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覚えのあるストーリー

人の気配を避けながら路地裏を進み、俺と少女は大通りへ出た。


少女の顔を隠すため大きめのフードのついたパーカーのような服を購入し、少女に着せる。

その後、適当な飲食店へと入り、少女から事情を聞いた。



その少女————アーネは、今年11歳になる女の子で、平民の身でありながら魔法を使うことができた。だが、彼女は平民である為に実用的な魔法は使えず、家の手伝い程度にしか魔法を使うことはなかった。しかし彼女が、特に水魔法について類稀なる才能を持つことが最近あるお婆さんによって判明した。


そのお婆さんは道ですれ違ったアーネを見るや否や、彼女の肩を両手で強く掴み彼女に水魔法の才能がある、と力説した。


アーネはそのお婆さんに言われるがまま差し出された透明な石————透魔石だろう————に魔力を流すと、透魔石はそれはもう爆発しそうなくらいに激しく青色に発光した。そのお婆さん曰く、彼女はしっかりとした訓練を積めばこの国を代表する魔法使いになり得るくらいの存在なんだという。



アーネの話をそこまで話を聞いたとき、俺はある疑問を抱いた。そのお婆さんは、透魔石を使わずに彼女の姿を見ただけで、その才能を文字通り見抜いたのだ。


姿を見ただけでその人の魔法の才能の有無を見抜く。その原理が非常に気になった。

俺は人の気配を感じることは出来るがその人の魔法の才能、ましてや適性なんて分からない。分かるのはその気配を発している人間が何処にいるか、ただそれだけだ。


少しだけ考え、ある考えに思い至った。

自身の魔力を両目へ集中させれば、もしかしたらその人の魔力を見ることが出来るではないか、と。

ものは試しだと思い、自身の魔力を両方の目に集中させて目を開いた。そして、俺は見た。


「わぁ…」


目の前に広がる、オーロラような見た目をした巨大な青色の魔力を。その魔力の特筆すべき点は、なんといってもその量だ。


魔力を目にするのは初めてなので、一般の人間がどれくらいの魔力を発しているかは分からない。だが、目の前に広がる魔力の量が異常であることは間違いない。


そのまま辺りを見渡してみるが、店内にいる人の中で最もオーラの大きい者の魔力でも、俺の目の前にあるそれの千分の一に満たない。


「道理でお婆さんが興奮するわけだ」


「?」


目に魔力を集めることを止めながらそう言うと、そのオーラを放つ張本人————アーネは不思議そうに首を傾げた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



さて本題へ戻るが、アーネが不思議なお婆さんに魔法の才能を認められたのが数日前の事。そして今日の昼、彼女の家に先程の2人の男達が訪ねてきたらしい。身の危険を感じた彼女は魔法を放ち、その男達から逃げて来た、ということのようだ。


きっと彼女の才能について聞き及んだどこぞの貴族が、彼女を奴隷として自身の家に迎えるため裏の組織に誘拐するよう依頼をしたのだろう。


因みに、逃げ出すために彼女の使った魔法は水を生み出すだけの単純な魔法だったようだ。そんな魔法でも、才能のあるものが本気で使うとかなりの威力になるらしく、大人を追い払うのには十分だったらしい。

俺にとっての中級魔法程度、もしかするとそれ以上の威力があるかもしれない。


さて、彼女の話してくれたこれまでの内容だが、それは何処かで覚えのある内容だった。なんなら、アーネという名前にも聞き覚えがある。


……確か、小説内で登場する学園の後輩の女の子。幼い頃にセインに憧れを抱き、平民という身でセインに続いて2人目として学園への入学を許される女の子———アーネ=エルトリア。






...これはやったかもしれない。



アーネがセインへ憧れを抱くきっかけになったのは、彼女が犯罪組織に捕われているところをセインに助けられたからだ。本来であればアーネはあの場で男達に捕まり、数ヶ月後にセインによって救出される運命だったのだろう。


しかし、アーネのことは俺がつい先程助けてしまった。つまり、彼女がセインに憧れを抱くシチュエーションをぶっ壊してしまった訳である。


ここまで考えた後、俺はそれ以上頭を動かすことを止めた。

まあ、やってしまったものは致し方ない。



俺は思考を切り替え、彼女の今後について考えることにする。このまま家に帰したところで、何の問題の解決にもならないだろう。どうせまた、犯罪組織が彼女を誘拐しにやってくるだけだ。


