第32話 Diabolus Radiorum
※心の中では「」と()の意味が逆転しています。
「」 心の声 () 会話
「何がなんでも……止めてやる!」
視界を埋める程巨大な隕石は、黒い炎と共に速度を上げながらルミナへ向けて落下し続けていた。
(俺の内にある全ての力を出して……光の人々を救ってみせる!)
ユウトは両手に結晶の拳を纏い、炎の核のあるはずの場所に結晶で出来た核を創り出した。
「出来なかった時の事は考えない……必ずやり遂げる!ユカリにそう誓ったのだから!」
結晶の核から大量の冷気が広がり、ユウトの身体に小さな結晶が纏わり始めた。
バキッ
ユウトが隕石との距離を詰めていた時、突如隕石に大きなヒビが入った。
(っ!ヤバイ!)
『神代わりの一手』
背中に創り出していた結晶の翼を横に大きく広げ、その場で静止したユウトは結晶の核に蓄積された全ての属性を前方へと放った。
放たれた属性は、隕石全体を包み込むと形状をキューブ状に変化させた。
透明な結晶に包まれた瞬間、ヒビの入った隕石は強烈な爆発と共に包囲した結晶が小刻みに振動する程の衝撃波を放った。
(くっ!なんて……力だ)
衝撃波を受けたキューブ状の結晶は壊れる事は無かったが、属性を解放し続けているユウトの腕に亀裂が入った。
「ぐっ……まだだ!まだ、足りないっ!」
ユウトは腕の痛みに屈する事なく属性を解放し続けると、属性を放つ結晶の核が徐々に光を帯び始めた。
「ここで終わったら……意味ないだろ!俺は、ユカリを守る為に存在しているのだから!」
―*―*―*―*―
心の中
バキッ
白い空間の中にポツンと存在していた闇のドームに、突如白い光を帯びた亀裂が走った。
(ふぇっ!な、何今の音!)
(スヤァ……)
雪景色の中、相変わらず銃の手入れをしていたユウト(女)は突然の音に肩をビクつかせて驚いた。
ユキはアイリ達との戦いによる疲労で、降り積もった雪に埋もれる様に丸くなって眠っていた。
(ねぇユキ!冬眠してる場合じゃないよ!……ねぇ起きてよ!……寝たら死ぬよ!)
(スヤスヤ)
「寝たら起きないの、どうにかならないかな?」
ユウト(女)が起こす事を断念する頃には、ドームに入ったヒビは徐々にその範囲を広げていき、甲高い音と共に砕け散った。
(……まさかここまでやるとはな。仕方ねぇ、俺の力を使わせてやる!……その後にどうなるかは、お前次第だからな)
黒い人型は天に向けて右腕を上げると、緩やかにその姿を消していった。
「あれが……ユウトの〝心の闇〟」
ユウト(女)は冬眠しているユキに膝枕をすると、人型が消えていった空を見上げた。
―*―*―*―*―
「限界を超えて……俺自身の役目を果たす!」
先程までユウトに纏わり付いていた結晶は、ユウトの身体全体に広がり薄く包み込んだ。
纏った結晶が消えゆく中、その中から現れたユウトは、ルミナの隊服とは対照的な黒を基調とした衣服を身に纏い、絹糸のように艶のある黒髪を揺らしながら、烈火の如き紅の瞳で隕石を見つめていた。
「ユカリを守る為に存在する……〝俺自身〟の力を見せてやる!」
『創造の解放』
ユカリに酷似した姿へと変貌したユウトは、キューブ状の結晶を先程よりも遥かに強固に固まると、そのまま中の隕石諸共粉々に粉砕した。
空中に煌めく雪の結晶以外に隕石による残火は無く、数秒流れた静寂は光の人々の歓声によって掻き消された。
「……あれが、ユウト?」
空中に浮かぶ少女を見つめ、呆然と立ち尽くしていたユカリは小さく言葉を漏らした。
「あの隕石を消滅させるなんて……」
そう口にしたヒナは、力なくその場にへたり込んだ。
「ユカリ!」
そんな時、二人は背後から聞こえた聞き慣れた少年の声に振り返った。
「ようやく辿り着いた!ユカリ、怪我はないか?」
