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創造した物はこの世に無い物だった  作者: ゴシック@S_kononai
第1章 光の導き手
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第3話 この世に無い物の創造

 基礎的な知識に関して改めて説明を受けたフィリアは、ユカリの先導に従いルミナの中間層に位置する会議室に到着した。


 到着したユカリは説明を始める為に、進行役が使用する机に移動し、説明が聞きやすい最前列の机にフィリアは移動した。


「では、二時限目を始めましょうか」


「よろしくお願いします!」


 二人は自然な振る舞いで、教師と生徒を演じたまま説明が再開された。


―*―*―*―*―


 四つ目は、〝属性〟に関して。


 ある時、人々に属性と呼ばれる力が突如(とつじょ)として開花した。


 当時は扱う事が不可能だとされていた属性だったが、時が経った現在では属性を使用した生活を送る事が当たり前になっていた。


 属性の開花時期は人によって異なるが、最も遅い場合であっても二十歳までに開花する。


 開花時期が早い場合には、生まれた時点で属性が開花していたと言う子どもの実例も存在する。


 血液内で生み出された属性は、人体に影響を及ぼす事なく血液と混ざり合う事で全身を巡る。


 そして現在までに、開花させた事例(じれい)のある属性は全部で六種類しか〝存在していなかった〟。


 核となる属性は、〝炎・水・雷〟の三種類である。


 三種類の属性には、プラスの属性とマイナスの属性が存在する。


 見分(みわ)ける方法として代表的なのは、属性ごとに異なる色による目視である。


 プラス属性の違いは、〝炎属性が赤色〟・〝水属性が青色〟・〝雷属性が黄色〟である事。


 マイナス属性の違いは、〝炎属性が青色〟・〝水属性が緑色〟・〝雷属性が赤色〟である事。


 そして属性には、それぞれ異なった性質を有している。


 プラスの属性は特徴に合った性質を有しており、〝炎属性は燃焼〟・〝水属性は冷却〟・〝雷属性は電撃〟となっている。


 マイナスの属性は、プラス属性と性質が異なる上に特徴に見合(みあ)った効果が発生しない。


 しかしプラス属性の効果を代償に、マイナス属性は特殊な性質を有しており、〝炎属性は攻撃力強化〟・〝雷属性は貫通力強化〟の性質を持っていた。


 そんな中、マイナスの水属性だけは他のマイナス属性のような攻撃的な性質ではなく〝治癒〟の効果を有していた。


―*―*―*―*―


「そうなると、水のマイナス属性を持つ人は戦闘には不向きと言うことなんでしょうか?」


 説明を聞いていたフィリアは、ふと疑問に感じた事をユカリに質問した。


「確かにマイナスの水属性〝のみ〟を開花させた人であればそうかもしれません。ですが属性も道具と同じように使い方次第ですから、一概(いちがい)に戦闘が出来ないと決めつける事は出来ません。それに、開花される属性は一種類とは限りません。私と同じように、属性を〝二種類〟開花させる人もいますからね。フィリア、貴方の属性はなんですか?」


