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小悪魔アーネちゃん

「アルトさん。故郷の村に帰るって言ってませんでしたっけ?どうして、まだここにいるんですか?」


眩しいくらいの笑顔を貼り付けたアーネが問いかけてくる。うん、やっぱりなんか怒ってる気がする。


「えっとだな。今まで、俺はアーネと行ったダンジョンの攻略をしてたんだ。で、その攻略が昨日終わって、今から故郷の村へ帰るところで」


彼女の無言の圧に押されながら、俺は子供が言い訳をするように答える。いや、特に悪いことなどはしていないはずなのだが。


「なるほどなるほど。私はその事を聞かされてませんでしたけど、百歩譲ってここに残っていた事は許します。私は聞かされてませんでしたけど」


なぜ2回言う。


「ですが、本題はここからです!なんで私と会うのを断ったんですか!呼んでくれたらすぐにでも飛んで行ったのに!」


急に語気を強めたアーネはそう訴えた。

なるほど。俺が会うのを断ったことに、彼女は腹を立てているのか。しかし、それに関してはこちらにも言い分がある。


「いやいや、アーネは学園に入るために頑張っているんだろ?それを俺が邪魔をしちゃ駄目じゃないか」


「だ、だとしても!私は!アルトさんに会いたかったですし、断られたと聞いた時、とても悲しかったです......」


おいおい、さっきまでの威勢は何処へやら、急にめちゃくちゃ悲しそうな顔をした彼女は力無く俯いてしまった。


え、こういう状況ではどうするのが正解なんだ?まずい。前世でも今世でも女性経験に乏しい俺には全く対処法がわからない!どうしよう!


「......え、えっと、理由はどうであれ、アーネにそんな思いをさせていたとは知らなかった。それに関してはすまないと思っている」


どうすればいいのか分からなくなってしまった俺は、とりあえず頭を下げて謝った。


女と言い合いになった時は取り敢えず謝っておけ。前世での爺ちゃんがよく言っていた言葉だ。爺ちゃん、あなたの教えは異世界の孫にまで届いています...!!


まあ、爺ちゃんはめちゃくちゃお婆ちゃんの尻に敷かれていたんだけど。今考えると、爺ちゃんには謝るという選択肢以外は与えられていなかったのかもしれない。…なんだか、急にお爺ちゃんが不憫に思えてきた。


「…なるほど。アルトさんは私に対して申し訳ないと思っているんですね?」


「あ、ああ。それは間違いない。本当にすまなかった」


そんなアホな思考は一旦停止し、俺はアーネに向けて再度深く頭を下げる。こちらに非があるのかは分からないが、彼女のことを傷つけてしまったのであれば謝るべきだろう。


「———でしたら次以降、アルクターレに来るときは必ず私に会いに来ることを約束してください。約束してくれたら、今回のことは許してあげます」


すると俺の言葉を聞いたアーネは、スラスラとそんなことを言った。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。アーネと会う分には全く構わないんだが、このアルクターレ中を探さなきゃいけないとなると俺の負担が———」


「約束してくれたら、許して、あげます」


咄嗟に条件を変えるよう説得しようとするが、彼女はそれを遮る。…条件の変更は無理そうか。


「......はぁ、分かったよ。その条件を呑もう。約束する。アルクターレへ来たら、必ずアーネに会いに行くよ」


「そうですか!ありがとうございます!」


すると先程までの悲しげ雰囲気は何処へやら、彼女は眩しいくらいの笑みを浮かべた。さっきまでのは演技だったか...アーネは将来、俗に言う小悪魔的な女の子に成長するのかもしれないな。


そんなことを思いながら外を見てみると、そこには既に一台の馬車が到着していた。いつの間に外へ出たのか、カイルさんがこちらの様子を窺っている。


「じゃあ俺はもう行くから、アーネも元気で。また」


「はい!アルトさんもお元気で!約束、忘れないでくださいね!」


アーネと軽く別れの挨拶をし、馬車へと乗り込む。その扉を閉めようとしたとき、カイルさんがこちらに話しかけてきた。


「アルトさん、娘がすみません。アルトさんが店に来たと知った途端、私もついていくと言って聞かなくて...普段は物分かりがよくて、我が儘なんて全く言わない子なんですけど...」


彼女は申し訳なさそうな顔でこちらを見る。なんだそんなことか。


「いえいえ、大丈夫ですよ。最後に色々と話せて良かったと思ってます」


「そう言ってもらえると助かります。アルトさん。あんな娘ですが、アーネをこれからも宜しくお願いします」


そう言う彼女の表情は、何故か真剣なものであった。今から村へ帰る人間に言うことか?とも思ったが、俺は彼女の目を見て真面目に答える。


「ええ、任せてください」


その答えを聞いたカイルさんは、安心したような笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。では、行ってらっしゃいませ」


静かに馬車の扉を閉めたカイルさんは、運転手に合図を出した。

すると馬車はゆっくりと動き始める。



ふと店内の方見ると、アーネがこちらに向かって大きく手を振っていた。その表情は再開した当初の貼り付けたような笑顔とは違って、自然体のように見えた。


短い時間でコロコロと表情が変わるなぁと思いつつ、俺は手を振りかえす。

その数秒後には彼女の姿は見えなくなり、窓の外ではアルクターレの街並みが流れる。



なんやかんやで2年弱も滞在していたアルクターレでは本当に色々なことがあった。


俺はそこでの出来事を思い返しながら、ゆっくりと進む馬車に揺られるのであった。

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