第34話 封じられし光
刃同士がぶつかり合う甲高い金属音が、山峡に幾度となく響き渡っていた。
(〝注ぎ〟続けるんだ!刀から、少女の身体全体に属性の力を!)
ユウトは対峙する少女の双刃を受け流しながら、正の属性による首輪の効力の低下を狙って通常よりも多く属性を結晶刀に纏わせていた。
「……防御してばかり。戦う気は……あるの?」
振るった双刃が結晶刀で受け止められ、双方の刃から炎の属性が散る中、口数の少ない少女は再び口を開いた。
「戦う気はある。だが、今の俺にはもっと大事な役目があるんだよ!」
そう伝えたユウトは少女の双刃を力で弾き返すと、同時に後方へと飛び退いた。
(属性から妙な違和感を感じたから試してみたが……目に見えて属性の色が変化している所を見ると……)
ユウトが刀に纏わせる事で与え続けた正の属性の影響によって、少女が双刃に纏われている属性の色彩が黒ではなく、色鮮やかな紅と蒼の炎に変化しつつあった。
「……試してみるか」
「……?」
ユウトは結晶刀を解除すると、両手を広げ結晶爆弾を胸の位置に創り出した。
創り出された飴玉程度の大きさの結晶爆弾を、ユウトは右手で優しく摘んだ。
「これ、なんだか分かるか?」
「……」
「この結晶の塊は、中にある属性と包んでいる属性が違う……そのバランスが少しでも違うと、即暴発する様な危険な代物だ」
ユウトは修練場での練習時に何度もバランスを間違えた爆発を受けた記憶を思い出し、多少の冷や汗をかいた。
「いきなり説明を始める意味が分からない。危険な代物……だから、何?」
少女の言葉に対して不敵な笑みを浮かべたユウトは、摘んでいた結晶爆弾を〝口〟に含んだ。
「……馬鹿?」
ユウトの行動に呆れた少女は目を細め、止めを刺す為に自身の持つ双刃に属性を纏わせた。
結晶爆弾を口の中に含んだユウトは、両手を大きく広げながら息を吸い込んだ。
「ふはえ!」(くらえ!)
『結晶光線』
ユウトが口を開くと、口内で属性力が増幅した結晶爆弾を爆発させ、結晶内に蓄積されていた属性を前方の少女に向けて巨大な光線として放出した。
ユウトは結晶爆弾を包み込む形状の転移エリアを創り出し、放散した属性は転移元として設定した自身の顔前から正面の少女に向けて収縮した状態で放っていた。
「……そんな光線……当たる筈ない」
少女は迫る光線を右に避けようとしたが、少女の両足は気付かぬ内に結晶によって地面に固定されていた。
「……はんへんへひは」(残念でした)
ユウトは初めて使用した技による不安から、閉じても問題の無い口を開いたまま、少女に向けた言葉を声に出していた。
「っ!」
少女が気付いた時には、放たれた光線が手の届く程の距離まで迫っており、抵抗する術の無い少女は氷の属性を纏った紅蓮の光線へと呑み込まれていった。
光線はそのまま流れ続け、吹き荒れる強風と轟音を響かせ、少女の後方に連なる山々を貫き結晶化させながら縮小し消滅していった。
「……これで属性は注ぎ込めた筈だ」
消えゆく冷気の中には、先程の光線によって身体の節々が結晶化している少女が立っていた。
(結晶化した部位が少ない……あの光線に双刃の斬撃で対抗したのか……確かに放った時の属性力は出来る限り抑えたが)
少女の様子から考察したユウトは、結晶刀を再び創り出し少女へ向けて構えた。
「……」
立ち尽くしていた少女は、正面に立つユウトにゆっくりと視線を向けた。
「……やっぱりだ」
少女の顔を見たユウトは、少女へ向けていた結晶刀をゆっくりと下ろした。
ユウトの正面に立っていた少女の瞳からは、涙が滝の様に流れていたからだ。
「私は」
少女は先程までとは違う光を取り戻した瞳から涙を流しながら、双刃に再び属性を纏わせた。
纏った属性には闇の属性の特徴を一切感じない程に、二色の綺麗な炎が燃え盛っていた。
「私はボスの右腕です……それ以上でも、それ以下でもありません」
少女が双刃を構えると同時に、ユウトも下げていた結晶刀を再び構えた。
「ようやく話す事が出来るな。俺はお前と戦いながらずっと違和感を感じていたんだ……本当のお前は、闇の人間になるような奴じゃないだろ」
「……」
「お前の攻撃から伝わる感情は負の感情であっても、人に対する殺意ではなかった」
「……」
少女は一言も発する事なく、ユウトの言葉を聞き続けた。
「お前の攻撃は、俺が感じ取れる程の迷い持っていた……そんな優しいお前を、闇の人間へと引き摺り込んだ奴は一体誰なんだ……闇のボスって奴か?」
「……そんな事は、もう関係ありません。私の手は拭い切れない程の血に染まってしまった」
涙を流す少女は、俯きながら言葉を発していた。
「私は属性が開花したその日から罪を背負った闇の人間で……死ぬべき罪人でした。たとえその時、身体と感情を操られていたとしても」
「……」
「この首輪、見えますか?……光の人間に転生しない様に、死ぬ時は首輪が爆発するらしいです」
「……その首輪を付けた奴がボスか?」
ユウトの問い掛けに、少女は涙ながらに頷いた。
たとえユウトによって少女が倒されたとしても、首輪が絶命する直前に爆発すれば少女は闇の人間に殺された事になり、光の人間として転生する事が出来ない。
(こんな少女の人生まで捻じ曲げて、やり直す機会までも奪うのか!)
強い憤りを感じたユウトは血が滲む程に、結晶刀を強く握りしめた。
「あの日……自分に起きる悲劇を、幼き私は想像すらしていなかった」
少女は冷たく流れ続ける涙と共に、忌まわしい記憶をユウトへと語り始めた。
御拝読頂きありがとうございます。
今回は蒼い髪の少女の呪縛を解き、自身に起こった過去について話す手前までの物語でした。
次回は少女の過去について語られます。
次回 第35話 愛し愛されて
お楽しみに!




