第30話 世界で一番大切な貴方へ
ティーレは片方の刃が砕けた双頭刃式槍に属性を纏わせると、左手で回転させ始めた。
「私の全てをこの一撃に捧げる。私の大好きなアイリの為にも!」
決意を叫んだティーレの右手を、アイリは優しく握り締めた。
「アイリ?」
「違うでしょティーレ……最後の一撃は〝私達の全力〟だって事、忘れないでよね?」
そう告げたアイリは、薙刀をゆっくりと前方に掲げた。
「アイリ……うん!次の攻撃は、二人の力で!」
ティーレは、双頭刃式槍の回転を止めるとアイリの薙刀に双頭刃式槍を重ねた。
重なり合った双刃は、互いに属性を纏うと紅の雷による雷鳴を激しく轟かせた。
「雷のマイナス属性のみを重ね合わせた槍か……強敵だよ、ユキ」
「心配ないわ……だって、私達は彼女達を救う為に存在している……でしょ?」
「ああ、勿論だよ!」
二人はアイリ達と同じ様に、刀を交差させる様に重ね合わせると、互いに属性を纏わせ始めた。
「私は負けない!アイリを二度と死なせない為に……」
ティーレの言葉を聞いたアイリは、握っていた手の力を強めた。
「アイリ痛いよ」
「ティーレ……負けたって良いのよ?」
アイリはそう言うと強めていた力を緩め、ティーレを見つめた。
「私は……ティーレさえ側にいてくれれば」
アイリは優しく微笑んで、ティーレに初めて胸の内を打ち明けた。
「アイリ……」
アイリからの思いがけない言葉を聞いたティーレは、一筋の涙を流していた。
「でもね、たとえどんな結末になっても後悔だけはしたくない!ティーレ、後悔の残らない……最高の一撃で終わらせましょう!」
「うん!アイリ……二人で、一緒に!」
アイリの決意を聞き涙を拭ったティーレは、決意の眼差しを相対する二人に向けた。
二本の雷は槍先で絡み合い、赤い閃光を放ち始めた。
「私達だって、負けられない!あんた達二人の呪縛を断ち切る為に!」
「終わらせてあげよう。光の……主力として!」
二人の刃からは、紅の爆発と共に白銀の結晶が舞い広がった。
「「私達の〝絆〟を受け止めて!」」
『真実の絆』
二つの槍先を交差したまま、二人の少女は前方へと突き出しながらユキ達に向けて突撃した。
「「その悲しき呪縛を終わらせて見せる!」」
対する二人の刃からは、交差された最大限の斬撃が放たれた。
『己の存在意義』
両者の技がぶつかり合った瞬間、凄まじい音と衝撃波を発生させルクス全体を震動させた。
周囲に放たれた衝撃波と、ぶつかり合う属性によって床と天井は傷付き、技同士の衝突によって階層内に突風が巻き起こしていた。
「くっ!まだまだよ!」
「僕達は、負けない!」
「私が・僕が」
「「二人を、必ず助け出す!!」」
ユキとレンが叫んだ瞬間、斬撃は更に威力を増し少女達を押し負かし始めた。
「「私達だって」」
「「負けられない!!」」
パキィィィィン
少女達は自身の全属性を出してユキ達との均衡を保っていたが、最後は少女達二人の武器が同時に砕けた事で決着を迎えた。
―*―*―*―*―
「アイリ……」
「……大丈夫よ。二人でいれば、怖い物なんてないんだから」
もう二度と離れる事が無い様に、二人はお互いの手を強く握り締めた。
(どこに行こうと離れない。私の、世界でたった一人の大好きなアイリ……)
ティーレは隣に立つ少女に対しての想いを胸に、ゆっくりと眠りについた。
(ねぇ……私の想い、ちゃんと届いたかしら?世界で一番……大切な貴方へ……)
アイリは消えゆく少女の手を握り締めながら微笑むと、二人は光の中へと消えていった。
御拝読頂きありがとうございます。
今回はアイリ&ティーレ戦が決着するまでの物語でした。
前回が長い為に、こちらが短くなってしまいました。
戦いが終結した一方、ルミナでは謎の少女が語っていた終焉の日へと刻々と進み始めた。
次回 第31話 終焉宣言
お楽しみに!