 ユカリに質問されたフィリアは、(てのひら)を上に向けた状態で両手を前に出した。


「私は炎と雷のプラス属性を使う事が出来ますよ」


 フィリアの差し出した右手からは紅蓮(ぐれん)に燃える炎が、左手から黄金(おうごん)の光を放つ雷が小さく発せられていた。


「頂いていた資料通り、フィリアも二種類の属性を開花させていたんですね」


 配属前に資料を記憶していたユカリは、記憶と照らし合わせながらフィリアの発していた属性を確認していた。


―*―*―*―*―


 五つ目は、〝二種類〟の属性開花に関して。


 属性は一種類のみ開花する場合と、二種類が同時に開花する場合がある。


 一般的にはプラス属性を一種類のみ開花させる場合が殆どだが、その中には属性が異なるプラス属性を二種類開花させる者もいる。


 マイナス属性はさらに希少で一種類のみを開花している場合や、同種の属性をプラスとマイナス共に開花させた者もいる。


 その中でも最も事例が少ないのは、二種属共にマイナス属性を開花させた二種属使いである。


 フィリアは、その中ではプラスの二種属使いに該当(がいとう)する。


―*―*―*―*―


「私の二種属はあまり珍しくなかったんですね……」


 少しだけ落ち込んでいるフィリアに対して、ユカリは小さく首を横に振った。


「いいえ、先程説明した様に二種類の属性を使える人は殆どいません。(げん)に、光の〝主力〟の中で二種属使えるのは、私を入れても二人だけですから」


 そう言うとユカリは机から離れ、フィリアの近くに歩み寄った。


「水属性に詳しい人がいるので転移端末の試運転も兼ねて、その人に話を聞きに行ってみましょう。今の時間なら恐らく、地下の人工農場にいる(はず)なので」


 ユカリの言葉に小さく頷いたフィリアは、転移端末を起動させると自分とユカリの二人を対象に使用した。


 その瞬間、二人は白い光に包まれると同時に会議室から地下の人工農場に転移して行った。


―*―*―*―*―


 農場に転移すると、そこには農作業中の二人の姿があった。


「レン!見てください!」


 白い隊服を着たおかっぱの少女は、濡羽色(ぬればいろ)の髪を|揺らしエメラルドのように鮮やかな緑色の瞳を輝かせ、大量の野菜を抱え満面の笑みで目の前にいる男性に語りかけた。


「やっぱりヒナは野菜作るの上手だと思うよ?君の属性で毎日実る野菜は、どれも美味しく立派に育つからね」


 レンと呼ばれた銀色の髪をした男性は、白を基調とする隊服に身を包み紫水晶(むらさきすいしょう)のような紫色の瞳で野菜を見つめ、ヒナが育てる野菜の大きさに感心しながらヒナの作業を手伝っていた。


『でも、料理はユカリに頼もうね』と苦笑いしながら(つぶや)いていた。


「レン、呼びましたか?」


 背後(はいご)からユカリの声が聞こえた二人は、ユカリに向けて同時に視線を向けた。


「あれユカリ?……と後ろにいる子が、今日配属予定の新人さんかな?」


 レンは自身の作業を中断し、フィリアに身体を向けた。


「僕の名前はレン。これからよろしくね」


「は、はいっ!私はフィリアと言います。これからよろしくお願いします」


 二人の〝肩書き〟を事前に把握していたフィリアは、ユカリの時と同じ様に深々とお辞儀をした。


「ははは、まだ緊張しているのかな?すぐには慣れないと思うけど、少なくとも僕らに対しては気軽に接して貰って構わないからね?」


「その通りです!」


 優しく微笑むレンの後ろから、(しゃべ)る野菜?が此方に歩み寄って来た。


「私はヒナって言います!これからルミナの仲間として頑張っていきましょうね!」


 野菜?からの挨拶に困惑しているフィリアを見たレンは、大量の野菜を抱えるヒナの肩を優しく叩いた。


「ヒナ、フィリアには野菜しか見えてないよ?」


 指摘を受けたヒナは、抱えていた野菜を近場に準備してあった大きな竹ざるに、持っていた野菜をそっと置いた。


「私がヒナです!改めて……フィリア、一緒に頑張りましょうね!」


 ヒナはそう言って太陽のように明るい笑顔をフィリアに向けた。


 (この二人が、ユカリから最も信頼されている日本の主力と呼ばれる程の人)


