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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第2章 紡がれる希望
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第4話 堕ちた頂き

 アメリカ中央拠点クレイドル 南部


「コイツらの相手は僕がする。だから君は早く転移エリアへ向かうんだっ!」


 レンは自身の身体で、その場に座り込むフィリアの身を隠しながら声を上げた。


「そんな……貴方には待っている人がいます!私はもう……好きだった人との未練を断っています……だから私が!」


 フィリアは身体を震わせ目に涙を浮かべながらも、必死に自身を庇おうとするレンに訴えた。


「僕はねフィリア。好きな人を一途に想う女の子を犠牲に生き残ろうとする様な男にはなりたくないんだ。君には未来がきっとある……ユカリにこの状況を伝えるまでは、二人とも死ぬ訳にはいかないっ!」


 レンはフィリアと視線を合わせる事無く、自身の胸の内を訴えた。


「レン…………分かりました。私が救援を呼んできます……すぐに救援を呼んで来ますから、それまで……必ず生きていて下さい」


 フィリアは身を隠しながら、静かに立ち上がった。


「はは……それは約束出来ないな」


 レンは視線の先で増え続ける存在を確認しながら自身の未来を悟り、苦笑いを浮かべながら応えた。


「約束です!!」


 弱気だったレンに、フィリアは強い口調で再び伝えた。


「……分かった、約束するよ」


 互いに頷いた後、フィリアが転移エリアへと駆ける姿に目を向ける事は出来なかった。


 レンが見つめる視線の先には、同じ容姿の女性が空中に浮遊している状態で絶えず出現し続けていた。


 (あの巨大な武器から放たれる攻撃は……まともに喰らえば一撃だろうね)


 女性の横で六つ浮遊している白色の巨大な銃身は、全てがレンに向けられていた。


 その巨大な銃口からは、眩い光を放った赤黒い雷が走っていた。


 (悔いは無い……いや、あるとすれば……一つだけ)


―*―*―*―*―


 一時間前


 アメリカ中央拠点クレイドル 北部


「……避難の遅れた人は、いないようですね」


 静まり返ったビル群の中、生物反応を感知できる機械を手に持ったクライフは、北部に居住している住民が避難出来ている事を確認していた。


 (ユカリに依頼して稼働する避難施設を〝地下〟に設けたのは正解でした)


 アメリカに設置された避難施設は、ヨハネの襲来に備え地下に設けられていた。


 ヨハネの斬撃が施設に迫った際には、周囲に張り巡らされた感知装置が働き、地下に複数設けられた転移空間に自動で転移する事によって斬撃を避ける事が出来る。


 (敵がヨハネだけどは限らない……ケフィが考えた敵の侵入経路は二つ)


 作戦指揮を託されているケフィの考えは二つあった。


 一つは南部からの侵攻。


 アメリカ南部近辺には危険区域に指定されている場所がある。


 過去の主力達が安全確保の為に区域内に侵入した際、殆どの人間が命を落とした記録が残され近づく事が困難となっている区域の総称だ。


 危険区域は世界各地に点在しており、ユカリの両親が亡くなった〝白壁の街ヴァイス〟も同様に、危険区域に指定された。


 危険区域には闇の人間だけでなく災禍領域(カタストロ・フィード)が発生する危険性があり、三年程前から光の人間が立ち入らなくなった場所。


 ケフィは危険区域から攻め入る可能性があると予想を立て、日本の主力であるレンとフィリアに避難民の確認を依頼した。


 もう一つは北部からの強襲。


 北部に危険区域は存在しないが、一人で国を滅ぼす力を有しているヨハネは、南部を弱い闇の人間を多人数送り込み単身北部から侵攻する可能性が高いと考え、アメリカ最強であるクライフに依頼。


 そしてクレイドルのある中部の守備をアンリエッタが担当し、クレイドル内をケフィが担当する事になった。


 (司令塔のケフィに、クレイドル内の防衛が適任なのは分かりますが……外に出ない理由づけなのでは?)


