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web小説とは

初投稿です。

他サイトに掲載していたのですが、こちらにも掲載することにしました。

彼らの物語に少しでもお付き合いいただけると幸いです。

日本の全人口の90%以上がモバイル端末を所持し、ネット社会とも呼ばれる現代。

読書の新たな形として、web小説というものが提案された。


このweb小説というシステムにおいては小説の投稿や閲覧、その作品への評価、更には作品の著者と読者間でのコミュニケーションまでもが、誰でもweb上で簡単に行うことができる。

本屋に行く必要もない、作品を出版社へ持ち込みに行く必要もない。そもそも家から出る必要すらない。web上ですべてが完結するのだから。

圧倒的な手軽さ、それがweb小説というシステムの最大の武器なのである。


ただでさえ時間的余裕の少ない現代だ。その武器は社会的需要とあまりにもマッチしすぎていた。

結果として21世紀初頭の現在において、老若男女問わず非常に多くの者がweb小説を利用しており、その存在は現代の人間社会に確実に根付いている。いや、あまりにも深く根付いてしまった。



一つ勘違いをしないで貰いたいのだが、別に俺は小説の投稿、閲覧が簡便にできるようになった点について文句を言うつもりは何一つない。むしろ俺は暇さえあればweb小説を読み漁っていた人間であるし、なんなら自らで執筆した小説を投稿していたことだってある。

そんなweb小説のヘビーユーザーであった俺が、そのシステムについて言いたいことがあるとすれば唯一つ。



自らの作品を投稿するときはマジで気をつけろ、ということだけである。



気軽に自らの書いた小説を投稿することができるということは自分の頭の中だけで留めていた、いや留めておくべきだった妄想達をインターネットという恐ろしく広大な世界へ、簡単に送り出すことができるということに他ならない。

つまり、たくさんのweb小説を読み漁り、少しだけ想像力の豊かな青年の書いた若気の至りとも言える痛々しすぎる小説が、その広大な世界へと発信されてしまうという現象——————そんな悪夢のような現象が起こり得るようになってしまったのだ。


投稿直後はそんなこと問題ないかもしれない。むしろ、自身の創作物を世界に向けて発信したという達成感や高揚感を感じているだろう。...だが、その数年後にはどうだろうか。


その投稿された小説は数年後、当時青年だった男の黒歴史として強く刻まれる可能性が非常に高い。

ましてや身内や知り合いにバレでもした日には、彼の精神は灰燼と化し、それの再生にはかなりの時間を要することになるだろう。


以上に述べたように、web小説システムの普及により心に決して浅くはないダメージを受けた者も少なくないのではなかろうか。

お察しの通り、かく言う俺も同様の黒歴史を抱える内の1人だ。



では、なぜ俺がこのようないつまでも記憶の底に鍵を何重にも掛けて閉まっておきたい黒歴史の話をわざわざ掘り返して語っているのか。




それは——————


「あら、アルトちゃん。今日も泣かずに自分で起きられたのね〜」


ふと声が聞こえてきたかと思うと、茶髪で青色の目をした女性と同じく茶髪で緑色の目をした男性が俺の顔を真上から覗き込んできた。


「お、本当か。知り合いの親は、赤ん坊はすぐ泣いて子育てが大変だと言っているが...アルトは本当に手が掛からないなぁ」


「そうね〜。手は掛からないんだけど…私としてはもう少し頼ってくれないと、親として少し寂しいわ」


仰向けで横たわる俺の顔を見ながら、2人の男女は会話を続ける。勿論、記憶の上で俺は赤ん坊なんて呼ばれる年齢は優に越しているし、彼らの顔に見覚えはない。

しかし現に、今俺は赤ん坊であり、両親は彼らであるらしいのだ。


まあ、なんだ。詰まるところ———



————俺はどうやら、自身の黒歴史の1つに数えられるweb小説『勇者セインの学園英雄譚』の世界に転生しているらしい。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



