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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第1章 光の導き手
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第8話 心の意思

 ユウトがレンの忠告を無視し、鍛錬を始めてから三日が経った頃、修練場には三人の姿があった。


 勉強をしながらこっそり鍛錬をしている事がバレて、全力で惚けているユウト。


 ユウトに忠告を無視され、かなり不服そうなレン。


 そしてレンの背後にいるヒナは、何故か山盛りの野菜を抱えてニコニコしている。


 レンは背後のヒナに少しだけ視線を向けた後、ユウトに鋭い眼光を向ける。


「背後の野菜姫はさておき……ユウト、君は僕の忠告を聞いていなかったみたいだね」


 背後から『美味しい野菜が出来たので食べませんか?』と野菜の押し売りをしてくるヒナを華麗に無視しユウトとの話を続ける。


 (さっき背後に付いて来ていた時には持っていなかったのに、何処から出したんだろう?)


「確かに三日間で、僕の想像していた以上の成長をしているみたいだね……誰かに教えて貰っていたのかな」


 レンはユウトから伝わる雰囲気が、依然と比べ物にならない程変化していること、修練場の様子からユウトの成長を推測した。


 (ユカリの創り出した、壊れることのない壁に少し傷が付いている)


 レンは先程修練場に入ってきた時に、視界に入った傷のついた壁を見た。


 ユカリの創り出した壁は、傷が付いても数秒で元に戻るにも関わらず、ユウトが付けたであろう傷の修復には数分の時間がかかっていた。


 その現状から、ユウトが修復に時間が掛かる程の大きな損傷を与えたのだろうと考えた。


 (どれ程強くなっても、実験で創り出された彼を見た時の失望感がまだ拭い切れていない……それなら)


「……ユウト、僕に君を信用させて欲しい。例えどれ程の力を身に付けても今のままでは、僕は君の事を完全に信用する事は出来ない」


 現在のユウトがどれ程成長したのかを知る為に、ユウトに向けて手合わせを志願した。


「僕に今の君の全力を見せて欲しい。もし僕の予想を超える力を君が持っているとしたら、恐らくカイと一緒にいた男と戦う事になるだろう」


 カイと共にいた男を思い出したレンは、拳を強く握り締めた。


 光の戦力で、最も力を持つユカリがカイと戦う事が必然となる現状で、二番目に強いと考えられる男と戦う人物はユカリの次に強い人物になると予想出来た。


「完全に不意を突かれたとは言え、僕とヒナを倒した相手だ、生半可な実力で戦える相手じゃないだろう」


 仮にも主力と呼ばれていた二人を倒した男は、右腕だったカイに近い実力を有していると考えられた。


 主力級の人物と戦える存在になったかを判断する為に、レンはユウトに近づき拳を突き出した。


「ユウト、君の力で僕を……仲間を信用させて見せてくれ!」


 ユウトは何も言わず振り返り、レンから距離を取るように歩み始めた。


「ああ、見せてやる。俺がユカリの為に身につけた……この力を!」


 以前のユウトのぎこちなさは殆ど無く、一定の距離を取ったユウトはくるりと振り返ると、レンに向けて拳を突き出しながら力強く返答をした。


「怪我したら私が治してあげますからね〜」


 ヒナはそう言いながらレンの背後から距離を取り、離れた場所で属性を使いじゃぶじゃぶと音を立てて野菜を洗い始めた。


 (ははは……全くヒナは、相変わらずだね)


 いつも通りのヒナを横目に、レンはユウトの方を向いて身構えた。


 レンが右手を握ると、紅蓮の炎が渦を巻くように纏わり始めた。


「さぁ、行くよ!ユウト!」


 レンは一気にユウトとの距離を詰めると、ユウトを炎を纏った拳で殴りつけた。


 パキィィィィン


 放たれた拳は、ユウトに届く前に雪の結晶の形をした半透明な盾に阻まれ甲高い音を立てた。


 (くっ!ユカリと同じ盾を創造したのか!)