 クライフは中部側に視線を向けた。


 (ファイス様が来るまでは、私がこの国を護らなくてはならない。もし、ヨハネと相対する事になろうとも……私が打ち勝たなければならない)


「死すらも恐れず、己が道を歩むファイス様と同じ(みち)を進むには……超えなければならない……闇へ堕ち〝最強〟を捨てた、あの女を」


 その瞬間、クライフは背後から強い殺気を感じ振り向いた。


「クライフ……今のお前は〝不屍人(しにぞこない)〟なんかを追いかけているのか?」


 声が聞こえるにつれクライフの数メートル先に黒い渦が広がり始めた。


「やはり、闇に堕ちてしまった私ではお前の模範(もはん)になる事は出来ないんだな……」


 黒い渦が徐々に後退していき、中から姿を現したのは女性は、腰まで伸びた紅蓮の髪を揺らし緑色の瞳でクライフを(さび)しげに見つめていた。


「ヨハネ様……いや……ヨハネ!」


 クライフは携えていた白色の剣を両手で握りしめ叫んだ。


「ヨハネ……それが私の名前か?」


 黒い渦が完全に消滅し、全身を露わにしたヨハネは周囲に目を向ける事なくクライフに視線を合わせ続けていた。


 (記憶がない……記憶を失う事は基本的に開花後も転生後もない筈……まさか属性開花の影響で?)


 属性開花前の人間が闇の人間になったとしても、本来は記憶を失う事はない。


 しかし闇の人間の中には開花前の記憶を殆ど失った人間がいたという前例があり、ヨハネもその一人であった。


 ヨハネの場合は、自身に対しての記憶を失い他者に対しての記憶は残されている異質な状態だった。


「クライフ……不屍人(しにぞこない)は今どこにいる?」


 クライフは両手で握りしめた剣を恐怖で震わせながらもヨハネを睨みつけた。


「今の貴方に、教える必要はありません」


 その姿を見たヨハネは小さく息を()いた。


「そうか……私に刃を向けるのか?」


 ヨハネは自身よりも大きい(くれない)大刀(だいとう)を右手のみで持ち上げ、剣先をクライフへと向けた。


「力の差を理解する事が無駄に思える程……勝機が無いと分かっている筈だ」


 ヨハネは大刀(だいとう)を向けたまま目を細め、クライフを威圧した。


「今の私はこの国で最強を背負った人間です。最強の背中を追う過去の私とは違う……今の私は(おのれ)(ちか)いの為だけで無く、私を信じる幾億もの祈念(きねん)(かて)に……私は戦う」


 自身の想いを口にした事で意志を強く持ったクライフの腕の震えは止まり、力強い瞳でヨハネを見つめていた。


「そうか……分かった」


 先程まで属性を帯びていなかった刃に(かす)かだが、紅黒(あかぐろ)い炎が宿り始めた。


「お前の命は……この私の手で終わらせる」


 瞬間、アメリカ北部全域が〝赤黒い障壁〟に覆われた。


―*―*―*―*―


 アメリカ中央拠点クレイドル支援部隊本部


「ん?」


 ケフィは先程まで確認出来ていた北部の映像が遮断された事に気が付いた。


「北部からの通信が完全に遮断された?」


 (この遮断方法……日本の防衛方法に似ている気が)


 ケフィが付近の監視カメラを操作し確認を行うと、日本を覆っている障壁よりも黒く濁った色をした障壁に覆われていた事を認識した。


「総長!北部からの通信が遮断されています!げ、原因はまだ不明ですが」


 北部の監視を担当していた女性がケフィに近づき報告し始めた。


「落ち着いて下さい。私も今確認しましたが、日本と同様に障壁に覆われた事で通信が遮断されている様です」


 ケフィがちゃんと作業をしている事に安心した女性は小さく息を吐くと、ケフィが表示していたモニターに目を向けた。


「日本の障壁に比べると不気味な程に赤黒いですね」


 女性の言葉にケフィは小さく頷いた。


「はい。この障壁はユカリではなく敵による物……だと思うのですが」


 (ユカリの障壁と同様の障壁を創り出す事なんて不可能な筈……どうやって)


