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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第1章 光の導き手
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第7話 戦力外通告

「……意外と大した事無かった」


 ユカリの創り出した障壁に大穴を開けた少女は、闇色に本紫(ほんむらさき)を含んだ長い髪を揺らし水面を歩きながら幻滅したように溜息を吐いた。


「お前とあいつじゃ、力の差があり過ぎるからだろ?」


 隣にいた漆黒の髪の男は、腕を組みながら次々と障壁内に入っていく闇の人間達を横目に少女に告げた。


「……」


 (障壁を溶かした時、微かに違和感があった……私の〝日常〟を壊したあの女と同じ〝世界最強〟と呼ばれる導き手が、この程度なの?)


 違和感を感じた少女は、男の言葉に返答する事なく障壁内に侵入していく闇の人間達を見つめていた。


 男の隣には、深い海のような長い青髪を左右にまとめた少女が顔色一つ変えず無言でその光景を眺めていた。


 三人とも光の人間達とは違い、黒を基調とした隊服に身を包んでいた。


「まぁ……俺達が楽しむのは、もう少し後で良いだろ?今やってもつまんねぇしな。後の事は雑魚共に任せとけよ?これでくたばるようならその程度の野郎共だったってだけだからな」


 男の言葉に、大穴を開けた少女は無言のままこくりと頷いた。


「楽しみ。光で一番強い人間と、本気で殺し合える日が」


 少女達は自己修復されていく障壁を背に、突然出現した黒い渦の中へと姿を消した。


―*―*―*―*―


「さてと、この中の掃除はお前の仕事だ……どんだけ汚しても構わないから好きにやれ」


 日本の東北部に存在するルクスに転移したカイは、ルクス内にいるであろう人々の始末を男に向けて手を揺らしながら告げた。


「やっと身体を動かせんのかよっ!待ちくたびれたぜ!」


 ポキポキと拳を鳴らし、男はルクス内の人間を探し始めた。


 (人の声も気配も感じない。それにさっき使った転移エリアが完全に停止している……なるほど、やってくれるなあいつらも)


 ルクス周辺の状況を確認し、笑みを浮かべたカイは〝既に無人だった〟ルクス内に歩みを進めた。


 その数時間後、光拠点だった東拠点ルクスは、障壁外から侵入した闇の人間達も加わり、完全なる闇の拠点となった。


「さぁどこからでも来い!……ユカリっ!」


 カイはルクス最上階で、これから来る戦いに期待を膨らませていた。


―*―*―*―*―


 (どれだけの時間が経ったでしょうか……身体が少しずつ動かせるようになってくる程には、時間が過ぎてしまいましたね)


 座り込み属性の回復を行なっていたユカリは、ゆっくりと立ち上がり今までに起きた事を頭の中で整理した後、これから先にすべき事を考え背後に座り込むユウトに身体を向けた。


「ユウト……すみません。貴方には私から教えたい事が沢山あったんですが……私にも時間が限られているようなので、私達の戦いが終わるまでの間はルミナで勉強をしていて下さい。教師は、隊員の誰かにお願いしておきますから」


 ユカリがゆっくりと立ち上がり、誰かを呼びに行こうと実験場入り口へ向かおう歩き始めた瞬間、実験場の扉が勢い良く開かれた。


「ユカリっ!大丈夫ですか!」


 そこには血相を変え、実験場へ全速力で駆け込んで来たヒナの姿があった。


「ヒナ、貴方の方こそ無事で良かった。一緒に作戦会議室に向かったレンの姿が見えませんが……レンは無事なんですか?」


「はいっ!私の属性の力で治癒して、今は医務室で休んでいますよ」


 ヒナの言葉にユカリは安堵すると、ユウトに視線を向けた。


「すみませんヒナ。ユウトに言葉を教えて貰えませんか?私は……カイとの戦いに向けて体力の回復をします。数日は治癒室から出て来れないかもしれないので」


 拠点内には、医務室と治癒室が存在する。


 医務室は軽傷の患者に対する治癒を行なう為の部屋で、治癒を担当する隊員達はヒナを筆頭とした医療班が管理している。


 治癒室は重傷の患者に対して早急な治癒を行う為の部屋で、何個か設置された回復結晶と呼ばれる人一人分の大きさの結晶内に患者を入れる事で、損傷部分が創造され急速に回復させる事が出来る。


 限定的ではあるが、ユカリが回復結晶に入ると創造物に使用した属性量を数分おきに回復する事が出来る。


「任せてください!ユカリは実験で力を全て使ったんですから、しっかり休んで体力を回復させて下さいね!」


 ヒナは笑顔でそう言うと、ユウトに歩み寄り身を屈めると『これからよろしくお願いしますね!ユウト!』と言って手を差し出した。


 最初は戸惑っていたユウトだったが、ヒナの笑顔に安心したのか、ゆっくりと手を伸ばし差し出されたヒナの手を握った。


 ユカリはユウトの事をヒナに任せ、ゆっくりと治癒室に向かった。


―*―*―*―*―


「これは……凄いですね」


 ルクス内にある資料室で、ユウトに勉強を教えていたヒナはユウトの驚異的な成長に驚愕していた。


 (言葉の意味をまだしっかり理解出来ていないのに、ここまで会話できるようになるなんて……びっくりです)