 レンが盾に阻まれた瞬間、ユウトは盾越しに次の創造を始めていた。


 (創造するのは……炎を纏っていないレンの拳!)


 ユウトが創造すると、レンが拳に纏わせていた炎は一瞬で半透明な結晶へと変化した。


「なっ!これは!」


 レンが自分の身に起きた事を確認する前に、ユウトの拳がレンの腹部に直撃した。


「がはっ!」


 レンは後方に吹き飛び、壁に勢い良く激突すると修練場内に轟音が響き渡った。


 (ぐっ!そ、そういう事か……)


 レンの拳についていた結晶は、先程の衝撃で砕けると内側にレンが纏っていた炎が揺らめいていた。


 拳に付着した結晶は炎を覆う様に生成され、属性の効果を無力化していたのだ。


 (成る程……確かにこれなら属性の効果は意味を失う、けど……これなら!)


 修練場に着地したレンは、再び右手に炎を纏わせると再度ユウトとの距離を縮めた。


「確かに効果を無効化する事は出来るだろう……だけど、それだけだよっ!」


 レンは先程と同様にユウトを攻撃するとユウトは同じ様に結晶の盾を生み出して防御すると、続けてレンの属性を結晶化させて無効化した。


「その戦法に、二度目は無いよ!」


 レンは素早くユウトの正面から右側に避け、盾を防御範囲から外れるとそのまま前進しユウトに接近すると、結晶の付いたままの右拳でユウトを殴り飛ばした。


「ぐはっ!」


 拳を顔面に受けたユウトは、レンと同様に左後方へと吹き飛んだ。


 (ぐっ!このままだと壁にぶつかる!)


 ユウトは吹き飛びながら、次の創造を開始した。


 (創造するのは!衝突の衝撃を吸収する球体!)


 すると激突する筈の壁に透明な球体が現れ、ユウトはその球体に受け止められた後、何事もなかったかのように立ち上がった。


「レンっ!」


 立ち上がったユウトは、突然レンに向かって叫んだ。


「もうすぐユカリの回復が終わる気がする……確証は無いが、そんな気がするんだ。時間が無い……次で終わりにする!」


 不思議な事を口にしたユウトだったが、その表情は真剣そのものだった。


 (もしかしたらユウトは、ユカリの状況を察知する事が出来るのか?……流石ユカリと同じ存在ってだけはあるね)


「それもそうだね。これからの戦いに備える時間も欲しいし……次の一撃で君の力を見極めるしよう!」


 そう告げたレンの周囲には、突如荒々しく燃える紅蓮の炎が漂い始めた。


 その炎は先程と違い、ゆっくりと両腕に纏わり付くと周囲に漂っていた炎が、一気にレンに集まり両腕は今まで以上に紅く炎上し始めた。


「これが資料に載っていた主力の力……息をすると喉が火傷しそうな程の暑さだ」


 レンが全身に炎を纏っている姿から自然と言葉を漏らしたユウトは、流れてくる熱風を感じながら鍛錬の成果である創造を始めた。


 (レン……お前に見せてやる。俺に出来る……今の全力を!)


 その時、ユウトの右腕に結晶によって少しずつ何かが形成され始めた。


 (あれが……ユウトの全力)


 ユウトは自分の拳に、グローブのように半透明な結晶を纏い、膝から先は後部に少し突き出た竜の爪のような形になっていた。


 (竜の爪のように見える部分の中央にあるのは、炎の塊か?それに……両腕ではなく右腕だけに創造したのか)


「行くぞレンっ!俺の全力を、その目で見定めろ!」


 ユウトの周囲には、レンとは対照的に冷たい冷気が広がり修練場の床にパキパキと音を立て沢山の小さな氷の柱を創り出していた。


「さぁ来なよ!そして僕に……仲間に証明して見せろ!ユカリの心の強さ……いや……ユウト、君の意志の強さを!」


 レンの言葉を最後にユウトとレンは、同時に力強く地面を蹴り飛んだ。


「俺の!」


「僕の!」


「「全力を喰らえ!!」」


 両者の拳がぶつかり合った瞬間、修練場内に衝撃波と共に轟音が響き渡った。


 (二人共、室内で本気出し過ぎです)