俺がその犯罪組織を壊滅させることも多分可能ではあるが、その手段を取るわけにはいかない。犯罪組織の壊滅は数ヶ月後のセインにやってもらう必要がある。セインが学園に入る上で大変重大なイベントがあるのだ。


では、どうすればアーネの身の安全が保障されるのか。

きっとそれは、彼女自身に強くなってもらうしかないのだろう。


幸いにもアーネは水属性に適性を持っているので、水魔法が有効なカイナミダンジョンの1~4層辺りで魔法の使い方を指導をすれば、かなりのレベルアップを期待することができるだろう。


「なるほど、君の事情はよく分かった。その上で、良く聞いてほしい。このまま君を家に帰したとしても、君をまた誘拐しようとさっきの男達が家を訪ねてくるだろう。それでは、なんの解決にもならない。更に言えば、君のその才能を目当てに、これから色々な人間が君の身を狙ってくるだろう。そこで俺から提案がある。君が自分自身の身を問題なく守れるように、少しの間俺と共に魔法の特訓をしないか?」


今までの思考全てを纏め、そんな提案をしてみると彼女は少し怪訝な顔になる。


「…えっと、まず提案以前にそもそも貴方は何者なんですか?助けられた恩があったので事情を話しましたけど、私と歳はあまり離れてなさそうですよね?どうして、見ず知らずの私をそこまでして助けるんですか?」


そして彼女は、俺に様々な疑問を投げかけてきた。それら疑問は尤もだ。


「ああ、名乗りもせずすまない。俺はアルト=ヨルターンという。アルトと呼んでくれ。身分は平民、ヌレタ村という辺境の村の出身だ。年齢は君の1つ上で、今年12になる。君を助ける理由は、俺にとって目の前で困っている女の子を見殺しにするのは後味の悪いことだからだ。…これでいいか?」


俺は彼女の疑問について、一つ一つ的確に答えを返していく。今の俺が信頼を得るために出来ることは、彼女の質問に誠実に答える事だけだ。


「…最後に、あの男に当てていた打撃。あれは魔法ですか?」


そんなアーネからの質問に、俺は素直に感心した。あれが魔法であると見破られていたか。


「あぁ、その通りだ。正確に言えば、風魔法を纏わせた拳を当てただけだが」


彼女を救った際、俺はチンピラAを殴り飛ばして無力化したが、大柄な成人男性を単純な力のみで吹き飛ばすのは流石に無理がある。


チンピラAの腹に当てた拳。あれには風魔法を纏わせていたのだ。チンピラAはその風魔法の風力によって飛んでいったという訳だ。因みにチンピラAの拳を片手で受け止めた時にも、風魔法でその威力を減衰させていたりする。


「…なるほど。分かりました、アルトさん。私は貴方を信じます」


「え、そんなにあっさり?いいのか?」


思いの外あっさり信用してくれたアーネに、つい声が出てしまう。彼女はある程度警戒心が強そうだったので、あと十数個程の質問に答える覚悟はできていたのだが。


「貴方は紛れもなく私の命の恩人です。貴方が助けてくれなければ、私は奴隷になっていたと思います。そんな恩人が、私の不躾な質問にも丁寧に答えてくれました。ましてや、使った魔法の詳細まで。その人を信じることが出来ないで、何を信じることができますか」


「…大人びた11歳だな」


「どの口が言っているんですか。貴方はとても12歳には見えませんよ」


スラスラと信用した理由を語るアーネに思ったことを伝えると、彼女は心外とでも言うように返した。


お互いに顔を見合わせた俺達は数秒後、静かに笑い合った。いずれにせよ、彼女からある程度の信頼を得ることができたようだ。





「さて、本題に戻るが、魔法の特訓をするか?」


アーネからの信用も得られたところで再度、彼女へと質問する。


「私としては是非ともご一緒したいのですが...家族が心配です」


それにアーネは少し俯き気味に答える。

その心配は尤もだ。たとえ彼女が家にいなくとも、犯罪組織が彼女の家族に危害を加える可能性は十分にある。仮に人質取られでもしたら最悪だ。


「何処か身を隠せる親戚の家とかは?」


「あることにはあるのですが、この街から遠くの場所に住んでいて、すぐに移動できる場所ではないんです」


なるほど、頼ることのできる場所は近くに無いといくことか。なら、あの手段を使うしかないな。


「分かった。それは俺が何とかする。取り敢えず今は、冒険者登録をしに行こう」


「え?ええ?私、お金持ってないですよ?」


「問題ない。出世払いで構わないから」


突然の提案に混乱するアーネを連れ、俺は冒険者ギルドへと向かった。

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