―*―*―*―*―


 世界各国に存在する拠点で、最も国の中枢を担う人々の中から選出された存在は人々から〝主力〟と呼ばれていた。


 主力達は、一人ひとりが他の隊員達とは比にならない程の属性及び身体能力を有していた。


 そして国に大きく貢献する主力達は、基本的に攻撃部隊の隊長や、支援部隊の隊長と言った代表に選ばれている事が多い。


 日本も例外ではなく、ヒナは医療班の隊長を務めており、レンは環境班の隊長及び防衛班の隊長を代行する事もあった。


―*―*―*―*―


「それでユカリ、僕らに何か用事があって来たんじゃないのかい?」


「そうなんです。ヒナ、今フィリアに属性について説明をしていたんですが、水の属性について聞きたいそうなので生徒に教えてあげて下さいヒナ〝先生〟」


 ユカリの言葉を聞いたヒナは、目を輝かせながらフィリアに視線を向けた。


「分かりました!このヒナ先生に、なぁんでも聞いて下さい!」


 そう言って胸を張ったヒナを隣で見ていたレンは、『やれやれ』と言いながら微笑んでいた。


「早速ですがヒナ先生。水属性に関して教えて欲しいです」


「そうですね〜まず基本的に水属性に関してはマイナスが特殊な性質をしている為なのか、マイナスの属性が開花した際に、プラスの属性も同時に開花する二種属使いになりやすい傾向があるんです。勿論、必ずしも二種属使いになれると言う訳ではありませんけど……ちなみにですが、私は水の二種属を使えます」


 そう言うと、ヒナは先程まで作業をしていた農場に身体を向けて説明を続けた。


「この農場で栽培している野菜に使用している水も、私の属性を使用する事によって、ここにある野菜達のように大きく美味しく実らせる事に成功したんです!成長速度も通常よりも数倍早いんですよ?」


 ヒナは具体例として、先程竹ざるに置いた収穫後の大きな野菜達を指差した。


「水の属性には、そんな特徴があったんですね」


 そう口にしたフィリアは、メモを取りながら数回頷いていた。


「闇の人間に関しては例外だけどね。彼らは属性のプラス効果を殆ど失う代わりに全ての属性で攻撃力が増加して、色も通常よりも黒く(にご)っているんだ。争いが好きな彼ららしい特徴だけどね」


 ヒナの隣で説明を聞いていたレンは、自身の知る知識をヒナの説明に付け加えた。


 説明を聞いていたフィリアは、書いていた手を止め手帳を閉じると、後ろで聞いていたユカリに振り返った。


「聞きたかった事があるんですけど……ユカリの属性は何属性なんでしょうか?」


 フィリアは、ルミナに所属する以前から気になっていた疑問をユカリに尋ねた。


 光の人間であれば誰もが知っている事だが、実在すら疑われる特性は殆どの資料で〝奇跡〟と称され、詳細について曖昧(あいまい)な情報ばかりであった。


「ルミナに所属する殆どの人が聞いてくる質問だけど……〝異質な属性〟……確かに気になるよね」


「この世でユカリだけが持つ属性ですから、皆さん気になるんですよ」


 質問を聞いていた二人は、フィリアに聞こえない小さな声で(ささや)き合っていた。


「私の属性ですか?私は、プラスの二種属使いです。ですが通常の二種属使いとは違って、一種類目の炎のプラス属性は通常通りですが、二種類目の水属性はプラス属性が〝変異〟した物なんです」


 ユカリから説明を受けたフィリアは、初めて聞いた言葉に首を(かし)げた。


「……?変異した……と言う事は、元の属性と何か違いがあったんですか?」


 そう問いかけたフィリアの言葉に、ユカリは小さく首を横に振った。


「違う……の一言で収まるものではありませんでした。私の属性の事を両親は、〝氷〟もしくは〝結晶〟の属性と呼んでいました」


 初めて聞く属性の種類に新たな疑問が生まれ、フィリアは再度質問を投げ掛けた。


「氷と結晶……水のプラス属性が有している冷却効果が強力な為に発生する結晶とは違うんですか?」


「いいえ。水属性の性質とは異なっていました。そう呼ばれる様になった原因は、私が属性を使用して〝創り出す〟物は基本的に氷柱のように、白く半透明になっているからだと思います」


