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不思議な少年

「…やはり、目標対象は見つけられないか」


王都から少し離れた場所にある、アルクターレという街の路地裏。そこに1人立ち尽くす私は、今回の作戦が徒労であったことを悟り静かにため息をついた。



私はイヴェル=ラーシルド。

ラーシルド家、つまりは剣聖の家系に属している。ラーシルド家に属するものは皆須く剣術の才能を持っており、剣術の腕においては兄弟以外に国内で右に出るものはいない。

そして、剣の才能を持つ者しかいないラーシルド家の中でも、特に剣技の優れている者には”剣聖”という称号が与えられる。



私は現在、父に自ら志願して父が代表を務める、災害の支援や犯罪事件の調査などを行う派遣隊の手伝いをしている。そしてその派遣隊の仕事で、王都から少し離れた場所にあるこのアルクターレという都市へ訪れることになった。


父曰く、このアルクターレという街で最近、若者が金を強奪されるという事件が多発しているらしい。またその被害者は全て、冒険者登録料である10万Gを盗られているとのことだ。


そこで、私が冒険者の志望者のフリをして犯罪者らを誘き出し、彼らを一斉に検挙するという計画が立てられた。

そのため私は昨日、わざと人気のない場所を選んでキョロキョロとし、冒険者志願者のフリをしながら街中を歩いていた。昨日一日、街中を歩き回ってみた成果としては、


「あの〜、良かったら一緒にパーティでも組みませんか?」


「そこの可憐な君!この貴族である僕と一緒に、お食事でも如何かな?」


「ねぇねぇ、君、お金稼ぎたくない?君なら、このお店でNo.1になるのも夢じゃないよ!」


などなど、冒険者パーティの勧誘から食事の誘い、更には怪しげな店への招待など、色々と声をかけられたものの、目的とする犯罪者達から声をかけられることは無かった。因みにパーティの勧誘、食事の誘いなどはすべてやんわりと断り、怪しげな店の店主のような者は都市の自警団へ突き出した。


金銭を強奪された被害者はアルクターレへ訪れた当日にその被害に遭っているらしい。そのため、昨日一日で成果が無かったということは、もう犯罪者達を誘き出す事ができないだろうという結論に至り、私は今日から路地裏の見回りを行うことになった。


この街の路地裏は非常に入り組んでおり、これは警備の目が行き届かない訳だと思いながら路地を歩いていたときだった。


「あの〜、」


「ッ...!!」


背後から、私と同い年くらいの少年に声をかけられのは。




黒髪で黒い瞳をした少年だった。


私は今までに黒い髪の毛を持つ者に出会ったことはない。

その少年の体格はお世辞にも良いとは言えず、正直弱そうだという印象を抱いた。このような少年は金銭強奪の犯人からすれば、格好の餌食だろうとさえ思った。


しかし私はこの少年の存在に、話しかけられるまで全く気づかなかった。敏感とまではいかないものの、ある程度人の気配は感じ取ることが出来るのだが。

また、その少年からは少しばかりの異臭がしていた。


「あ、驚かせてしまいましたか?すみません」


少し言葉を詰まらせていると、少年は少し申し訳なさそうに私から一歩引いた。


「いや、こちらこそすまない。初対面の相手に対して失礼な態度だった」


少年に気を遣わせてしまったことに気が付き、少年に対して非礼を詫びる。


「いえいえ、こちらが突然話しかけたのが悪いんですし、気にしないでください」


少年は私の謝罪を受け入れ、人懐っこそうな笑みを浮かべた。


その後に少しのやりとりがあり、私はその少年を冒険者ギルドへと続く大通りまで送ることになった。





そこから私達は自己紹介などをしながら10分ほど歩いて、目的の大通りに出た。


「あの大きな建物が冒険者ギルドだ。あそこで冒険者登録をすることができる。大変なこともあると思うが、頑張れよ。アルト」


「はい!ありがとうございます!イヴェルさんもお仕事頑張ってください!」


たった10分話しただけだったが、私はアルトに少し懐かれたようだった。


「ありがとう。そうだ、アルト。1つ質問なんだが、私と会うまでに路地裏で、変な人とか、変なものとかを見かけたりしなかったか?」


一応、別れる前に彼に怪しいものを見なかったかを聞いておく。彼が路地裏で犯人に見つかっていればまず間違いなく絡まれているであろうから、会ってはいないと思うが。


「...特に見てないデス」


予想通り、彼は路地裏で何も見ていないとのことだった。

彼が少し、私から目を逸らしていたのは気になったが。


「そうか、変なことを聞いてすまなかった。あと、路地裏は危険だからもう近寄るな。では、私はこの辺りで仕事に戻ることにする。またな、アルト」


「はい、イヴェルさん!お元気で!」


そんなやりとりをして、私たちは別れた。








アルトと別れ、私が路地裏の見回りに戻ってから数十分後、派遣隊の上司から連絡が入った。曰く、金銭強奪の常習犯と見られる2人組の男達が路地裏に血だらけの状態で倒れているところを確保された、と。


またその男達を発見した隊員曰く、路地裏の見回り中、強い異臭を感じその方向へ向かったところその男達を発見した、と。


「異臭、か...」


その報告に、私の脳裏には一人の少年がちらつく。

そういえば、彼に尋ねた最後の質問。彼は抽象的な"怪しいもの"、という内容に対して疑問を抱いていないようだった。それに何故、私がそんな質問をするのかについても気にしていないように見えた。

まるで怪しいものの内容、そして私の質問の真意を知っていたかのような...


「アルト、ヨルターン...」


私はその黒髪黒眼の少年の姿を思い浮かべながら、犯人が発見されたという場所へと向かうのであった。



その後、確保された2人組の男達は被害者の証言などから、金銭強奪の犯人として断定された。犯人達は現在、病院で怪我の治療を受けているがそれが終われば事情聴取が始まるだろう。



目的の事件の犯人が確保されたことに伴い、私はアルクターレから王都へ戻ることになったのだが……王都へ戻るまでの間に、黒髪の少年の姿を見ることは遂になかった。

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