「え?……〝ユウト〟?」
目の前にいるのは、先程隕石の脅威から人々を救った人物と同じ容姿をした少年だった。
「そうだけど……当たり前の事聞くなよ」
「それじゃあ……あそこにいるユウトは?」
「は?何言ってるんだよユカリ。どこからどう見ても俺がユウトだろ?第一あいつは女じゃないか」
上空を指差したユウト?の言葉通り、容姿の変化したユウトに対する不信感に加えて、ユカリはある違和感を感じていた。
(確かにあの女の子からは以前感じていた〝繋がり〟を感じない。そして逆に目の前にいるユウトからは、その繋がりを感じることが出来る)
「え?……え?どういう事ですか?私にはよく解らないんですけど」
ヒナは上空に浮かぶ少女と、目の前にいるユウト?を交互に見比べ頭を抱えていた。
「要するにあいつは、俺の名前を語った偽物だって事だよヒナ」
「そんな……でも、あの女の子は脅威から私達を守ってくれたんですよ?そんな子が……」
「そんなの、俺達光の人間を油断させる為にやった自作自演に決まってるだろ?それに、俺はどんな事があってもユカリの言葉を信じているし、ユカリに向けて攻撃する事も無い」
ユウト?の迷いのない言葉を聞いたユカリは〝ある決断〟を決めると、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……」
上空から降りてきたユウトは結晶の両翼を解除すると、ユカリへと歩み寄った。
「ユカリ、終わったぞ」
「…………近づかないで下さい」
ユカリから予想だにしていなかった反応が返って来たユウトは、ピタリと歩みを止めた。
「……どういう事だ?ユカリ」
「それはこっちの台詞だよ……偽物野郎」
ユカリに意識を向けていた意識を声の主に向けたユウトは、存在する筈のない自分自身がユカリの隣に立っている事に気が付いた。
「えっ!な、なんで俺が二人いるんだ?」
「は?何言ってやがんだ偽モンが!……ユウトは俺一人しか存在していない!」
「お前……何言ってやがんだ!ユウトは俺だ!」
「その姿でよく言えるな?どう見たって別人だろうが!」
ユウトは目の前にいるユウト?の言葉を聞くと、自身の身体に感じた違和感について情報を整理した。
(そういえば、なんかいつもより声が高い気がする。それに、身体が凄く軽くなった気がする……なのにいつも以上に胸の辺りだけ重い。首元も妙に蒸れるし……どうなってるんだ?)
ユウトは自身の身体を確認したが、以前より身体が柔らかくなった事と、視線を下に向けても障害物があり身体の下まで確認出来ない事だけは理解出来た。
「……いや、そんな事どうでも良い!姿が変わろうとも俺はユウトだ!その事実だけは変わらない!」
「それならユカリに聞いてみるか?ユカリ……どちらが本物のユウトだと思う?」
不適な笑みを浮かべたユウト?は、選択権をユカリに託した。
「……」
選択を委ねられたユカリは、ゆっくりと背後に立っていたユウトに振り返った。
「俺とお前は繋がっているんだ……その繋がりが真実を伝えてくれる筈だろ?」
少女の姿をしたユウトを見たユカリは、決心するように小さく息を吐いた。
「……そうですね」
そう告げたユカリは、少女の姿をしたユウトに向けてゆっくりと右手を翳した。
「この国から出ていって下さい……〝偽物〟さん」
「…………え?」
その一瞬だけ強く吹いた風は、ユウトの髪を悲しく靡かせた。
御拝読頂きありがとうございます。
今回は隕石の脅威が消え、ユウトがユカリに拒絶されるまでの物語でした。
ユウト?は一体何故繋がりを持っていたのか。
何故ユウトと同じ姿をしているのか。
全ての謎が明かされるのは、もう少し先のお話です。
次回 第33話 破局する心
お楽しみに!