 ユカリが差し出した右手には、小さく半透明な〝雪の結晶〟が揺めきながら浮遊していた。


「その属性は変異した事で、水属性とは効果も異なるんですか?」


 ユカリの手から結晶が霧のように消滅すると、結晶に向けられていた視線はフィリアへと向けられた。


「私の属性は、その特性によって〝この世に無い物を想像して創り出す〟事が出来るんです」


「この世に無い物……ですか?巨大な化物みたいな存在しない生物も創り出せるって事なんですか?」


 説明の意味を、理解出来なかったフィリアは疑問に感じた事をユカリに質問した。


 フィリアの質問に対してユカリは、再び首を横に振った。


「いいえ。この世に無い物と言うのは化物(など)ではなく、言ってしまえば〝こじつけ〟のような物です。例えて説明しますが、今私の掌には何も乗っていませんよね?」


 ユカリの手に何も乗っていない事を確認したフィリアが小さく頷くと、ユカリは説明を再開させた。


「私の掌にある……例えば〝林檎〟を想像しながら属性を使用すると、それはこの世に存在しない林檎を想像した事になり、掌に結晶で出来た味や食感が全く同じ半透明な林檎が創り出されます」


 ユカリの説明を聞いたフィリアは、先程ユカリが浮遊させていた雪の結晶を思い出した。


 (さっきの結晶は、属性を使って創り出していたんですね)


「つまり……想像した物が、その瞬間その場に存在しなければ創り出す事が出来るという事ですか?……しかも創造した食べ物を食べたり飲んだりする事も出来るんですか?」


「はい。ルミナの食事は勿論、全世界の人々が食べている食品の殆どは、私が想像して創り出した食べ物なんです」


「えっ!」


 ユカリが口にした事実に、フィリアは驚きの声を上げた。


「全世界の人が食べる食料をたった一人で!……それってかなり疲労するんじゃないですか?属性の力を出し続けるなんて」


 説明を聞いたフィリアは、ユカリが想像している間は常に属性の力を出し続けているのだと誤解していた。


「いえ、私が創り出した物との〝繋がり〟を断つと、断たれた創造物に関しては消滅する事無くその場に存在し続けるんです。それは食べ物だけでなく日本全体を覆っている闇の人間の侵入を防ぐ障壁も同じです。逆に繋がりがある物に関しては、私が壊れろと思ったその瞬間に壊れます。繋がりが既に断たれている物に関しては、例外を除いて私だけが壊すことが出来るようになっています」


「例外……と言うことは、繋がりを断っている物でも壊れる心配があるんですか?」


 フィリアの質問に、ユカリは表情を曇らせた。


「……はい。私の属性は〝自分の力以上の物は創り出す事が出来ない〟という欠点があります。惑星のように大き過ぎる物を創り出す事は出来ませんし、繋がりを保った状態の物でも私が触れ続けている物以外は、私以上の力を持つ人なら壊す事が出来てしまうんです」


「そうだったんですか……」


「私自身もいつか絶対壊れない障壁を創り出せるように日々の鍛練を続け、精進(しょうじん)しています」


 会話を続けている二人の背後(うしろ)で、収穫していた野菜を確認していたヒナが、何かを思い出すように考え始めた。


「……あっ!ユカリ!そう言えば今日って〝あの実験〟をするって約束してた日じゃないですか?」


 ヒナの言葉で実験の事を思い出したユカリが、農場に設置されている数字のみが浮かび上がった時計を確認すると、予定されていた実験を行なう時間が近い事を確認した。


「す、すみませんフィリア!予定以上に話し込んでしまっていました。本当であれば、フィリアからの質問にゆっくり(こた)える事が出来れば良かったのですが」


「えっ!私の事は気にしないで下さい!私はまだ新人なので時間に融通(ゆうづう)が効きますけど、ユカリは光の導き手なんですから」


「フィリア……ありがとうございます!明日以降、また闇属性の私に連絡してくれれば、私も出来る限り予定を合わせますから」


 ユカリの言葉に頷いたフィリアは、転移端末を手に持つと『今日はありがとうございました』と言って軽くお辞儀をした後、ルミナの入り口へと転移していった。


 三人はフィリアの転移を確認すると、同様に転移端末を使用して実験が行なわれる実験場へと転移した。

 御拝読頂きありがとうございます。


 今回は、属性に関する説明が主になりました。長々と説明しないつもりが、やっぱり長くなってしまいました。申し訳ないです。

 Twitterにて登場した人物について画像を使いながら説明します。

 ゴシック@S.kononai


 次回 第4話 動き始めた運命

 お楽しみに!

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