第4話 動き始めた運命
三人が実験場に転移すると既に、四人目の主力の男性が実験室内で待機していた。
「あれ?三人揃って登場とは、俺だけ仲間外れだったのかよ。まぁそれはさておきユカリ、新人さんの説明お疲れ様!この実験が終わったら皆で野菜パーティなんだろ?楽しみだな!」
レンと同じ男性用の白い隊服を着た黒髪に紅蓮が入り混じった髪をした男性は、闇色の瞳を向け笑いながら実験が終わった後の話を始めた。
「カイ……ヒナの野菜はまだ調理して無いんですから、終わってすぐにパーティは無理ですよ?」
ユカリの属性によって料理や端末等を基本的には自由に得られる現代だが、三年程の月日では一般的な生活が殆ど変化する事はなく、ヒナのように農業をする人もいれば、料理をする人、機械の開発、医療等は変わらずに行われている。
「えっ!マジかよ〜」
ユカリの言葉を聞いたカイは、落胆の声を上げながら地に両手をつくように倒れ込んだ。
「で、でも、ユカリが調理してくれるならすぐにパーティを始める事が出来ますね!」
ヒナの一言を聞いたカイは何事もなかったかのように立ち上がり、ユカリに視線を向けた。
「そうだよユカリの属性でサクサクーと創造出来ないか?主力全員で食事なんて久し振りなんだしさ」
満面の笑みを浮かべて懇願するカイを見たレンは溜息を吐き、カイに歩み寄った。
「久し振り……って昨日も実験前夜とか言ってルミナに集まって皆で食事したじゃないか!」
「え?……悪いな、俺は今日の朝飯からの記憶しか持ち合わせていないんだ」
あからさまに記憶喪失のフリをするカイを見たヒナは満面の笑みを浮かべて、何処に仕舞っていたのかと思う程の山盛りの野菜を取り出した。
「記憶が無いなら私が料理を作っても大丈——」
「「それは遠慮させていただきます!」」
言葉の途中で、先程まで言い合いをしていた二人が息ぴったりで全力拒否した。
「私だって料理は出来ますよ?」
「ははは……君の料理を食べれるのはユカリだけだよ」
頬を膨らまし不服そうな顔をしていたヒナに対してレンは間髪入れず即答し、その言葉にカイは力強く頷いた。
ヒナはとても大きく美味しい野菜を育てる事が出来るのだが、料理をすると何故か全ての料理が同じ形状をしており、味が理解不能な何かになってしまう。
ユカリだけはヒナを気遣い、その何かを完食することのできる唯一の人間なのだ。
ヒナがしょんぼりしていると『ヒナの調理してくれた料理は私が全部食べますから』とユカリが伝えた事で機嫌を取り戻した。
「……さて、そろそろ実験を始めないとな。ユカリ準備は良いのか?」
冷静さを取り戻したカイは、先程とは違う真剣な眼差しをユカリ向けた。
ユカリは、一瞬の間を開けて『大丈夫です。始めましょう』と言ってぎこちない笑顔を見せた。
この実験は、ユカリ自身の心を〝一人の人間〟として創り出すという内容だった。
三年前の赤壁の街以降、導き手となったユカリは人の心の奥底に潜む闇が自身にも存在しているのではないかという不安を抱いていた。
自身の心を知る術は無いかと模索していた際、カイの『属性の力で心を具現化する事は出来ないのか』という助言を得たユカリが実験は考案し、準備を進めていた。
ユカリの属性は死者を生き返らせる事や生物を創り出す事は〝殆ど〟不可能に近いが、自身という存在を創り出す事は、他の生物の創造に比べて可能性があるのではないかと考えた。
属性を一定期間使う事が出来なくなるが、闇の人間達の行動が減少している今が好機であると考え、ユカリはこの日を決意した。
「可能性は……皆無に等しい事なのかもしれません。ですが、私が私自身の心を知るにはこの方法が一番確実に知ることの出来る方法なんです。力を失っている間の私は無力ですが、この実験がきっと光にとって良い結果になると信じています」
拳を握りしめ、仲間達に今の気持ちを伝えた。
「そうだな……ユカリがいない間は大変だけど、まぁ右腕かつルクス代表の俺がいるからな。間の事は任せておけって!」
カイは、にこやかに親指を上に立てた拳をユカリに向けた。
「私達もいますからね!」
「そうだね……君が信頼してくれた僕達がいるんだ。心配はいらないよ」
三人の言葉で、先程までユカリの心に残っていた不安はいつの間にか無くなっていた。
「では、行ってきます!」
そう言い残し、ユカリは自身の力で創り出した中の見えない小さな部屋の中に入って行った。
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数分後、三人が部屋の中で目にした存在は、ユカリと同年代くらいの裸の〝少年〟だった。
御拝読頂きありがとうございます。
3話が長過ぎたので、今回は短く感じますが、多分これからはこれくらいの長さになっていくと思います。
Twitterにて登場した人物について画像を使いながら説明します。
ゴシック@S.kononai
次回 第5話 一人の正義
お楽しみに!