俺こと、加藤(かとう)(あきら)は至極普通の大学院生だった。


高校生のときに単に化学が好きだったという理由で理系に進み、1年間の浪人期間を経て地元ではまあまあ有名な大学の化学科進学した。

大学入学後は普通に友達を作り、普通の大学生活を謳歌した。大学3年生の秋頃には、周りの友達の殆どが大学院に進むという話を聞いて大学院への進学を決めた。そして大学4年生のとき、ある研究室へ配属されたのだが...これがまずかった。その研究室は俗に言うブラック研究室という奴だったのだ。


朝は8時までに研究室へ必ず集合、家へ帰る時間は早くとも22時、時期によっては日を跨いでいることも珍しくなかった。休日や祝日という概念は存在せず、研究室の教授と先輩の命令は絶対。拒否権など与えられず、上から降ってくる雑務をこなしながら余った時間で自身の研究を進める日々。そして研究の進捗が少なければ、教授や助教から罵詈雑言を浴びせられる。

このような環境のために同級生や後輩が研究室へ来なくなり、音信不通になることもしばしばあった。

俺はその環境下で約一年半の間は耐えていたが睡眠不足や過労が祟り、ある日研究室内で倒れて————




————気がついたら、このヨルターン家の赤ん坊に転生していた。

両親の会話を盗み聞きすることで、ここがグレース王国という国に属するヌレタ村という地域であることが判明した。会話を盗み聞きしていた当初は何処かで聞いたことある名前だな〜と思っていたのだが、それもそのはず。これらの名前は俺自身が名付けた名称だった。本当にびっくりした。


そんな盗み聞きくらいしかすることのない生活下で、この異世界が『勇者セインの学園英雄(くろれきし)譚』の世界であると決定付けたのは両親のこんな会話だ。


「そういえば今日、奥の森で赤ちゃんが見つかったらしいわ。その赤ちゃん、どうもこの村の子ではないらしいの。今は孤児院に引き取られたみたいだけど、大丈夫かしら...」


「うむ...心配だが、孤児院に引き取られたのなら安心だろう。だが、森の奥で発見されたという事は捨て子か?酷いことをする親もいたものだ。赤ん坊はこんなにも可愛いというのに」


「あーう、あー」


「おー、本当にお前は可愛いな。よしよしよし」


その後、赤ん坊を撫でるにはあまりに強い力で俺の頭を撫でた父は、母にしっかりと怒られていたのだが...今はその話は置いておこう。


本題に戻るが、ズバリ、その孤児院に引き取られた赤ん坊というのが黒歴史の主人公、セインだろう。孤児として拾われるシチュエーションから、彼が育った村の名前まで見事に一致してたからすぐに分かった。こうして俺は、自身の黒歴史の1つである『勇者セインの学園英雄譚』の世界に転生したのだと、認めざるを得なかったのである。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『勇者セインの学園英雄譚』は、言ってしまえば暇つぶしで執筆を始めた小説だ。

大学の学部2年生までに卒業に必要な単位の8割程度を取り終え、サークルにも所属していなかったため暇な時間が他の学生より幾分か多かったのだ。


最初は気が向いたら書く程度で更新頻度もそれほどなく、また文体や内容も稚拙であったため人気などなかった。しかし、投稿を始めて数ヶ月ほど経った辺りから小説を書くこと自体が楽しくなり、投稿を毎日するようになった。それのおかげか閲覧数も少しずつ増加し、これからも頑張っていこうと思っていた矢先に俺は最悪の研究室に配属された。


研究室に配属されて最初の頃は、忙しくてもある程度の頻度で小説の投稿を継続して行えていた。しかし、配属されてから3ヶ月も経つと投稿をしなくなっていた。そしてそれ以降も物語を更新することが出来ないまま、著者である俺は過労によって死んでしまった。

以上のような経緯で、『勇者セインの学園英雄譚』の物語は未完結のまま幕を閉じることになったのである。

一応どんな形で話を完結させるかは定まっていたし、完結まであと少しというところまで話は進んでいたため完結させることができなかったのは悔しいと言えば悔しい。だが、終わった事をうじうじ言っていても仕方がない。

今の俺がするべきなのはもう過ぎてしまったことを後悔することではなく、これからの未来について考えること。つまり、この小説内の世界でどのように生きていくのか、についてだ。