 ヒナは離れた場所から、飛ばされないように二人を見守っていた。


 両者の拳は、互いに動く事は無く二人の力は拮抗しているかに思われた。


「これで……終わりだっ!」


 ユウトがそう叫ぶと、創り出されたグローブに付いた竜の爪がある部分が突如赤く発光した。


加速する結晶拳アクセレイト・リフィスト


 すると目の前にいた筈のユウトは忽然と姿を消し、レンの拳は勢い良く空振りした。


「なっ!」


 レンは、突然目の前から消えたユウトの姿を探し始めた次の瞬間、レンは顔面の激痛と共に後方へと吹き飛ばされ修練場の壁に減り込んだ。


「………がはぁっ………!」


 壊れる筈の壁には、レンが激突した衝撃によって大きなクレーターが出来ていた。


 (な、何が起きたって言うんだ——)


 突然起こった出来事に思考を巡らせる前に、レンは衝撃によって意識を失った。


 どさっ、という音と共にレンが地面に落下すると、ユウトは急いで拳の武装を解除してレンに駆け寄り手を翳した。


 (創造するのは、傷付いていないレン!)


 ユウトが創造すると、意識を失っていたレンの傷が徐々に回復し、数秒後には完全に傷が無くなっていた。


「ユウトもユカリと同じ事が出来るんですね」


 ヒナは傷付いたレンを回復する為に、野菜も持たずに急いで駆け寄って来た。


「………うっ!あれ……僕は、一体」


 傷を手当した直後、気を失っていたレンが意識を取り戻し、先程自身に起きた事を思い出していた。


「ユウト……最後のあの技、竜の爪の中央にあった炎の塊が鍵なんだろう?」


「あぁ、その通りだ」


 ユウトはこくりと頷くと、再び結晶のグローブを創り出すと竜の爪がある部分を見せながら説明を始めた。


「この爪がある部分の中央にある炎の塊を、任意のタイミングで結晶で覆った後、中心にある炎を膨張させて破裂寸前まで溜める事が出来るんだ。そして結晶の一部に穴を開け、膨張した炎を放出する事で自由に調整する事が出来るんだ」


 レンはユウトの説明を聞くと、納得したように笑みを浮かべた。


「成る程……それであの時、一瞬でユウトの姿を見失ったのか」


「速度は穴の開け具合で調整して、速度を上げるタイミングや方向は結晶に開いた穴を閉じたり開けたりすれば自由に出来るからな」


 ユウトの説明を聞き終えたレンは、ゆっくり立ち上がりユウトに手を差し出した。


「……ユウト。最初に君と会った時は、実験は失敗したんだと思って絶望していたんだ。でも、やっぱり君はユカリの全てをしっかり受け継いでいた。戦ってみて分かったよ、君の強さとユカリと同じ優しさを」


 レンは戦う前とは、違う優しい目をユウトに向けていた。


「試すような事をしてすまなかったね。でも、これで君の事を心から信頼する事が出来るよ……ありがとうユウト」


 謝罪の言葉を口にしたレンは、ユウトに手を差し出した。


「気にするな。俺だって今出せる全力を確認出来て満足してるからさ」


 優しく微笑んだユウトは、レンから差し出された手を握った。


「ふふっ♪これで本当の意味で私達の仲間になれましたね、ユウト」


 ヒナは、握手を交わしている二人を見て嬉しそうに笑っていた。


「二人共ゆっくり休んでくださいね!ユウトの話ではユカリもそろそろ起きるみたいですから、戦いの準備はしっかりしておかないといけませんからね」


 ヒナの言葉に頷いた二人は、これから来る戦いに備え準備を開始した。

 ご拝読頂きありがとうございます。


 今回は仲間との手合わせがありましたが、ちゃんと表現できていたでしょうか?短めの戦闘でしたが実践は長くなると思いますのでしっかりと表現できるように頑張ります。


 次回 第9話 赤壁の街

 お楽しみに!

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