表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/194

絶体絶命

まずいまずいまずいまずいまずい————


自身の置かれている状況を理解した俺は、焦りながらも必死に頭を動かす。


生き残るにはどうすればいい。

ゲンシの落下を止める?いや、流石に無理だ。あの巨体の落下を止めるなど俺が1000人いても不可能だろう。

自分の落下の進路を変えてゲンシから逃れる?いや、ゲンシが反転している間に俺は甲羅から手を離してしまっている。そして今、手の届く範囲には何もなく、魔法を使うこともできない。進路を変えることは難しいだろう。


どうするどうするどうする————


詰み———そんな言葉が脳裏をよぎる。


魔法も使えない、自由に動くことも出来ない。つまり、俺はこのまま自由落下を続けることしか許されず、最終的にゲンシに押し潰されてしまう。—————そんな結末が頭に浮かぶ。


このまま、死んでしまうのか————









嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


死なないで家に帰ると約束をした。セインと共に学園に入学すると決めた。アーネからブレスレットを返してもらうと約束をした。そして何より、セイン達の紡ぐこの世界での物語を見守ると決めた!


前世でも途中で放り投げたのに、今回も放り投げるのか?そんなの許されるはずがない!著者として、俺はセイン達のこれからを見守る義務がある!こんなところで死んでられるか!生きることを諦めるのは死んでからだ!生きている間は必死に生にしがみつけ!


そう思った瞬間、両足に力がこもる。


「うぉぉぉぉぉ!!」


俺は両足で何もない空間を蹴る。


本来であれば、その両足は空を切るはずだった。しかしその時、何もないはずの空間に確かに”何か”の感触があった。

その”何か”を蹴った衝撃で俺は落下の進路を横方向にズラすことに成功、つまり真上に迫る甲羅の進路から外れた。だが、落下の勢いは落とせていない。このまま地面に衝突すれば、結局死んでしまうのではないか。どうする、どうする、どうするどうする————


「がぁぁぁぁ!!!」


巡る思考の中、俺は力を振り絞りボロボロの両手を組んで真下の空間を殴る。そのときにもやはり”何か”の感触があり、落下の勢いが和らいだ。


その後1秒と経たず、俺は地面と衝突する。



ドンッ!!







...........なんとか生きているようだ。

しかし、死なない程度ながらも全身を強く打った俺は体が全く動かず、起き上がることができなかった。


ズドォォォォォォォォン!!!!


それから遅れること数秒、倒れている俺の真横にゲンシが物凄いエネルギーを伴って地面と衝突した。

辺り一帯に爆音が鳴り響き、大きく砂埃が舞う。

まさに紙一重。あれの下敷きになっていたと思うとゾッとする。


相変わらず体は動かないため、俺はゲンシの動きを観察する。あいつが動けたら、今度こそ詰みか。




パキッ


ゲンシが墜落してから数十秒後。そんな何かが割れるような音がした。よく見てみると、ゲンシの甲羅の一部にヒビが入っていた。そしてそのヒビはどんどん隣の甲羅へと伝播していく。


パキッ……ピキッ…パキパキパキパキ……


そして遂には割れた甲羅の破片が地面に落ち始め、最終的にはすべての甲羅がゲンシから剥がれ落ちてしまった。

また、ゲンシの首と両手両足は重力に従い下方向に伸びてしまっており、その瞳には光が灯されていない。


「自滅...か?」


先程のジャンプ反転攻撃は諸刃の剣だったらしい。

彼の甲羅は落下の衝撃に耐えることができず、すべて割れてしまった。更に自身も体力が無くなり倒れてしまった、ということなのだろう。


俺は直感的に、勝利したのだと悟った。


「とはいえ、俺も体は全く動かないし、意識も朦朧としてきてるんだが...」


ゲンシの必殺技から逃れたあのとき、自分が何をしたのかは全く分からない。


しかし、自分の実力以上の動きをしたことは確かなのだろう。そんな動きを、ただでさえボロボロの体で行ったのだ。体が動かなくなっても不思議ではない。それに加えて、ゲンシを倒したことで気が緩んだのか強烈な眠気が襲ってきている。


ぼんやりとした意識の中、ゲンシの亡骸が光の粒子となり消えていくのが見えた。そしてその亡骸あった場所には茶色い宝石の埋め込まれたアクセサリー———あれはアンクレットだろうか———が出現し、20層の中心にはいつものように淡く光る扉が出現した。


あの扉をくぐれば、このダンジョンの攻略は終了する。結局、ダンジョンの攻略を始めてかなり長い時間が経ってしまった。しかし、これでやっとヌレタ村へと帰ることが出来る。


母さんや父さん、セイン達は元気にしているだろうか。俺のことを心配しているだろうか。一年以上もの間、顔を出していないことを怒ってはいないだろうか。母さんに怒られたら、その時は目一杯謝ろう。


そんなことを考えながら、扉へと手を伸ばす。しかし、やはり体はうまく動かない。かろうじて動かせるのは、利き手でない左手だけだ。


「帰らなきゃ...みんなが待つヌレタ村へ...」


俺は再度、扉へと手を伸ばす。それでもやはり右手は動いてくれないし、体は扉の方へ進んでくれない。


視界がぼやける。意識が遠のいていく。全身が限界を訴えていることがよく分かる。


「かえ.....ら...な............きゃ..........」


もはや自分がなんと言ったのかも分からない。遠のく意識の中、俺はヌレタ村へ帰るため、扉へ向かい手を伸ばし続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