 数十分前までは、言葉すら喋れなかったユウトが多少教えただけで、殆ど会話に支障が出ない程に成長していた。


「う〜ん……ユウト。本格的な勉強をする前に、治癒室に向かったユカリの様子を見て来ても良いですか?」


 (カイの事で、もしかしたら休まずに鍛錬しているかもしれませんからね)


 ヒナの問い掛けに対し、迷う事なく頷いたユウトに笑みを溢したヒナは、立ち上がると数冊の本を戻した後に資料室の扉を開けた。


「ユウトはここでお勉強してて下さい!すぐに戻りますから」


 ヒナはそう言い残して、ユカリのいる治癒室へと向かった。


 ユウトはヒナに言われた通り、手に持っていた国語の教科書を使って勉強を再開しようとした時、資料室のドアが開き銀髪の男性がこちらに向かって歩み寄って来た。


 ユウトは資料室に入って来た男性を認識すると、ゆっくりと椅子から立ち上がりその男性を見つめた始めた。


 (なるほど確かに驚異的な学習能力だ……)


 レンは机の上にあったノートや教科書を見て、ユウトの成長速度を確認した。


 (だが、今の彼はユカリの側にいるべきじゃ無い。どれだけ学習能力が高くても戦闘で身体が動かず、まともに属性も扱えないようでは話にならない。敵がカイだと分かった現状で、ユカリの足枷になる彼をユカリから遠ざける必要がある……そうすれば彼自身を危険から遠ざける事も出来る)


「初めましてだね。僕は光の主力の一人で、レンって言うんだ。君がユウトだね、よろしく」


 レンはそう言うとユウトに手を差し出した。


「よ、よろしくお願い……します」


 ユウトは、恐る恐る差し出されたレンの手を握った。


「ヒナが帰ってくる前に話しておきたい事がある。単刀直入だがユウト、君はここにいるべきじゃない」


 ユウトはまだはっきりと言葉の意味を理解出来ていない為、最初は茫然とレンの事を見ていたが多少理解出来たのか、最初とは違う真剣な表情に変わった。


「君の学習能力は驚異的だ……このまま時間をかけて勉強して鍛錬も積めば大きな戦力になってくれるだろう。だけど、今の君ではユカリの力になるどころか重荷にしかならない」


 ユウトは真剣な表情で、レンの話を無言で聞き続けた。


「これから来る戦いは、強大な戦力となった闇の人間達と戦う事になるだろう。ここにいては君自身が危険な上、君がいたら僕らの足手まといになるだけだ……厳しい事を言うようだけど、強くなる素質があっても今の君はユカリの足枷でしかない」


 その言葉を聞いたユウトは、自分の心にひびが入ったような衝撃が走った。


 (よく分からない言葉だけど……何だろう、この気持ち……辛い?悲しい?)


「今すぐに、とは言わない。学習を続けて僕の言葉の意味が理解出来てから、他国に避難すると良い……今は日本にいるよりも、海を渡った方が安全だからね」


 そう告げたレンは、足早に資料室から立ち去った。


 レンが立ち去った後ユウトは資料室を後にし、ある場所へと向かった。


 理解出来ない言葉の中で、ユウトの心を突き動かす言葉があったからだ。


「お……れはユカリの………『俺』は、ユカリの足手まといになりたくない!」


 そう口にしたユウトは、早々にレンの忠告を無視すると身体の動きや属性の使用方法を身に付けるためにルクス内にある修練場へ向かった。


 修練場への場所を、通りすがりの橙色の髪の少女に聞いて。


―*―*―*―*―


「お待たせしましたユウト!ついでに美味しい野菜を持ってきたので一緒に食べましょう!……って、あれ?ユウト?……どこにいったんでしょう?」


 数分後、既に無人となっていた資料室にヒナが戻ってきた。


 ヒナは机の上を確認したが、ユウトが先程まで勉強していた形跡は残っていたが、先程資料室を出る前のページから全く進んだいない事に疑問を抱いた。


 (確かに今なら走ったり歩いたり出来るとは思いますが……部屋を出る理由が分からないです……御手洗いですかね?)


 ヒナはユウトが御手洗いに行っているのだと勘違いし、持ってきた野菜達を料理人達に預ける為、調理部屋に向かった。


―*―*―*―*―


 ヒナが調理部屋へと向かっている頃、修練場に到着したユウトは早速鍛錬を始めた。


 (どうすれば戦えるのかは知らないけど、取り敢えず……なんでも試して見るしかない!)


 ユウトはゆっくりと両手を前に出して、目を閉じた。


 (〝創造〟する物は——)

 御拝読頂きありがとうございます。


 7話までは、ほとんど会話がメインでしたが、8話からは戦闘もあると思います。


 次回 第8話 心の意思

 お楽しみに!

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