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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第1章 光の導き手
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第51話 捻じ曲げられた日常

 私の両親は、転生者だった……らしい。


 〝転生者狩り〟


 闇の人間として転生した光の人間は、闇の雑魚以下の力しか持っておらず抵抗の術が無い。


 転生前に比べて、遥かに劣る自分の属性を目の当たりにした転生者の多くは、自ら命を断つ選択を選ぶ人が大半だった。


 私の両親は、そんな残酷な未来しか無い転生者で在りながら命を断つ選択をせず、無様であろうとも地べたを這って抗った。


 そして転生から数年後に運命的な出会いをした二人は、未来の希望として私を産んだらしい。


 私がその事実を知ったのは、〝あの人〟がイタリアの光拠点視察から帰って来た時。


「主力と呼ばれた奴らの方が、転生したらサンドバッグに丁度良いぐらいの弱さになる。転生した所で未来も無いくせに子供なんぞ身籠って、俺に研究材料を遺して死に晒した馬鹿な奴らもいたが……その残火も今ではただの死体量産機だ」


 私は、独り言の様にボヤいていた話から私の事だと理解した。


 記憶に無い話を聞いた私は、そんな惨めな生き物もいるんだなと思った。


 そんな私は、物心付いた頃には既にあの人の研究室にいた。


 ここがどこなのか、そんな事は考えた事すら無かった。


 最初がどうだったかは知らないけれど、〝あの子〟はその時から居たんだと思う。


 私の生活は普通の人と変わらない、朝起きたらあの人が用意した料理を食べて外に出る。


 研究所内にいると気が散ると言われて以来、夕方頃までは戻らない様に意識していた。


 周辺に広がる木々に括られた〝サンドバッグ〟が原型を留めない程度に殴り潰し、刀で斬り落とした部位の血が飛び散る方角で、一日の運勢を占っていた。


 今になって思うけど、刀を振る向きで飛び散る方角なんてある程度限定されるから、当てにならない占いだったなと思う。


 一日に一度は、必ず光の人間同士の殺し合いを眺める事にしていた。


 私の属性とは関係ない能力?〝存在操作〟で人を強制的に動かし、生まれ育った村を襲わせたりした。


 村を襲わせてる間に死んだら、私が尻拭いしないといけないのは面倒だけど。


 そんな毎日を送っていたある日、私の日常を大きく捻じ曲げる出来事があった。


「……?」


 あの人が〝ロシアに戻る〟と書き置きを遺して姿を消した。


 前日までは残っていた研究所内の物は、影も形も無くなっていた。


 前から定期的にロシアという国に行っていたから、特に驚きも無かったけど。


 全ての物が無くなっていたのは初めてだった。


 何一つ無い研究所に違和感を感じたまま、私は村潰しへと向かった。


 日が沈み始めた頃、研究所への帰路に着いた私は、研究所付近が夕陽とは異なる光り方をしていた。


 その赤い光に違和感を感じた私は、光の元へと走り出した。


―*―*―*―*―


 腰に携えた刀を揺らしながら森林を駆け抜けた私の目に映った物は、紅蓮の炎に包まれた研究所が、炭となって崩れ始める程に焼けている姿だった。


「そんな……私の……あの人の大切な研究所が」


 私は、ただ呆然と崩れ始める研究所を見続けていた。


 そんな時、燃え盛る研究所内から一人の女が姿を現した。


 その女は白い軍服に身を包み、金色のツインテールを揺らし、私の存在なんて眼中に無いかの様に森林に向かって歩き始めた。


「ここに黒フードの男は居なかった……〝クライフ〟に無断で確認に来たのに、無駄骨だった」


 この女が、私が街を潰しに行っていた間にあの人の大切な研究所やサンドバッグを奪った事を知った私は、女に向けて駆け出していた。


「よくも……私の日常を……あの人の帰る場所を返せっ!!」


 感情のままに腰に差していた刀を引き抜き、女に向けて斬り裂いた……筈だった。


 女の斬り裂かれた部分から〝緑色の炎〟が発火し、傷は跡形も無く消え失せていた。


「木に括り付けてあった闇堕ちした人は、私が全員介錯した……それが私に出来る最善だったから」


 そう言い残し、女は燃え盛る研究所を他所に森林の中へと消えて行った。


 変化の無い人生を送る筈だったあの日、私の中に初めて怒りの感情が生まれた。


 なのに私は、追いかける事が出来なかった……動けなかった。


 怒りの感情で一杯の筈なのに、私の身体は女を追う事を拒否していた。


 斬り裂き続けても顔色一つ変えないあの女には、到底敵わないと直感した。


 初めての感覚に戸惑いを憶えつつも、私は女が消えて行った森林を静かに見つめ続けた。


「次は怖気ない……必ず償わさせてやる!!」 


―*―*―*―*―


 階段を上がり終え、再び私の前に立った貴方を踏み越えて、あの女にこの感情をぶつける。


「……待ってた……ずっと昔から、この時を」


 私は抑えていた自身の力を、全て目の前に立つ少年に向けて解放した。


「限界まで強くなって……でないと、私の踏み台にはなれないよ?」


 あの〝世界最強〟の女と同等の力……壊す……殺す……全ては、外れてしまった歯車を戻す為に。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回は闇のボスの過去についての物語でした。


 次回は闇のボス戦前に待ちくたびれた〝一人の男〟がユウトの前に現れます。


 Twitterにて登場人物のイラストを作成してますので是非!

 ゴシック@S.kononai


 次回 51.5話 黒フードの男

 お楽しみに!

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