行商人探し
サミユ村。
ヌレタ村から少し離れた場所にある比較的大きな村で、ヌレタ村よりも人の出入りが多い。行商人なども盛んに出入りしており、都市であるアルクターレへ向かう人も一定数いる。
サミユ村へ着いた俺たちは、門番にアルクターレへ行くために寄った旨を伝え、村の中へ入った。サミユ村はヌレタ村の数倍の敷地面積を有し、建物もヌレタ村のものと比べて少し近代的だ。人の数は比べるまでもない。
俺とセインは早速、行商人らしき人々に話しかけ、近いうちにアルクターレへ向かう人を探した。結論から言えば、アルクターレへ向かう行商人はすぐに見つかった。それもかなり多数。
しかし俺たちが子供だという理由から面倒だと断ったり、異常なほど高額な金銭を請求するような人々ばかりだった。
「これじゃあ埒があかないな」
サミユ村へ到着してから3時間弱。
行商人に同行を断られ続けた俺たちは、村の外れの方でこれからの方針を練っていた。
「そうだね。アルト君は前にアルクターレまでどうやって行ったの?」
「前回はたまたま、俺と同じくアルクターレへ行く子供の集団がいて、1人ぐらいは変わらないだろうっていう理由で乗せてもらったんだ」
今思えば、前回はめちゃくちゃラッキーだったのか。一緒にいた子達は冒険者として上手くやれているのだろうか。あれから4年ほど経っているが、アルクターレで別れてから会っていない。
「まあ、今はそんなことはどうでもいい。問題はどうやって行商人に乗せてもらうか、だ」
「う〜ん。たくさんの人に話しかけて親切な人を探すか、最悪お金を払うしかないよね...」
「最悪の場合はそうなるな......あ!俺たちを護衛として雇ってもらうっていうのはどうだ?護衛として雇って貰えば、もしかしたらタダで乗せてもらえるかもしれない」
このファンタジーな世界では、モンスターや盗賊などが珍しくない。長い時間をかけて他の街などへ移る際は、護衛を雇うのが一般的だ。
因みにアルクターレで利用した送迎サービスなんかでは、利用者の護衛は御者の仕事だったりする。馬車を安全に運転できて、モンスターなどから利用者の身を守ることもできる。送迎サービスの御者にはこの2つの素質が必要なため、御者は元冒険者なども多いらしい。
少し話が逸れたか。
「確かに!それいいかも!」
セインもその案には賛成らしい。自分たちで言うのもなんだが、俺たちはその辺の護衛よりは強いだろう。
新たな交渉のカードを握った俺たちは再度、行商人たちとの交渉に臨むのだった。
「それでも全滅ってマジかよ...」
「もうお金を払うしかないのかな...」
行商人との交渉に臨むこと更に3時間。
それでも尚、行商人に断られ続けた俺たちは既に諦めかけていた。
「金を払うこと自体は構わないが、流石に片道1人30万Gは高すぎるだろ!?」
正直、運賃を払えないことはないのだが物価の安いこの世界で、王都までならともかくとしてアルクターレまでで30万Gは流石に高すぎる。
アルクターレからヌレタ村へ帰ったときはアーネのお母さんのご厚意で無料にしてもらったが、正規料金は10万Gくらいだったはずだ。正規の3倍の料金を払う気にはどうしてもなれなかった。
「取り敢えず、今日はもう諦めよう。明日もう一日だけ行商人を当たってみて、それでもダメだったら金を払うしかない。今からは一旦宿を——」
「君たちが、アルクターレまで行く行商人の護衛をしたいという子かな?」
「「え?」」
今日はもう諦め、宿泊する宿を探そうとしたそのとき、後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには、白い髭を蓄えた初老くらいのお爺さんが立っていた。
「君たちが、アルクターレまでの護衛をしたいという子かな?」
「ええっと、そうです。俺たちはアルクターレまで行くため、そこへ向かう行者の護衛としての雇い先を探しています。腕には自信があります」
