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怪しげな会話

白夜を倒し、酸欠になりながらもなんとか宿屋へ戻った俺は泥のように眠って、目を覚ますと翌日の正午だった。


宿へ帰ってきたときの事はほとんど覚えていないので、どれだけ眠ったのかは分からない。だが、かなり長い間眠っていただろう。


「疲れがまだ全然抜けてないな。過去一疲れる戦闘だった」


明日も休養日にすることを早々に決め、宿屋の食堂で昼ご飯を食べた後、また部屋に戻り眠ることにした。次に目を覚ましたときには、既に外は薄暗くなっていた。


このまま宿屋の食堂で夕飯を食べても良かったのだが、かなり休むことができたこともあり体も少し楽になっていたため、気分転換に外で夕食を取ることにした。


よくよく考えてみれば、俺はこの都市に1年弱の間いるのにも関わらず、夜に出歩くというのは初めてかもしれない。


基本的にはダンジョンにいたし、ダンジョンから出ていたとしても宿とダンジョンの間の往復、もしくはアイテムの調達などしかしていないため、この街を適当にふらつくというのは初日以来だった。


「酒場…は年齢的にアウトだし、お金もあまり消費したくないな。どこか街の食堂的な店があるといいんだが」


そんなことを考えながら適当に街を散策していると、路地裏に複数の人影を見かけた。



「おい、奴は見つかったか!」


「すみません、まだ見つかってないっス」  


「いいか、絶対に逃すなよ。あいつは既に予約済みだ。魔法を使えるガキだからな。いい値段で取引されることは間違いない。最悪、多少は痛めつけても構わん」


「ウィッス!」


そんな会話を、俺は風魔法を応用して盗み聞きした。その内容は明らかに子供の誘拐を示唆するものだ。


「よくある話だが、知ってしまった以上、無視するのも後味悪いよな...」


俺は主犯格と見られる男2人の気配を覚え、その2人が消えていった路地裏へ続いて入る。


今から一年ほど前にはこの迷路のような路地裏で迷子になっていた俺ではあるが、今は人の気配を感じることができるため無鉄砲に歩き周るということは無い。


気配を覚えた2人————以降チンピラA,Bと呼ぶことにする————とは出会わないよう、他の人間の気配がする方向へ向かう。路地裏には元々人があまりいないのか、周囲の人の気配の数は少ない。周辺には、先程の2人を含めて計5人の気配があった。


俺は動きやすいよう、建物の屋根の上へ登ることにした。うん、こっちの方が動きやすいし、場所を把握しやすい。


俺は正体不明の3人について、近い方から順にその様子を見に行く。1人目と2人目はどちらもチンピラみたいないかつい男であり、目的とする子供ではなかった。

コイツら————以降C,Dと呼ぶ————もAとBの仲間であり子供を探しているのだろう。


残りの3人目について様子を見に行こうとしたところ、3人目はA及びBと同じ場所にいることが分かった。しかも、その3人目はAとBによって壁側に追い込まれているようであった。


「これは一足遅かったか」


俺はその3人の集まっている場所へ、屋根の上を駆けて向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「やっと魔力が尽きやがったか。お得意の魔法も魔力が尽きたら何もできないだろ。さっさと諦めな」


「いや〜、疲れたっスね〜。手間をかけさせやがって、このガキが!」


路地裏のある一角。2人の男は勝ちを確信した様子で奥の空間へと言葉を飛ばす。その視線の先には、路地の行き止まりに追い詰められた1人の少女がいた。


「ハァ...ハァ...誰があなたたちなんかに投降するものですか!」


追い詰められた少女は尚も抵抗を続ける。

その服や顔は砂や小さな傷で汚れており、どれだけ必死に逃げていたかを窺わせる。


「あー?自分の立場わかってないのか、このガキは。こっちが優しくしておけば、図に乗りやがって...依頼主には傷をつけるなって言われてるが、ある程度の躾は必要だよな?オイ、分からせてやれ」


「ウィッス!このクソガキに躾をしてやりますよ!おら!かかってこいや!」


諦める様子のない少女に痺れを切らした大柄な男は、もう一方の男へと指示を飛ばす。命じられた男は元々武道を嗜む一家の生まれだ。


現在は勘当されているとはいえ、彼ににとって魔力を使い切り疲弊した少女など敵ではない。


「キャッ!!」


「おいおい、魔法が使えなきゃそんなもんか!そんな生温い攻撃が俺に当たると思ってんのか?舐めてんのかよクソガキィィ!!」


自分へ向けて振り下ろされる拳。

少女はその軌道を目で追いながら家族のことを思った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



チンピラBが3人目————茶色い髪をした10歳前後の少女————に向かい拳を振り上げ、振り下ろそうとした、そのとき。



ズドン!!



「あ?」


「え?」


「あー、一つ質問なんだが。子供しかも女の子に手をあげるとか、どういう了見だ?」


屋根から飛び降りた俺は、そのままチンピラBの脳天に踵落としを食らわせた。

結果として、チンピラAと少女との間に割って入る形になる。


「…おい、テメェ何者だ?ケビンはお前みたいなガキにそう簡単に倒される奴じゃないと思うんだが」


いち早く状況を理解したチンピラAが、俺へと問いかける。


「お前らみたいなゴミに名乗る名前なんてない。それに俺はまだ修行中の身だ。えっと、ケビンだっけ?彼がただ実力不足なだけじゃないか?」


少なくとも目の前に立つチンピラAは、チンピラB改めケビンよりは強そうだ。俺の登場など想定外だったろうに、それに慌てることなく状況の理解に努めたのは高評価だ。まあ誘拐なんてしている時点で、人間性は大きくマイナスであるが。


「さて。このまま、ここで気絶してるケビン君を持ち帰って、俺たちを見逃してくれれば穏便に済む話ではあるんだけど」


「こっちもそういう訳にはいかないんだ。そっちこそ、そのお嬢ちゃんをこっちに渡せば、命だけは助けてやるぜ?」


こちらの持ちかけにチンピラAはやはり応じない。

その拳を強く握り、闘う気満々と言った様子だ。


「だってさ、君、あっちに行きたい?」


一応少女にも問いかけてみると、少女はフルフルと僅かに首を横に振った。


「交渉決裂だな」


「そうか、残念だ」


チンピラAはそう言うと同時、地面を蹴ってその拳を突き出してきた。


「おっと、危ない」


俺は突き出されたチンピラAの拳を軽く片手で受け止める。それと同時に、もう一方の手で固めた拳をチンピラAの腹に軽くめり込ませた。


「がァッ!?」


それだけでチンピラAは大きく吹っ飛び、向かい壁に衝突して動かなくなった。


戦闘時間僅か数秒。意外とあっけなかったな。


「あー、死んでないよな?うん、多分大丈夫。手加減したし。でも念のためさっさと逃げよう」


「あ、あの、」


ピクリとも動かない男達の様子を窺いさっさと逃げることを決意したとき、少女が話しかけてきた。


「あ、君大丈夫だった?色々聞きたいことがあるんだけど、とりあえずこの場を離れないといけないから、付いてきてくれないかな」


「え、えっと、貴方は私を捕まえに来た人じゃないの?」


「うん、違うんだけど…証明できるものは持ってないな」


「いや、大丈夫、です。信じます」


「付いて来てくれる?」


「...はい」


そんなやり取りがあり、俺は少女を連れてその場を後にした。

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