書かれた扉が開きます。皆さんは[始]の扉が開いてから5分以内に扉の先のコースへと入っていただきます。5分を過ぎてもこちらに残っている場合、棄権とみなされるので注意してください。コースへ入ってから5km進むと、この部屋と同じ造りの給水エリアがあります。その先には次のコースがあるので、そのまま次のコースへと進んでください。皆さんが走るコースは全体で円の形をしていますので、4つのコース全てを走り切りますとこの場所へ戻ってきます。そのため、この[始]の扉を通り過ぎてから、後ろの[終]の扉を通り過ぎるまでのタイムが記録となります。魔法の使用は認められていますが、他者の妨害行為は禁止されています。たとえ意図的でなくとも、他者を著しく妨害した場合は即失格となりますので気をつけてください。ここまでで、何か質問はありますか?」
一通りの説明を終えたミルトさんがそう尋ねると、1人の男の子が手をあげた。
「あの、質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「先程の試験の説明から察するに、試験は僕たちBグループだけじゃなく、他のグループの人たちもそれぞれ色々なコースを走っていて、全長20kmのコースで8000人の受験生が同時に走るということですか?」
「はい、その通りです。例えば貴方達が1,2,3,4の順番でコースを進むとすると、他のグループの人も2,3,4,1、3,4,1,2、4,1,2,3のような順番で同時進行で試験を進めていると言うことですね。因みに他のグループの人を追い抜いてもらって構いません。また、この試験では対応力の観点での能力も測るため、各コースの内容は試験を開始するまでは極秘事項なのでご了承ください。時間の計測はお手持ちの受験番号の書いてあるプレートを認識して行いますので、プレートはみなさん胸元に付けておいてください。また、試験の終了時刻は決まっているので、その時間までにゴールできなかった方は残念ながら失格ということになりますので注意してくださいね」
ミルトさんはそう丁寧に受験生からの質問に答えた。
彼女の話から、この選定試験の内容を整理すると
○受験者は各5kmのコースを4つ繋げた、全長20kmの円形のステージを走りそのタイムを競う
○AからDまでに分けられたグループは、開始時刻は同じだがそれぞれ別の地点から出発する
○試験開始の合図から5分以内に最初のコースへ入らないと棄権と見做されるが、5分以内にコースへ入ればその瞬間から時間は数えられるので不利益はない
○魔法の使用は禁止されていないが、故意でも過失でも他者を妨害する行為は禁止されている
○タイムの計測は受験番号の書かれたプレートを用いて行う
○試験には制限時間がある為、注意が必要
こんな感じだろうか。
まあ、簡単に言うと20kmを早く走り切った者から合格する試験だ。
「では、質問もないようなので試験開始まで待機です。あと7分程度で始まりますので準備をしておいてください」
ミルトさんがそう締めくくり、選定試験の説明は終了する。
Bグループの受験者達の面々の顔には、個人差はあれどそれぞれに緊張が走る。各自で準備運動などを始める者もいたため、俺もそれに倣い適当に準備運動を始める。
そして時間は経過し、試験開始まで残り1分を切った。受験者達は競うように[始]と書かれた扉の前へと並ぶ。一方の俺はというと、その扉とは反対方向に位置する[終]と書かれた扉の前で待機している。
そして遂に、
「試験開始です!」
[始]と書かれた扉が勢いよく開かれ、受験生が我先にと飛び出していった。試験開始から3分もすれば、出発地点に残っているのは俺とミルトさんだけになった。
「えっと、行かなくていいんですか?」
ミルトさんが俺へそう問いかけてくる。
「あー、そうですね。ちょっと僕、人混みとか苦手なんで。でも、そろそろ時間がまずいんで行きますね」
俺は[終]の扉の前から軽く走り始め、[始]の扉の直前でスピードに乗るように調整してコースへと出た。
タイムの計測はコースに入ったときから始まるので、少しは有利に働くだろう。
余分に走ることになるが、どうせこれから20km走るのだ。誤差の範囲内だ。
俺は学園入学後において、自身の力を無駄にひけらかすつもりはない。しかし、この入学試験で手を抜くつもりは一切ない。手を抜いて落ちたらダサすぎるし、セインやアーネとの約束もある。
だからこそ、このような細部まで勝ちにこだわるようにしている。
「なるほど...面白い子ですね。————あの方が一目置くだけあります」
受験者がいなくなった部屋の中で何か呟くような声が聞こえたが、その内容を聞き取ることはできなかった。