「ホッホッホ、そうかそうか。わしはここに来るまで護衛を雇っていたんじゃが、その護衛との契約はここまでにしようと思っててな。そうじゃのう...荷物の積み下ろしと護衛をしてくれるのなら、お主らをタダでアルクターレまで連れてってやっても良いぞ?」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、本当じゃ」
セインの確認にお爺さんは大きく頷く。
「そ、それなら是非ともお願いしたいのですが...」
「しかしじゃな...護衛として雇うのじゃから、ある程度の力を示してもらわないといけないのう」
お爺さんは顎の髭を触りながら悩むようにそう言った。それはそうだ。護衛にはある意味で自分の命を預けている。その実力を確認できなければ雇いたくはないだろう。
「俺たちはその辺の下手な護衛よりは強い自信があります!戦っても負けるとは思いません!」
俺は真実味を持たせるため、わざと強く断言する。まあ、セインもいるし、本当に負ける気はしないんだが。
「おいおいおい、聞き捨てならねぇな。ガキンチョ。爺さんも酷いじゃねぇか。俺たちは精一杯護衛をしていたってのによぉ!」
「勝手に契約を破棄しようとするとかないわ。しかも俺たちの代わりに雇おうとしてるのがそんなガキ共とか、笑えないわ」
どうしたらお爺さんの信頼を得られるのかと考えていると、その後ろから柄の悪い2人の男が近づいてきた。
「!?、お主らがなぜ此処に!」
その姿を見たお爺さんは細い目を見開く。その表情からは強い驚きとともに、少しの恐怖も見て取れる。
なるほど、お爺さんはここへ来るまではこの2人に護衛を頼んでいたのか。その道中で、この2人の態度に嫌気がさしたのだろう。
「お爺さん。この2人を倒せば、護衛として雇ってくれますか?」
俺はお爺さんの前に出て、元護衛の男達と対峙する。
「え?あ、ああ。じゃが、この2人は性格は悪いが実力は相当じゃぞ?お主ら、勝てるのか?」
「ええ、問題ないです。なぁセイン?」
「そうだね、アルト君。お爺さん、安心してください。僕たちが貴方を守ります」
セインも一歩前に進み、俺と同じように男たちの前に立つ。
「おいおい、本気で言ってんのかガキども?これは少しお灸を据えてやんなきゃいけねぇようだな?」
「そうだな。こいつらをボコボコにして身ぐるみ剥がして、ついでにじじいからも違約金としてお金をたくさん貰っちゃおうか!」
俺とセインはそれぞれ護身用の剣を構える。この剣はあくまで護身用なので刃は鋭くなく、殺傷性は低い。男たちもそれぞれの獲物を取り出し、こちらへ構えた。
「今更泣いたって許さねぇからな、クソガキ!」
斧を振り上げた一方の男が、その斧をセインへと振り下ろす。
「大丈夫です。元々、許されるつもりはありませんから」
セインはそれを真っ向から受け止め、いとも容易く弾き返す。
「うおっ!?」
まさか真正面から受け止められるとは思っていなかったのか、男は驚きの声を上げる。
その隙を突き男の背後に回り込んでいたセインは、その男の首に思いっきり剣を振り下ろした。
ドンッ
そんな鈍い音がして、男は地面に倒れる。
完全に気絶しているようだ。流石はセイン、鮮やかな手並みだ。セインって意外と容赦ないんだよね。
「へ?タロンがやられた?」
残ったもう1人の男は、あまりにあっさりと決着がついてしまった事に茫然としている様子だ。
「ごめんな。俺たち、弱くないんだ」
棒立ちのままでいる男の側まで近づいた俺は、剣で思いっきりその頭を殴った。
ガンッ
そんな音が響き、その男もそのまま地に倒れる。護身用の剣だし、どちらも死んではいないだろう。まあ、めちゃくちゃ痛いとは思うが。
「は、はわ...」
あまりにあっけなく決着してしまったことに、お爺さんは酷く驚いているようだった。空いた口が塞がっていない。
「お爺さ〜ん」
「はっ!?な、なんじゃ?」
目の前で手を振り呼びかけると、お爺さんは少し緊張した様子で俺たちに向き直った。
「これで、護衛として雇ってもらえますか?」
その質問に、おじいさんは当たり前だというように大きく頷いた。