「貴方は一先(ひとま)ず障壁外から北部の様子を監視カメラで確認し続けて下さい。中にはクライフがいる筈なのでクライフに向けた通信も継続して下さい……可能性は薄いですが、繋がる可能性もあるので」


「分かりました」


 女性は頷くと自身の席に戻り監視カメラへの再接続とクライフとの通信確認を続行した。


 再び画面に視線を向けようとした時、アンリエッタから連絡が入った。


「どうしたアンリ、北部の異変なら今確認したけど?……アンリ?」


 アンリエッタの反応が全くなかった事に違和感を感じ、ケフィは再度名前を呼んだみた。


「ごめんケフィ。北部の異変にも気付いたんだけど……私の目の前にも大量に、変なそっくりさんズが現れ始めたんだけど」


 その言葉を聞いたケフィがアンリエッタの周囲を浮遊していた監視カメラを確認すると、空中に複数発生した黒い渦の中から黄金色(こがねいろ)の髪と紅掛空色(べにかけそらいろ)の瞳をした女性が次々と出現していた。


 浮遊している女性の周囲には、白色の巨大な銃身が六つ浮かんだ状態で一定の位置を維持していた。


「ケフィ……この数相手に銃一丁じゃ足りない……〝特殊武装〟を使っても良い?」


「……何でそんなこと聞くんだ?こんな時なんだから別に良いんじゃね?」


 あまり意味を感じない質問を聞かれたケフィは、数秒間を間を開けた後アンリエッタの質問に答えた。


「だって……前に使った時はクライフに怒られたから」


「あ〜」


 アンリエッタは打たれ弱く、怒られる事が苦手な為に以前怒られた事を気にしていた。


「……気にすんな、怒られる時は俺も一緒に怒られるから」


「うん……ケフィが二人分怒られて」


「なんでだよ!……ファイスが来るまで防衛が厳しそうなら連絡しろよ?私も加勢しに行くから」


「え〜引き()もりは頼りない〜日本の主力達呼んで〜」


「は?引き篭もりを舐めんじゃねえ!……ちゃんと助けは求めろよ?」


「分かった」


 アンリエッタとの通話が切られると、ケフィは南部を浮遊している監視カメラに接続を始めた。


 (アンリはいつも通りだな)


 先程のやり取りを思い返し、ケフィは少しだけ笑みを溢した。


 (日本の主力達は南部にいる筈だったよな)


 ケフィは監視カメラの映像を中部から南部へと切り替える作業と同時に再度ユカリへの救援要請(きゅうえんようせい)とファイスへの連絡を続けた。


―*―*―*―*―


「……まさか、突然現れるとは思わなかったよ」


 幾多(いくた)の攻撃を避け、建物の影に身を(ひそ)めたレンは避けきれずに失った片腕を見つめながら(つぶや)いた。


「フィリアは、ちゃんと転移する事が出来たかな?」


 そう口にしたレンは、耳に付けていた通信機に手を当てた。


 (()いがあるとすれば……君に伝えていない事だ……僕の想いを)


「急で悪いね……変わって欲しい人がいるんだ」


 通信機から聞こえる声にレンは耳を(かたむ)けた。


―*―*―*―*―


「ありがとう」


 通話を終了させたレンは、建物に背中を預ける様にもたれ掛かった。


「返事は……聞くんじゃなかったかな」


 空を見上げたレンの目からは一筋の涙が(こぼ)れた。


「後悔はない……でも……」


 力なく座り込んだレンの目からは、涙が(あふ)れ出ていた。


「残っているのは……君への未練(みれん)ばっかりだ」


 (でも……伝えられて良かった…… 〝ユウキ〟……君の事が好きだって)


―*―*―*―*―


 ケフィが監視カメラで確認した場所には溶けて千切れた鎖と、それに付けられていた〝結晶で出来たギメルリング〟が残されていた。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回のお話はクライフvsヨハネが開始し、それ以外の場所でも闇の戦力が行動を始めるまでの物語でした。


 次回はヨハネとクライフとの戦いが始まり……。


 Twitterにて登場人物についての説明を画像を使いながら行なっていきます。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第5話 世界最強

 お楽しみに!

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