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王都とかませ犬

アルクターレを出発してから2ヶ月半ほどかけ、俺とセインは王都へと辿り着いた。


「流石、王都って感じだな」


「そうだね。ヌレタ村どころかアルクターレとも比べ物にならないね」


検問を抜けた俺たちは、王都の中を歩きながらそんなことを話していた。

セインの言う通り、王都の中はどこを見ても人、人、人。建物も所狭しと並び、出店なども街中に多数見られる。


「よく言えば賑やか。悪く言えば騒々しいか」


「ははは...そう思うとヌレタ村は静かだったね...」


俺のストレートな物言いに、セインは苦笑いを浮かべる。


「更に言えば、ヌレタ村みたいに自由なスペースがない。試験までの3ヶ月、剣術とか魔法の練習はあまり出来なさそうだな」


「そうだね。少し不安だけど仕方ないね」


王都近郊にはヌレタ村やアルクターレにはあった、自由に練習の出来る森などはない。

街中に小さな公園などのスペースはあるが、出来て素振り程度か。俺とセインがそこで本気の練習をしたら、街中がちょっとした騒ぎになるだろう。


「残りの3ヶ月間どうするかは後で考えるとして、取り敢えず宿を探そう」


「そうだね」


取り敢えずそれらの問題は先送りにし、試験の日まで宿泊する宿を探すため俺たちは様々な宿屋を見て回った.......のだが。


「流石は王都、どこも値段が高けぇ...」


「安いところでも、アルクターレの倍以上はするね...」


それから宿屋を数十店舗ほど回ってみたが、安くても一泊7000G、高いところだと一泊10000Gを超えるところもあった。

試験まであと3ヶ月あることを考えると、合計で100万G弱を宿代で失うことになる。


俺はともかくとしてもセインには大きな負担となるため、それらの宿に宿泊するのは出来れば避けたい。しかし、現在の時刻は午後の7時頃。そろそろタイムリミットが迫っている。


最悪、冒険者登録のときと同じようにセインには無理矢理にでも金を渡すか。

そんなことを考えていると、セインが何かに気づいたように声を上げた。


「あ、ここも宿屋みたいだよ」


「え?」


俺とセインは今、大通りから少し外れた路地裏にいる。セインが指を刺す先には、ポツンと一つの扉があった。その扉の上方には掠れた文字で『宿屋サールス』と書いてある。


少し不気味な気もするが、背に腹はかえられない。


俺とセインはお互いに頷き合い、扉を開けてその宿屋へ入った。宿屋の中は少しボロいものの内装は思いの外綺麗で、特に不快感などは無かった。


「いらっしゃい。宿屋サールスへようこそ」


受付にいたお婆さんがこちらに気付き、声をかけてきた。


「宿泊をしたいんですけど、一泊いくらになりますか?」


「うちは一泊3000G。朝昼夕食すべてなし。うちが提供するのは寝るためのスペースと浴場だけ。値下げの交渉には応じないよ」


受付のお婆さんは早口でそう説明した。

なるほど。利用者は全員大部屋に集められ、そこで各自で雑魚寝をすると言う感じか。


「どうする?俺は別に構わないんだけど...」


俺はセインに意見を聞く。


「僕はむしろここの方がありがたいな。大部屋で寝るのは孤児院で慣れているし」


「じゃあ決まりだな」


俺たちはそこで3ヶ月の間宿泊をすることに決め、その分の料金をお婆さんに支払った。適当な出店で夕食を済ませた後、寝室となる大部屋へと入る。


そこには十数人の人々がそれぞれ適当な場所に布団を敷いて寝転んでおり、俺とセインもそれに倣って布団を敷いた。

その後浴場へ行ってみたが、思いの外広く快適に過ごすことが出来そうだった。


風呂から出た後、俺は王都へ着いたことを伝えるための両親への手紙を書き、セインは詠唱魔法の本を読み始めた。


両親への手紙をちょうど書き終えた頃、部屋の消灯時間となり辺りは真っ暗になった。


「おやすみ、セイン」


「おやすみ、アルト君」


俺たちは大人しく眠ることにする。


2ヶ月半に及ぶ移動に加え、宿を探すために王都の中を歩き回ったこともあり体はかなり疲れていたらしく、その日はすぐに深い眠りについた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



翌朝、セインと少し話し合い、俺たちは学園の下見へ行くことにした。

単純に学園の造りがどうなっているのかも気になっていたし、それを実際に見ることでモチベーションが上がると思ったからだ。

 

