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村への帰還

馬車に揺られること10日程度。


俺は約2年ぶりにヌレタ村へと帰ってきた。

久々の村の様子は2年前とさして変わらないように思えた。しかし身長が伸びたのか、以前とは見える景色が少しだけ異なっている。

そんな懐かしくも新鮮な景色を眺めながら俺は実家へと向かった。


実家の玄関までたどり着いたところで、一度足を止める。


母さんと父さんはこの2年間、無事でいてくれていただろうか。2年間近く連絡のなかった俺のことを心配してくれているだろうか。母さんに会ったらめちゃくちゃ怒られるかもしれないな。

......そう思うと、急に玄関を開けたくなくなってきた。


俺は一度大きく深呼吸をし、覚悟を決めて扉を開く。


「お、お邪魔しまーす...」


小さな声でそう言って、家の中へと入る。村と同様、実家についても2年前とほとんど何も変わっていなかった。

そのことに懐かしさと安心感を覚えつつ、玄関で様子を見ていると家の奥からパタパタと足音が聞こえてきた。


「は〜い、どちら様で...す........か....」


小走りで玄関へとやってきた母さんは俺の姿を見ると、ピタリとその動きを止めた。


その久しぶりに見る母さんの顔は少しだけ皺が増えているものの、やはり懐かしい母さんの顔だった。またその姿は、以前と比べて少し痩せている気がした。


「えっと〜、母さん大丈夫?」


固まってしまった母さんへと声をかける。


「ア、アルト...?」


母さんが掠れた声で問いかける。


「はい。貴方の息子のアルトです。まあ少し色々とあって帰りが遅くなったけど、ただいま」


そう言うと、母さんは泣きながら俺のことを抱きしめた。


「アルト!!あなたはずっと連絡もしないで!!全く帰ってこないで!!私達がどれだけ心配したと思って...!!本当に死んでしまったかと...!!こんなに大きくなって...!!」


「連絡をしなかったのは本当にごめん。でも、母さんとの約束通り生きて帰ってきたよ」


俺は泣きながら叱ってくる母さんを宥める。そこには久しぶりに感じる親の温かみがあった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



夜には父さんも帰ってきて、我が家では久々に家族揃っての食事が行われた。


父さんは俺が帰ってきたことや身長が伸びていることにも驚いていたが、それ以上に


「アルトお前、もう俺よりも強いだろ?一体どれだけの死線をくぐり抜けてきたんだ?」


と、力の伸び方に驚いていたようだった。

流石、かつては名の売れていた冒険者。その人の雰囲気や歩き方などでおおよその実力が分かるらしい。


率直に言って父さんからそこまで言われる事は嬉しいのだが、それを母さんの前で言うのはやめてほしい。ほら、母さんの俺を見る目が少し鋭くなった。


「いやいや、そんなに死線という死線は乗り越えてないよ!無理をしないようにって母さんと約束したから!」


「いいや、明らかにお前の成長スピードはおかしい。最低でも一回は成長を経験していないと説明がつかない。成長は生死の境目で起こる現象だ。一度くらいは死を意識する戦闘があっただろう。更に言えば、成長を一回していたとしてもお前の力は伸びすぎだ。それこそ命の危機とはいかなくとも、危険な局面は何度も体験したんじゃないか?」


「アルト?父さんはこう言ってるけど、実際のところどうだったの?」


まずいと思い急いで父さんの言葉を否定するが、彼の目は誤魔化せないようだ。やばい、母さんの目がどんどん細くなってきている。


実際の話をすれば、父さんの言っている事は大体合っている。本当に死を意識したのはゲンシのときだけだが、階層主戦はすべてギリギリの勝利だったし、それ以外の層も慣れるまでは大変だった。


しかしそれを認めてしまうと、俺の脳天には間違いなく、特大の雷が落ちることになるだろう。それは非常に困る。

ということで、最終手段を使うことにした。


「黙秘権を行使します」


そう、何も言わない。

俺が何も言わなければ、それらが真実か否かは分からない。あくまで今までの話は父さんの憶測にすぎない。それの真偽の判断が出来なければ、母さんは俺を怒りようもない。なんて完璧な作戦だ!天才!自分を褒め称えたい!


「アルト?後でお話がありますからね?」


俺のそんな甘い考えは、母さんから笑顔で放たれた言葉によって脆くも崩れ去った。


「...はい」


黙秘権はあっても拒否権を持たない俺は、母さんの言葉に頷くしかなかった。


そうして夕食を食べ終わった後、俺は案の定小一時間みっちりと搾られるのであった。





母さんからお説教を受けた後、俺は2年前のままにされていた自分の部屋で変身の魔導書を取り出した。空間収納と威圧は既に習得したため、残るはこの一つのみだ。


こちらもさっさと習得してしまおうと思い、その表紙を開く。するといつものように、膨大な情報が俺の頭の中に流れ込んできて————痛、痛たたたた!なんだこれ!頭が割れるようだ!


急に今までに感じたことのない、電撃のような頭痛に襲われた。


「がぁッッ———」


声を上げそうになるが、必死でその声を抑えて耐える。母さん達には心配をかけたくない。


しかしどれだけ痛がってもがこうとも、魔導書からの情報は絶えず頭に流れ込んでくる。数時間にも思える時間が経過した後、頭の痛みは急に引いていき、辺りを見ると魔導書は既に消えていた。


「はぁ...はぁ...な、何だったんだ今の...」


あれほどまでの痛みを経験したのは初めてだ。それほどまでの痛みだったのに、現在それは嘘のように綺麗さっぱりと消えている。頭を振ってみても痛みは全くない。


「スキルの習得数には限界があるのか?それとも、短い期間で多くのスキルを習得しようとしたからか?」


多分だが頭に激痛が走ったのは、強制的に送られる情報の量に脳が耐えられなかったためだろう。つまりこれ以上スキルを覚えることは、現時点において脳に大きな負荷をかけることになるということだ。


そこで重要になってくるのが、この作用が永久的なものなのか、それとも一時的なものなのかということだ。


後者であれば全く問題ない。スキルを覚えるのに間隔を開ければいいだけだからだ。しかし前者、スキルの覚えられる数に限界があるのなら非常に困る。


限界が何個なのかは分からないが、これからは取得するスキルの内容を精査しなければならなくなるだろう。スキルを習得しようとするたびに、あの痛みが襲ってくると思うと憂鬱だ。


「あ、ねむ...」


そんなことを考えていると、いつものように急に眠気が襲ってきた。


まあ、今そんな事を考えても答えは出ない。とりあえず、スキルの取得についてはこれ以降慎重に選択することにしよう。


そう決めた俺は、すぐに深い眠りへと落ちていった。

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