今はまだ赤ん坊ということもあり優しく温かい両親に大切に育てられてはいるが、いつかは自立しなければならない。

現在住んでいるヌレタ村はグレース王国の辺境の村であるため職業の選択肢など無いに等しく、将来は親の家業を継ぐのが一般的だ。父親は村の防人----村の外を見張り、なにか異常や問題があればそれらを排除するような仕事をしている。母親は俗に言う専業主婦みたいなもので、特定の仕事についているわけではない。しかしたまに、村のママ友と集まって収穫された野菜の選別をしたり、縫い物をして服などを作る手伝いをしたりもしている。

このことから察するに、普通に何も考えずに成長していけば、俺はこの村で父親の仕事である防人を継ぐ可能性が非常に高いことが分かる。



しかし、この村に生涯住み続けるのは絶対に嫌だ!

無論、育ててくれている両親にはとても感謝しているし、この村でも十分に幸せな生活を送ることが出来ることも分かっている。現に両親はこの村で幸せな生活を送っているようだし。

しかし俺はどうしても、自分が完結させることのできなかった物語の続きをこの目で見ていたいと思ってしまう。


孤児院に引き取られた子供はセインと名付けられたらしい。『勇者セインの学園英雄譚』というタイトルからも分かるように、セインという名は前世で執筆していた小説の主人公の名だ。そして彼の年齢が俺と同い年であることも判明している。このまま順調いけば、セインには水魔法と光魔法に適性があることが判明するだろう。彼は頭脳明晰かつ魔法の他に剣術の才能にも恵まれるため、15歳で王都にあるグレース剣魔学園に通うことになる。


グレース剣魔学園とは王太子や宰相の息子など次世代の国家を担う若者達が集う、王都にある超名門の学園である。優秀であれば身分に関係なく入学することができると銘打っているが、その"優秀"のハードルはとてつもなく高い。

剣術と魔法、そして学力。その3つの要素全てにおいて非常に高い水準を求められる。


また子供に専門の家庭教師を用意することのできる貴族とは違い、平民には家庭教師どころか、そもそも読み書きすらできない者も少なくない。そんな背景から、この世界では貴族と平民の間には埋まることのない絶対的な能力差が存在する。


そのためグレース剣魔学園では創立以来、平民が入学したことは一度たりともない。学園は創立してから100年以上経っているのに、だ。そんな真のエリートしか通うことの許されないグレース剣魔学園にセインは平民として初めて入学を許可され、そこから魔王を倒すための物語が幕を上げる—————我ながら、かなり痛いストーリーを考えたものだと思う。


それはともかくとして、小説の主な舞台となるグレース剣魔学園に俺は是非とも入学したい。

そしてあわよくば、俺の考えた登場人物達とキャハハ、ウフフな学園生活を送りたい!


そんな理想を現実にするべく、俺は何をするべきなのか。そんな疑問に対する答えは至極単純だ。


そう、俺自身もグレース剣魔学園への入学を認められるような人間になれば良い。


しかしそれは、言うは易く行うは難しというやつだ。

前述のように、グレース剣魔学園は次世代の王国を担う才能のある若者のみが入学を許される学園である。そのため学園への入学を志望する者は非常に多く、倍率は3桁に届くことが当たり前だ。そんな狭き門を平民という身分で突破するのに、どれだけの努力が必要だろうか。


自ら書き始めた小説すら完結させることの出来なかった俺に、そんな努力ができるだろうか。





いや、出来るか出来ないかなど関係ない!

そんな下らないことを気にして、行動に移すことが出来ない方が問題だ!

出来るか出来ないかなんて、やってみなければ分からない!

出来なかったときにどうするかは、出来なかったときに考える!

せっかく異世界に転生したというのに、何故初めから諦めることを考えて居るんだ!馬鹿か俺は!

幸いにも、俺には著者としてのこの世界への知識と大学院時代で培った忍耐力がある!



やってやる...!

ここからできる限りの努力をして、グレース剣魔学園に入学できるような人間になってみせる!



かくして、俺はグレース剣魔学園への入学を目指すことにした!!!




...の、だが。

転生してからずっと気になっていることが一つだけある。

そもそも————



"アルト"って一体誰だ?

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