その道中で適当に朝ごはんを買いつつ、俺たちは学園へと向かう。

宿屋から30分ほど歩くと学園の校舎が遠く見えた。更に30分歩けば、その大きな校舎はもう目前まで迫っていた。


「これは...」


「凄いね...」


校舎の正面にある門の前に立った俺たちは、思わず声を漏らしてしまう。


まず、俺たちの目の前にあるのは巨大な門。

そしてそこから真っ直ぐに、真っ白な石で作られた道が伸びている。その脇にはいくつかの噴水やベンチなどが設置されていて、道の先には煉瓦造りの大きな校舎がある。日本の学校というよりは、西洋の大学を彷彿とさせる。


それ以外にも、歩道でない場所には青々とした芝生が植えられており、それらが日光を反射してどこか神々しいような雰囲気を醸し出している。また、ここから見えるだけでもその敷地面積はかなり広大であることが分かる。


学園の敷地面積は全体でどのくらいだろうか。東京ドーム何個分って小説で書いたっけな。なんとなく二桁にした記憶はあるのだが詳しい値は覚えていない。


「ここに僕たちが...」


「入るぞ。絶対に」


「うん。一緒にね」


俺が拳を差し出すと、セインは自身の拳をそれに合わせた。拳を下ろした俺たちは互いに笑い合う。


時間はまだ余るほどあったため、学園の外周を一周しようとした、そのときだった。


「あれあれあれ?どうして、由緒正しきグレース剣魔学園の門の前に平民なんかがいるのかなぁ?もしかして、入学希望者?そんなわけないかぁ、平民如きが学園へ入れるわけないもんなぁ?」


そんな声が耳に届いた。


声のした方を見ると、そこには腕を組んで如何にも貴族といったような橙色の髪の少年とその後ろに取り巻きらしき2人の少年がいた。


「君たち、どちら様?俺たちが平民だとか関係ないだろ。この学園は優秀な者の入学を受け入れているはずだ。身分は関係ない」


少しイラッとしてしまい、つい俺は言葉を返してしまう。


「は、これだから世間知らずは困るなぁ。いいかい?この学園が創立されてから100年以上の間、平民で入学できた者はいないんだよ。まあ当たり前だ、平民と貴族では才能の差がありすぎる。この学園へ入学できるのは実質的に貴族のみ、なんだ。そう、マール侯爵家の次男である、このドライ=マールは余裕で入学出来るだろうけどね!」


「流石です、ドライさん!」


「ドライさんなら、入学確実です!学園でも俺たちにお供させてください!」


橙色の髪の少年——ドライの言葉を受け、取り巻きの2人がそれを持ち上げる。言動から察するにこいつら3人共、俺たちと同じ試験を受けるのだろう。


それにしてもドライ=マールと言う名前、どこかで聞いたことがあるような。橙色の髪の毛...セインと同い年...言動から感じられる圧倒的小物感———あ!かませ犬のドライ君か!


確か小説の中でも身分を理由にして幾度となくセインへ噛みつき、その噛み付いた回数だけ返り討ちにされていた、かませ犬のドライ君じゃないか!その一方、取り巻き2人には全く身に覚えがない。多分、学園に入学できなかったのだろう。


確か小説内でのドライは、王太子の取り巻きになっていたはずだ。自身の取り巻きが入試に落ちてしまい1人ぼっちになってしまったため、王太子の取り巻きに転職したのだろうか。

因みにかませ犬ことドライ君だが、学園に入学出来るだけあってその実力は折り紙付きだ。ただそれはエリートの集まる学園では通用せず、ドライは学園の中において剣術、魔法、勉学共にその成績は下から数えた方が早かったはずだ。


まあかませ犬とはいえ、相手は貴族の侯爵家だ。ここで問題を起こせば面倒ごとは避けられない。


「よし、行こうか。セイン」


「う、うん」


面倒なことにならないよう、俺たちはその場を離れようとする。


「あれあれあれ〜。さっきまでの威勢は何処へいったんだぁ?貴族の言葉に返す言葉も無くなっちゃったかなぁ?これに懲りたら、平民如きが学園に入るなんて夢物語、考えない方がいいぜ?」


「流石、ドライさん!」


「平民に身の丈を分からせるなど、貴族の鑑!一生ついていきます!」


すると怖気付いたと思ったのか、ドライ達はそんなことを言ってきた。

何も言わなければこのまま見逃してやったんだが。


「威圧」


普通にムカついた俺は、ドライ達3人へ向けて威圧を発動した。


「「「!!!???」」」


するとつい先程まで騒いでいた3人は、すぐに静かになった。よく見てみるとその3人の顔は少し青く、汗をダラダラと垂らしている。


「3ヶ月後の入試、お前らは平民に負けることになる。それを覚悟しておくんだな」


固まったままの3人にそう伝え、俺たちはその場を去る。


「あんな奴らに負けないぞ、絶対」


「うん、僕も負けるつもりはないよ」


彼らに再開しないよう学園の見学は見送り、俺たちは宿への帰路へ着いた。

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